表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第三卷:天南築基編一八方塞がり·正魔大戦
185/287

罠一築基期69

「私は…」


「貴様が散修などと名乗るのはやめておけ。そんなことは言われる前から全く信じていない」

 韓立は無表情で相手の言葉を遮った。


 韓立にそう言われて、「曲魂きょくこん」は苦笑いを漏らした。どうやら彼はまだ諦めきれておらず、そう言おうとしていたらしい。


 そこで「曲魂」は少し躊躇した後、力なく言った。


道友どうゆうが疑う通り、私の身分は確かに少し特殊だ。越国えっこくの修士ではない」


「我が越国の者ではない?」

 相手の最初の一言を聞いただけで、韓立は表情を微かに変え、内心驚いた。


「私は実は天都国てんとこく御霊宗ぎょれいしゅうの修士だ。越国を遊歴していた」

 曲魂はゆっくりと言った。


魔道まどう御霊宗!」


 韓立は思わず目を細め、刀剣のような鋭い光を放った。


「そうだ。私は数年前に貴地に来たが、訳も分からず貴国の高深な法力を持つ修士に法体ほうたいを破壊され、こんな有様に落ちぶれた」

 曲魂は肉体を破壊された話になると、無念の表情を見せた。


 韓立は少し考え、眉を上げて尋ねた。


「肉体を破壊されたのは五、六年前か?」


 韓立の声は極めて平静だった。曲魂はこの言葉の真意を読み取れず、素直に答えた。


「ああ」


「この身体に乗り移って数年、戻ろうとは思わなかったのか?」

 韓立は動じずに尋ねた。


「もちろん思った。だが、貴殿は我ら魔道のことをあまりにも知らなすぎる」

 曲魂は顔いっぱいに無念の色を浮かべた。


「どういうことだ? 魔道のことは多少知っているが、それは断片的な噂に過ぎない」

 韓立は避けることなく認めた。


「我ら魔道は弱肉強食じゃくにくきょうしょく強権即真理きょうけんそくしんりを旨とする。どんな実力があって初めて、どんな権力を享受できる。そして私が当時御霊宗で占めていた地位は低くなかった。花のように美しい同修道侶どうしゅうどうりょや、使役しえきする弟子たちもいた。しかし今、私の修為しゅういは大きく減退した。戻れば、それらが再び私のものになるとでも思うか? 十中八九、私の座を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていた師兄弟たちに、闇討ちに遭うだろう」

 曲魂は冷笑を交えて説明した。


 韓立はそれを聞いて眉をひそめたが、何も言わなかった。


 曲魂はさらに続けた。


「私は奪舎だっしゃによって修為が急激に低下したのだ。だから私は確信している。三、四十年も隠れて修練すれば、修為は必ず元通りになる。その時こそ堂々と戻れるのだ。さもなくば、道友は私がこんな鳥もふんをしないような場所にいたいと思うか?」

 曲魂の言葉には、腹立たしさが満ちていた。


「つまり、お前は嘉元城かげんじょう近くに潜み、他の修士には一度も会わなかったというのか?」

 韓立の表情は淡々としており、全く動じる様子はなかった。


「ない。道友は私が奪舎してから会った、最初の越国修士だ」

 彼はあまり良くない顔色で言った。


「なぜ最初からそう言わず、霊獣山れいじゅうざんの修士を名乗った?」

 韓立は油断せずに追及を続けた。


「貴殿が七派しちはの修士かもしれず、私に危害を加えるのではないかと思ったからだ」

 彼は気まずそうに言った。


 ここまで聞いて、韓立は突然笑った!


「これがお前の真実か?」

 韓立はとても穏やかな口調で言った。しかしその表情は「曲魂」の背筋を凍らせた。


「ああ…? まさか道友は何か不満でも?」

 彼は慎重に尋ね、不安げな表情を浮かべた。


「私はかつて人から聞いたことがある。この世で最も人を騙しやすい嘘は、七分が真実で三分が嘘だという。貴様が今言ったこと、何分が真実なのか?」

 韓立は相手の両目をじっと見つめ、一語一語を噛みしめるように言った。


「ははっ! 道友は疑い深すぎる。先ほどのは確かに一言一句真実だ」

 曲魂はまずいと分かっていながらも、真実を言った場合の結果を考えると、意地でも押し通すしかなかった。


「それならば、まず私から一つ知らせておこう。お前たち魔道六宗ろくしゅうはすでに我が越国に侵攻してきた。つまり我々は今、敵対する勢力だ。よって、これ以上秘密を詮議せんぎする気もない。今すぐお前の元神げんしんを引き抜いて滅ぼしてしまおう。時間の無駄だ」

 韓立は険しい顔で、陰険に言い放った。


 この言葉が口から出るや、苦労を味わったばかりのこの男は、顔面蒼白がんめんそうはくとなった。


「貴国に侵攻? そんなはずはない、まだ時は来ていない!」

 この男は焦りのあまり口を滑らせると、「サッ」と顔色を失い、後悔の色を見せた。


 一方、韓立は内心驚いた。


「お前はこのことを知っていたのか? どうやらお前を侮っていたようだ。しかし、たとえお前が御霊宗でどんな高い身分だったとしても、今はただの煉気期れんきき修士に過ぎない! 私が冷酷非情だと思わないでくれ」

 韓立の眉がゆっくりと逆立ち、殺気を帯びた表情を浮かべた。


 続けて韓立は手のひらを返すと、「聚魂鉢きょこんはち」が再び現れた。たちまち陰寒いんかんの気が再び立ち込める。


 韓立が驚いたことに、「曲魂」は恐怖の色を見せず、鉢をじっと見つめ、奇妙な表情を浮かべていた。


 この光景を見て、韓立は内心少々不安になった。


 彼が「煉魂術れんこんじゅつ」など使えるわけがない。ただ相手を脅かしているだけだ。もし相手が本当に死を恐れず口を割らないなら、韓立も曲魂の身体ごと滅ぼすしかなかった。しかし、彼が新たに得た血祭ちまつりの秘術の中には、魂を引き抜く方法も幾つかあった。残念ながら、まだ修練する暇がなかったのだ。


 韓立がそう考えている時、この「曲魂」は幽かに長嘆ちょうたんし、突然言った。


「確かに私には秘密がある。そしてそれはお前たち七派の存亡に関わるものだ。しかし、私が話した後、私を見逃すとどうして保証できる? おそらく大半は、やはり煉魂の末に死ぬことになるだろう!」

 彼が「煉魂」という二文字を口にした時、思わず顔の皮がピクッと痙攣けいれんした。


 韓立は相手がそれほど重大なことを言うのを聞き、鼻を揉むと、手を振って鉢を再びしまった。


「お前はどんな保証が欲しい? 合理的ならば、考慮しても良い」

 韓立は普段通りの口調で言い、相手の大言壮語たいげんそうごなど眼中にないようだった。


「ふん! 普通の誓いなど信じない。しかし、私の知る限り『煉魂術』を修める者は、魂器こんきで誓うことを最も忌み嫌う。もし誓いを破れば、煉魂術に反噬はんせいされて死に、その末路は凄惨せいさんを極める。貴殿に魂器で誓ってもらいたい。私が実情を話した後、もしそれでも毒手どくしゅを下すなら、魂器は破裂し、自ら煉魂の苦しみを受けると」

 曲魂は一瞬の迷いもなく言った。


「よかろう、承諾した!」

 韓立は一瞬の躊躇もなく応じたが、心の中では冷ややかに嘲笑あざわらい続けていた。


 続けて韓立は「聚魂鉢」を取り出し、相手の言う通りに毒誓どくせいを立てた。


 韓立があっさりと誓いを立てるのを見て、「曲魂」はかえって疑いを抱き、何かおかしいと漠然と感じ始めた。


「毒誓は立てた。これ以上条件を出すつもりはなかろうな?」

 韓立は動じることなく、相手にその奇妙さを考えさせる隙を与えず、わざと不満の意をあらわにした。


「もちろんない。欲張って自滅する末路は知っている。ただし、秘密を話す前に、道友には我ら魔道とお前たち七派の現状を教えてもらいたい。これらの情報が古くなっていないか分からないからだ」

 曲魂は案の定、気をそらされ、無理に笑いながら説明した。


 韓立の顔に一瞬の躊躇が走ったが、やがて七派と魔道の現在の状況を少し説明し始めた。


「曲魂」は非常に熱心に聞いていた。しかし、一ヶ月余り後に双方が決戦を始めると聞いた時、彼の口元に嘲笑の影が浮かんだ。韓立は相手の表情を注意深く観察し、それをはっきりと捉えていた。


 説明を聞き終わると、曲魂は少し考え込むと、話し始めた。


 しかし、その最初の一言は、韓立に確かに大きな衝撃を与えた。


「道友が私の一言に耳を傾けてくれるなら、今は七派の本営に向かう必要など全くない。なぜなら今の七派と他の二国の修士連合軍は、おそらくすでに大敗を喫しているはずだからだ。行っても死にに行くだけだ」

 彼は奇妙な表情を浮かべて言った。


 韓立は表情を変えず、ただ冷たく相手を見つめ、その後の説明を待った。


 この御霊宗の修士は、韓立がこれほど冷静であることに幾分の感嘆を覚えると同時に、心の中でますます韓立を警戒し、口を開き続けた。


「お前たちはおそらく知らないだろうが、霊獣山はその立宗りっしゅうから今まで、ずっと我ら御霊宗と密かに繋がり続けてきた。前回の偽装反乱ぎそうはんらんは、もし見誤っていなければ、我ら六宗がわざと流した煙幕えんまくだ。他の二国の修士が到着するのを待ち、一挙に三国の修士を一網打尽にするためのものだ。この戦いが終われば、我ら魔道六宗は数国を独り占めできるだろう」

 彼は韓立に心臓を凍らせるような秘密を一つ語った。


「煙幕? そんなこと、むしろ余計ではなかろうか? 霊獣山は自ら御霊宗との関係を明かしたのだ。もし言わなければ、もっと良かったはずだ」

 韓立は衝撃を受け、顔色を悪くして言った。


「道友は本当に、他の六派が霊獣山の来歴を知らないと思うか? お前たち七派の中で、霊獣山が我ら御霊宗の分派ぶんぱであるだけでなく、実力最強の掩月宗えんげつしゅうも我ら六宗の中の合歓宗ごうかんしゅうと深い縁があることを知っているか? ただし掩月宗は数百年前に本当に合歓宗との繋がりを断ち、野心を持って独立しようとしているだけだ」

 御霊宗のこの男は、またもや韓立を驚かせる言葉を口にした。


「たとえそうだとしても、霊獣山を隠すために、犠牲になった他の修士はともかく、自らが仕組んだ襲撃で二人もの結丹期けったんき修士が死んだのは、どう考えても説明がつかない!」

 韓立は軽く眉をひそめながら、ゆっくりと言った。容易には信じようとしない様子だった。


「結丹期修士の死がなければ、他の六派が簡単に信じると思うか? それにお前たちは本当に死んだのが結丹期修士だと思っているのか?」

「曲魂」は冷笑を交えて言った。


「お前の言葉の意味するところは…」

 韓立は意外そうに「曲魂」を見つめた。


「私の知る限り、築基期ちくきき修士を強引に結丹期並みの修為にまで引き上げる秘法は、我ら魔道六宗に二、三種類ある。もちろん、これらの方法にはそれぞれ大きな欠陥があり、基本的に一度使った修士は必ず経脈寸断けいみゃくすんだんで死に至る。しかも修為が持続する時間は哀れなほど短い。しかし、その短い時間でお前たち他の六派の耳目じもくを欺くには十分だろう。何しろ襲撃戦は、長く芝居を打つ必要はないのだから」


 ここまで聞いて、韓立は黙り込んだ。彼はすでに三分の信憑性を感じていた。


 想像に難くない。七派と他の二国の修士連合軍が大陣を布いて魔道六宗と対峙たいじしている時、連合軍の全ての手配を既に見抜いている魔道は、霊獣山の裏切りによって容易に七派の陣形を引き裂くだろう。その時、大陣の庇護ひごを失った七派連合軍は、決して魔道六宗の敵ではなかった。


「たとえお前の言うことが本当だとしても、決戦の時はまだ来ていない。もし私が急いで知らせに行けば、逆転勝利できるはずだ。なぜ逃げなければならない?」

 韓立はしばらく考えた後、少し悔しそうに尋ねた。


「お前は本当に、我ら魔道が約束の時間通りに決戦を始めると思うのか? 元々の計画では、相手を惑わし、時間差をつけて奇襲をかける決戦計画があったことを知っているか? 具体的な時間は分からないが、私は数日以内に我ら魔道が突然、お前たちの本営を襲撃すると推測する。何しろその時のお前たちは、決戦前で最も油断している段階であり、人手もまだまだ揃っていない。道友は残された時間で、この知らせを戦場に届け、上層部に信じさせることができると思うか?」

 この男は口元をゆがめ、明らかに他人の不幸を喜ぶような表情を浮かべていた。


 ここまで聞いて、韓立はついに表情を変え、心に一抹の不安がよぎった。


 もし七派が本当に大敗すれば、彼の日々は確かに楽ではなくなる。越国に残って魔道に追われるか、他国へ撤退して流転るてんするか、あるいは伝送陣でんそうじんを修理して、見知らぬ地で新たな修練生活を始めるしかないのだ。


「貴様は魔道の計画をよく知っているようだな。本当に身分が低くなかったと見える。心配するな、貴様の具体的な身分には興味はない。ただもう一つ尋ねておく。お前はこれほど多くを語ったが、何か証拠はあるのか? まさか口先だけで、私が完全に信じると思っているな?」

 韓立は考えた後、真剣に尋ねた。


 韓立にそう尋ねられて、この御霊宗の修士は呆気にとられ、続いて苦笑した。


「私は危急の際、元の肉体すら失った。道友は、何か証拠を残せたと思うか? 実は道友が少しでも辛抱強ければ、数日待てば戦いの風聞ふうぶんを聞けるはずだ」

 この男はさもありげに言った。


 しかし、この言葉を聞いた韓立は冷笑した。


「肉体がなければ、元神はどうやって逃げ出せた? 貴様が当場で撃ち殺されなかった以上、法器などの重要品を別に隠していないとは信じられん」

 韓立は冷たく言ったが、その内容は核心を突いており、「曲魂」の苦笑を凍りつかせた。


「へへっ…! どうやら本当にお見通しのようだな。確かに私は本宗と霊獣山の往復書簡おうふくしょかんが記された玉簡ぎょくかんを隠している。実は数年前に越国に来たのは、この情報を持ち帰る役目だったのだが、思わぬことに…」

 見破られた彼は、少し気まずそうに言った。


 相手がついに認めたのを聞き、韓立は心の中で嘆息した。この男の本当の年齢は分からないが、実に狡猾こうかつきわまりない。どうやらさらに警戒を強める必要がありそうだ。


「物はどこにある?」


 続けて韓立は遠慮なく尋ねると同時に、目つきで相手の身体のあちこちを探った。


「玉簡を入れた収納袋ストレージポーチは、身に付けていなかった。近くの洞窟に置いてある。道友を案内しようか?」

 今の「曲魂」は非常に協力的に見せた。


「身に付けていない?」

 韓立の目が光り、疑いの色を浮かべた。


「分かっているだろうが、今のこの身体は実は僵尸きょうしの体だ。常人よりはるかに頑丈だが、同時に感覚の大部分を失っている。収納袋を身に付けたまま、うっかり落としても気づかないのが怖くてな。だから普段は、収納袋を住処に置いてある」

 この男は、韓立が聞いても違和感を覚えるような苦しい理由を並べた。


 しかし韓立は何も言わず、念入りに相手の身体を探った。本当に何も見つからなかった後、冷たく再び尋ねた。


「洞窟はどこだ? 私が物を取りに行く」


 韓立がこれほどまでに慎重なのを見て、「曲魂」は鬱陶しそうな顔で場所を教えた。


 韓立はそれを聞いてうなずき、去ろうとした。しかし突然何かを思い出し、振り返ってもう一つ尋ねた。


「どうやってこの身体に入った? 元々魂魄こんぱくも元神もない身体で、奪舎の手間は省けたとはいえ、やはり修士の肉体ではないぞ?」


 韓立は本当に興味があった。


「分からない!」


 相手の答えに、韓立は顔を曇らせた。しかし彼がさらに何かを言う前に、相手は慌てて説明を加えた。


「本当に分からないのだ! 当時、私は重傷を負った身体を引きずりながら嘉元城にたどり着いたが、完全に限界だった。急いで元神出竅げんしんしゅっきょうし、奪舎できる修士を探してあちこち歩き回った。しかし辺り一帯を探しても、一人の修士にも出会わなかった。絶望に陥りかけた時、ようやくこの元神のない僵尸の身体を見つけた。私は藁にもすがる思いで、試しにこの身体に入ってみただけだ。ところが、何の問題もなかった。これには私も驚いたよ」


 ここまで話す時、この御霊宗修士も不思議そうな表情を浮かべていた。


 韓立はそれを聞いて黙り込んだ。相手を一瞥いちべつすると、突然再び彼のそばに戻り、「曲魂」の身体にさらに二枚の「定神符ていしんふ」を貼り付けると、闇の中へと消え去った。


 その場に立ち尽くす「曲魂」は、まず苦々しい表情を見せたが、韓立が去って間もなく、両目に一筋の不気味な光を宿した。


 ……


 相手の言った場所に従い、韓立は正確にその洞窟を見つけた。入口はそれほど広くなさそうだった。


 韓立は手を上げ、収納袋から月光石げっこうせきが一つ飛び出し、自分の頭上に浮かんで周囲を照らした。


 それから、その真っ暗な洞口を見つめ、少し考え込むと、白鱗盾はくりんじゅん亀甲きっこう法器を呼び出し、自分の前に構えてから、慎重に洞窟の中へと入っていった。


 洞窟は韓立が予想した通り、それほど広くなかった。七、八丈じょうほど進むと、一枚の岩壁が行く手を塞いでいるのがかすかに見えた。どうやら洞窟の奥底に着いたようだ。


 韓立は鋭い目つきで周囲を見渡した。異常は見当たらない。ようやくうつむいて地面を見た。


 相手の言う通り、収納袋は大きな青石の下に隠してあるはずだ。簡単に見つかるだろう。


 確かに、片側二丈ほどの所に、高さ数尺しゃくの黒ずんだ物体が石のように見えた。


 韓立は深く考えず、数歩近づくと、月光石の柔らかな白い光を借りて、凝視した。


「ヒッ!」

 韓立は冷気を吸い込んだ。


 それは石などではなかった。無数の白骨が高く積み上げられ、その上にはぼんやりとした血肉が残り、かすかな血生臭さを漂わせていた。


 韓立は衝撃を受け、少し注意を払うと、白骨は虎やひょうのような猛獣のものであることに気づいた。その上には噛み跡が残っており、何かに咀嚼そしゃくされたかのようだった。


 ここまで見て、韓立は心の中で何かを悟り、まずいと思った。慌てて後退ろうとした。


 しかし、その時はすでに遅かった。黒い影が一閃いっせん、どこからともなく飛び出し、韓立の白鱗盾に激しくぶつかった。


 瞬間、強烈極まりない巨力が伝わり、韓立は盾もろとも瞬時に吹き飛ばされ、背後の洞壁に激しく叩きつけられた。その衝撃で韓立は即座に気絶しそうになった。


「何の化物ばけものだ!?」

 激しい痛みの中、韓立は驚きと怒りが入り混じった思いで考えた。


 しかし韓立が洞壁から落ちる間もなく、黒い影は再び跳躍して韓立に襲いかかってきた。


 韓立は大慌てし、反射的に二つの防御法器を同時に前に構えた。


「カーン」という澄んだ音がした。韓立は意外に思った。


 今回は巨力は伝わってこなかった。しかし最前面に構えた白鱗盾は、「ガシャン」という音と共に、見事に真っ二つに割れ、地面に落ちた。


 この光景を見て、韓立は驚愕のあまり舌を噛みそうになった。


 これはあまりにも信じがたい! 「白鱗盾」があの化物に斬り裂かれたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ