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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第三卷:天南築基編一八方塞がり·正魔大戦
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四大血侍一築基期60

 

「そうとは限らんぞ!」韓立は冷たく嘲笑うように言った。


 続いて、韓立が両手で印を結び猛然と引くと、青い光の防壁を囲んで猛攻していた複数の法咢器(ほうき)が長く鳴り響くように天へ舞い上がり、半空で一つに集まった。


 この光景に青紋(せいもん)道士は一瞬呆然とした。韓立が何を企んでいるのか見当もつかない。しかし彼もずる賢い老獪、韓立に悠長に法術を唱えさせるわけにはいかない。すぐさま両手をかざすと、そこには金色に輝く二つの輪が現れた。その輪には冷たい気配が漂い、並のものではないことが一目で分かる。


「行け」


 青紋道士が低く呟くと、ためらうことなく輪を放った。二つの輪は二筋の金色の光と化し、一直線に韓立めがけて襲い掛かる。


 韓立の眉が一気に吊り上がり、一つの掌に白燐盾(はくりんじゅん)を構え、顔には殺気がみなぎった。


 しかし、彼がその法咢器(ほうき)を投げようとするより前に、三筋の緑色の光芒が横合いから飛来し、道中の空中で二筋の金光を遮った。すぐに激しい打ち合いが始まる。


妖道士(ようどうし)()っしを忘れたわけではあるまいな?」あの(おう)師兄(しけい)が緑の光芒を操りながら、韓立に向けて好意を込めて笑いかけた。


 これを見て、韓立は内心で安堵すると同時に、笑みを返した。


 しかし、青紋は二人ほど余裕などなく、顔色は曇り、目つきは不安定に揺らぎ始めた。


 だが一瞬だけ見せた狼狽(ろうばい)はすぐに消え、再び落ち着いた様子を見せた。


 もはや策がない。青木真罩(せいもくしんしょう)鎖金環(さきんかん)を同時に操るだけで、彼の神識(しんしき)はほぼ限界まで圧迫されているのだ。韓立のように大衍決(だいえんけつ)を学んだわけでもないし、これほど多くの法咢器(ほうき)を同時に操ってなお楽々とは到底できない。ゆえに、手元にまだ使える法咢器(ほうき)が幾つかあったとしても、気軽に使えるものではなかった。神識(しんしき)をすべて法咢器(ほうき)の操縦に注ぐことは、修仙者にとって大いなる禁忌だった。そうすれば、法咢器(ほうき)の持ち主は迫り来る危険に気づくことができないのだ。


 一方、韓立が十数もの法咢器(ほうき)を一斉に操って攻撃するというまれな光景は、それらの法咢器(ほうき)が一揃えで使われるものだからこそ可能なことであり、実際に消費される法力(ほうりき)は三つの法咢器(ほうき)を操るのに相当する程度に過ぎなかった。もし本当に十数個の別々の頂級法咢器(ほうき)だったなら、韓立の今の実力では、神識(しんしき)がどれほど強く分神(ぶんしん)がいくつあろうと、法力が足りなければそれらを動かすことさえ不可能だった。五つ前後が、韓立の法力の限界だったのだ。これこそが、韓立がセットの法咢器(ほうき)を好んで使う理由であり、そうすることで彼の大衍決(だいえんけつ)の真価を発揮できるのだ。


 もっとも、韓立がかつて煉気期(れんきき)の時、「金蚨子母刃(きんぷしぼじん)」の八本の子刃を操れたのは、御咢器(ぎょき)などとはとても言えず、単に手にした母刃を通じて子刃を操るだけであり、威力も機敏さも今とは比べ物にならず、全くの別物だった。


 青紋が少し躊躇(ちゅうちょ)し、別の手を打つべきかどうか迷っている間もなく、韓立は法術の準備を完了した。


巨剣術(きょけんじゅつ)!」


 冷たい言葉が韓立の口から飛び出す。


 続いて青紋の頭上に集まっていた全ての法咢器(ほうき)が、(まばゆ)いばかりの光を放った。


 各色の光芒が混ざり合った瞬間、それらは空に懸かる金色、黒色、赤色の三色が交錯した巨大な光の剣へと姿を変えた。その大きさは数十丈にも及び、まさに驚異的な巨体だった。


 この「巨剣術(きょけんじゅつ)」という御剣(ぎょけん)の法は、韓立が青元剣芒(せいげんけんぼう)全篇が記された金頁から見つけたものだった。これもまた、韓立が築基期(ちくきき)の実力で現在使用可能な唯一の御剣術(ぎょけんじゅつ)であり、威力は当然、尋常ではなかった。


 青紋と王師兄(おうしけい)法咢器(ほうき)は相も変わらずもつれ合っていたが、二人は同時に驚愕の色を浮かべた。どんな愚か者でも、韓立のこの術の威力の大きさを見ればすぐに分かることだった。


 青紋は内心で舌打ちし、もはや二つの金環には構っていられなかった。両手をひらりと翻すと、掌にまた一つ、磨き上げられた輝く黄銅鏡(おうどうきょう)が現れた。


 ちょうどその時、韓立が真顔のまま巨大な光剣を指さす。


 巨剣はただちに音も無く天から猛然と斬り下ろした。まさに防壁ごと、中にいる人間ごと一刀両断にするような、恐ろしいほどの気勢だった。


 この光景を見た王師兄(おうしけい)も、青紋が手一杯の隙に相手の法咢器(ほうき)を破壊しようとすることを忘れ、ただ巨剣が落下する驚天動地の気迫を見つめて、やや呆然としてしまった。彼の頭の中は、もしこの一撃が自分に向けられたら果たして防げるだろうかという、あれこれの妄念でいっぱいだった。


 真っ向から襲いかかる青紋道士は顔色を極めて慎重なものに変え、焦って手にした黄銅鏡(おうどうきょう)を上へと放り投げた。


 銅鏡は素早く光の防壁の上まで上昇し、黄光が一閃すると、一丈ほどの大きさの黄雲を噴き出し、青紋の頭上を覆った。瞬く間にその黄雲は固まって巨大な銅盾と化し、彼の頭上でくるくると回転し始める。


 韓立の顔色が一気に曇った。彼は手を猛ったく組み、印を結ぶ。巨大な光剣は轟音と共に雷鳴のような音を立て、落下の勢いをますます激しいものにした。刹那のうちに、剣は銅盾に斬りついた。


 巨大な爆裂音が響き渡る。銅盾は強い黄光を放ったが、巨剣の猛撃にはわずかな間持ちこたえただけで、哀れな音を発して粉々に砕け散った。


 邪魔するもののなくなった光剣は、一瞬の止まりもなく、そのまま青い光の稜柱に斬り下り、ギシギシという巨大な押し潰すような音を立てた。


 この奇妙な巨剣の驚異的な威力を目の当たりにして、青紋の表情はついに幾許かの狼狽(ろうばい)をみせた。彼は両手を青く光らせながら慌ただしく左右に広げ、同時に両側の防壁の内側を押さえると、必死にそこへ法力(ほうりき)を流し込み始めた。青木真罩(せいもくしんしょう)の防御力を強化しようと試みているのだ。


 巨剣が放つ三色の光芒と下方の青光の防壁がきらめきながら入り交じり、やがて「パチパチ」という破裂音が響き始めた。青木真罩(せいもくしんしょう)は青紋の死に物狂いの助力のもと、見事に光剣の斬り下ろしを食い止めた。


 かくして次に起こったのは、韓立と青紋の、一方は法術を操って光の防壁を強行突破して相手を死に追いやり、かつての裏切りを報いようとするもの、そしてもう一方は命を守るため、法力(ほうりき)を光の防壁に注ぎ込みつつ相手の術の力が尽きるのをじっと待つという、消耗戦だった。


 その時、横にいた王師兄(おうしけい)がようやく我に返った。三下五除二で二つの金環を粉々に砕くと、三筋の緑の光を勢いよく青紋道士めがけて突進させた。彼の心の中は明らかだった。今、韓立と相手が相拮抗している。もし彼が少しでも助け舟を出せば、相手を押し潰す最後の一撃になり、この法力(ほうりき)弱からぬ血侍(けつし)を楽々と倒せるだろう。そうなれば、血侍(けつし)が持つ宝物も当然、数多く分け前として手に入るだろう。そう考えると、彼の心の中はいよいよ熱を帯びた。


 しかし、この王師兄(おうしけい)が良い夢を見ていたところ、青紋の顔色が一変したまさにその時、突然一道の黄光が青紋の傍らを稲妻のように一瞬かすめて過ぎ去った。すると、道士はあっという間に跡形もなく消えてしまった。韓立の三色の光剣は落下したものの、地面を斬りつけただけで、そこには一丈近い深さの穴が無残な姿を晒した。


 王師兄(おうしけい)の三筋の緑光は当然ながら同様に空振りし、彼は驚きと怒りに震えながら黄光の消え去った方向を見据えた。


 案の定、青紋道士は光の防壁を纏ったまま、数十丈先の場所に現れていた。彼の側には一人の黄衣の若者が加わっており、その面構えは気楽極まりない。王師兄(おうしけい)が見た目にもまったく慌てておらず、こう話した。


「こいつは、あんたがそんなに簡単に殺していい相手じゃねえぜ。命を助けられた縁があるんだからな。」そう言い終えると、また韓立の方に向かって笑いながら言った。


「韓兄、まさかまたお会いできる日が来るとはな!呉九指(ごきゅうし)だ、覚えてくれたか?」


 そのすっかり気楽な雰囲気を漂わせる若者こそ、かつて韓立の前で手練手管(しゅれんてくだ)を使ったものの見抜かれた、あの若き修士呉九指(ごきゅうし)に他ならなかった。しかし今の彼は、身体にどこか奇妙な黄光が漂い、法力(ほうりき)築基期(ちくきき)の初期のようだった。


九指(きゅうし)、この男たちは我らとは道を異にする、話し合う必要はない。おまえも来たことだ、四人揃ってここで思い切り戦おう。」青紋道士はようやく先ほどの危機から気を取り直し、怨みの眼差しで韓立を一瞥(いちべつ)すると、恨めしそうに言った。


 呉九指(ごきゅうし)はこの言葉を聞いてため息をつくと、韓立にはもう何も言わなかった。


 青紋はそれを見て、口笛のような甲高い声を二長一短に上げた。


 劉靖(りゅうせい)たちに囲まれて攻め立てられていた鉄羅(てつら)氷妖(ひょうよう)はその声を聞きつけると顔に喜びを浮かべ、すぐさま戦闘の輪から抜け出すと青紋や呉九指(ごきゅうし)の場所へと飛んで行った。


「どうした、また一人増えた!これは厄介だぞ…」


 劉靖(りゅうせい)は突然現れた呉九指(ごきゅうし)を見て、即座に事の成り行きを察し、思わず眉をひそめた。さっきまで彼ら五人で相手二人の血侍(けつし)と戦っても相手を傷つけることさえできず、やっと少し優勢になったところだった。当然、この四大血侍(よんだいけつし)というものが、普通の築基期(ちくきき)の修士では及ばない実力者だということは理解していた。相手が四人揃った以上、当然、もっと厄介になるのは火を見るより明らかだった。そう考え、劉靖(りゅうせい)は慎重に声をかけ、彼ら数名も韓立たちの側へと集まった。


 韓立は向こう側に現れたばかりの呉九指(ごきゅうし)を眺め、心中は複雑そのものだった。かつてあの奇妙で賢い若者に対して非常に好感を抱いていたことを思い起こした。だが、運命とは皮肉なものだ。今、二人は敵同士となり、殺し合わなければならない状況に追い込まれてしまっているのだ。


妖化(ようか)!!」


 青紋たち血侍(けつし)たちも理解していた。普通の法咢器(ほうき)や道術で韓立たちと戦っても、勝ち目はほとんどない。黄楓谷(こうふうこく)の人数を考えれば、二人で一人を相手にするにしても、それは十分な数だったのだ。したがって四人が一箇所に集まったすぐ後、青紋の冷ややかな声と共に、彼らの身体から血のような赤い光が発散し始め、大小様々の四つの血の光の繭へと姿を変えていった。妖化(ようか)の変身が始まろうとしていた。どうやら彼らは、韓立たちをここで一気に殲滅しようと決意したようだ。


 劉靖(りゅうせい)をはじめとする黄楓谷(こうふうこく)の修士たちはこの光景を見ると、韓立から事前に妖化者(ようかしゃ)が変身する情報を得ていた彼らは、相手の意図を瞬時に見抜いた。迷わず法咢器(ほうき)や道術を同時に四つの光の繭へと叩きつけた。彼らも同様に承知していた。相手が変身を完了して繭から現れる前に、これらの血侍(けつし)たちは格好の固定標的となる。この敵を倒す好機を逃すわけにはいかないのだ。


 しかし韓立の言っていた通り、これらの光塊は一つ一つが驚くほど堅固だった。嵐のような一連の攻撃が終わっても、それらはまだ何事もなかったかのように元の場所に立っていた。まったく損傷を受けている様子さえなかった。


 劉靖(りゅうせい)たちの顔は一様に険しいものとなった。


「皆、力を出す時だ!必殺技があるなら今使え!今使わなければ、奴らが変身を終えて現れたら万事休すだ!」劉靖(りゅうせい)は断固とした口調で叫び、その顔は堅く引き締まっていた。


 そう言い終えると、彼は即座に法咢器(ほうき)を収め、厳粛な面持ちで一枚の金色の符箓を取り出した。二本の指でそれを挟み、神秘的な呪文を唱え始めると、その金色の符箓は次第に(まばゆ)いばかりの金光を放ち始めた。


 韓立はこれを見て内心驚愕した。この符箓の等級がどれほどのものかはわからなかったが、築基中期(ちくきちゅうき)劉靖(りゅうせい)が呪文を発動のために必要としていることを考えれば、この符箓が決して普通の代物ではないことは十分に予想できた。


 他の者たちもこれを見て、互いに目配せすると、それぞれ得意技を披露し始めた。


 中でも最も目立ったのは、あの陳巧倩(ちんこうせん)師姉(しけい)宋蒙(そうもう)だった。彼らはそれぞれ法宝(ほうほう)が描かれた符宝(ふほう)を取り出し、すぐに座って凝神(ぎょうしん)し、それを操作し始めた。符宝(ふほう)から青と灰色の光のかたまりが次々に漂い始めると、周囲の者たちは羨望(せんぼう)の眼差しを向けた。


 符宝(ふほう)はどの築基期(ちくきき)の修士でも簡単に手に入るものではなかった。それを持っているだけで、この二人が背後に大きな家族を持っているか、門派(もんは)の長老から深い寵愛を受けているかのどちらかであることが証明されるからだ。さもなければ、彼ら自身が集めたとしても、そんな運と財力(ざいりき)は到底ない。


 他の者たちは羨んではいたが、それでも遅れを取るまいと、鋭い術を披露したり、さらなる妙を尽くした法咢器(ほうき)を操って先制攻撃を仕掛け始めた。ただちに光華が天を衝き、法咢器(ほうき)が乱れ舞った。


 一方、韓立は符宝(ふほう)も使わず、先ほどの威力絶大な「巨剣術(きょけんじゅつ)」も使いこなせなかった。最も労力の少ない方法を選択し、両手を軽く振ると数回の重い落下音と共に、彼の前方に四体の獣形傀儡(じゅうけいかいらい)が出現した。


 傀儡たちが冷たい視線を浮かべる目を開くと、すぐに大きく口を開き、数本の光条(こうじょう)が白い帯のように伸びて、激しく外へ放たれた。韓立は傀儡たちの後方に立ち、前の戦いで費やした法力(ほうりき)を回復する機会を得た。まだあの黒煞教主(こくさつきょうしゅ)の面影すら見ていない今、全力を出し切って法力(ほうりき)を早々に使い果たす気はなかった。万が一に備えて法力(ほうりき)を節約する。これが韓立がこの戦いの前に決めていた方針だった。法力(ほうりき)が尽きてしまえば、どれほど多くの手立てや手段があっても使いようがないのだから。


 獣形傀儡(じゅうけいかいらい)が現れたことで、他の同門は少し驚いたように見えたが、すぐにそれぞれの任務に戻った。法咢器(ほうき)や術は個人の秘密であり、詮索(せんさく)するような真似は誰もしようとしない。「傀儡術(かいらいじゅつ)」の由来について少しでも知っている者は、韓立が李化元(りかげん)から教えられたものだと推測した。李化元(りかげん)の実力なら、千竹教(せんちくきょう)の修士を幾人か倒して、彼らの修煉法を手に入れるのも何ら不思議ではないことだった! だから、他の者はせいぜい韓立の持つこの獣形傀儡(じゅうけいかいらい)に大きな好奇心を抱く程度だった。


 この時、劉靖(りゅうせい)の金色の符箓はついに発動に成功した。小さく震えると、それは金色の光となって血の光の繭の上へ飛んでいった。


 そして「プッ」と破裂音をあげると、金色の光は粉々に飛び散り、まるで夢のような、幻想的ながらも目が(くら)むばかりの光の雨となって天から降り注いだ。しかし、この鮮やかながらも奇妙な光景の下には、命取りになる危険が潜んでいた。劉靖(りゅうせい)が複雑怪奇な印を素早く結び終えると、空に漂う無数の光点は歪みながら伸び縮みし、ついには一本一本が金色の小さな剣へと変化したのだ。その寸さは数センチほどだが、一つ一つが冷気を漂わせ、鋭利な刃をはらんでいた。


千刃術(せんじんじゅつ)


 この時、劉靖がようやくこの金系法術の名を口にした。


 この光景に、二人の符宝(ふほう)使いを除いた他の全員が一様に呆然とした。


 そもそも金系法術は五行(ごぎょう)法術の中で最も稀な種類に属し、しかも大抵は「金甲術(きんこうじゅつ)」「鉄膚術(てっぷじゅつ)」のような補助法術が中心だった。ところが劉靖(りゅうせい)のこの符箓は、攻撃的な金系法術であるだけでなく、中級レベル以上の群衆攻撃法術だった。韓立を含む数名が一様に驚きを隠せず、手を滑らかに動かさずに思わずその法術の妙技を見極めようとしたのも無理はなかった。


 今や、数千もの金色の鋭い剣が、光の繭の上空にぎらりと光り輝き、見る者を圧倒するような威圧感を放っていた。


 劉靖(りゅうせい)が呪文の口を開くと、たちまち金色の小さな剣たちが雹のように降り注ぎ、真下の血色の光塊目がけて突き刺さった。


 続いて韓立たちの耳に、「プツ、プツ」という重たい刺し貫く音の連続が響き渡った。金色と血のような赤の両方の光が入り乱れ、火花が飛び散るかのように輝きを乱舞させた。


 他者の攻撃では全く変化のなかった光の繭も、このような猛攻の前では動揺を見せ始めた。血の光は狂ったように増幅し、その激しい攻撃から身を守ろうとしたかのように厚みを増していき、次々と襲いかかる光の剣たちとさらに激しく衝突した。


 劉靖(りゅうせい)はこの状況を見て焦らずむしろ喜んだ。光の繭に変化が起きたということは、彼の攻撃が功を奏していた証拠だった。攻撃の強度をさらに上げれば、この血の光も打ち砕けると理解したのだ。


 しかし、空中の無数の小剣の半分以上はあっという間に地面へ吸い込まれたが、光の繭の血紅色はまだ赤々と燃え立つほど強く、まったく余裕すら感じられるようだった。


劉師兄(りゅうしけい)、私が加勢する!」


 叫んだのは宋蒙(そうもう)だった。


 彼の手に握られた灰色の符箓は既に変わり、数尺ほどの長さの灰色の小さな槍へと変貌していた。その槍の全身からは不気味な灰色の気が漂っている。


「まず左側の血侍(けつし)を片付けることに集中しろ!攻撃を分散させるな!」劉靖(りゅうせい)宋蒙(そうもう)符宝(ふほう)が真の姿を現したのを見て喜びを隠せず、そう大声で指示を飛ばした。


 続いて彼は、まだ落ちてきていない金色の小さな剣たちを指差す。


 すると同時に、全ての金色の剣たちは突然密集し、最も左側にいた「氷妖(ひょうよう)」と呼ばれる血侍(けつし)が変身した光塊めがけて集中突撃した。


 ドカン、ドカンという轟音が響き渡った後、一同が注視すると、その光の繭の血光は明らかに萎縮しているように見えた。


 この攻撃に効果を見出した韓立たちも、それぞれが持つ術、法咢器(ほうき)、そして獣形傀儡(じゅうけいかいらい)の攻撃をそろって一点に集中させた。宋蒙(そうもう)の灰色の長い槍は哀れなほどの高い叫び声をあげて、それらに続いて飛んでいった。


 結果は韓立の目にこう映った。かつては堅固不可侵と思われたあの血色の光の繭が、「千刃術(せんじんじゅつ)」と他の者たちの攻撃によってあっという間に薄い層だけにまで消耗し、その内側にいる人物の影さえもがぼんやりと見えるほどだった。


 そして最後にその灰色の長槍が見事に貫通すると、それに伴って我を忘れたような怒りの声が響き渡り、一同の耳を耳鳴りするほどに震わせた。続いて、二つの水晶のように透き通った純白の鋭い爪が突然血の光の中から伸び出し、慌ただしい動きをしながら狂ったように掻きむしると、最後の血の光が粉々に裂けて、その中にいた人物の実体があらわになった。


 妖化(ようか)の途中にある白い怪物。


 第一印象ではその顔は非常に整った青年のものである。しかし頭には少し小さな白い角が二つ突き出ており、臀部には一尺ほどの純白の尾が伸びていた。その尾には(うろこ)がところどころ見え隠れする。言うまでもなく、鋭さは計り知れない二つの爪や、何層にも重なった半透明の乳白色の妖紋(ようもん)まである。肩には碗の大きさにも相当する血に染まった大きな穴があって、その付近の肉が絶え間なく(うごめ)き収縮しているのが見え、誰が見ても背筋が凍る光景だった。しかしその血洞は瞬く間に閉じられ、治りかけているようだった。


「お前ら、死を招く気か!」半分しか変身を遂げていない氷妖(ひょうよう)は明らかにまだ十分な理性を保っており、そう歯をむき出しながら皆に向かって言った。彼にとっては、完全なる妖化(ようか)は果たせなかったものの、自分の妖体(ようたい)の特性を考えれば十分であり、仲間たちが皆変身を終えて繭から抜け出す時間を稼ぐことは可能だと踏んでいた。


 妖化(ようか)変身を前に見たことのない劉靖(りゅうせい)たちは、相手の恐ろしい姿を見て全員が顔色を変えた。韓立から血侍(けつし)妖化(ようか)後は不気味な形相になるという話は聞いていたが、実際に見ると胸に強く響き、不安な気持ちを抱かざるを得なかった。


 数本の白い光が一瞬のうちに飛び交い、その光はただちに氷妖(ひょうよう)の裸の上半身を直撃した。彼は結実した一撃で大きくひっくり返り、見るも無惨に地面を転がった。


 これはまったく相手の話を聞くつもりなどなかった韓立の指令で獣形傀儡(じゅうけいかいらい)が放った攻撃だった。


 他の者たちはこれを見て初めて我に返った。止まっていた攻撃が再び嵐のように打ち始めた。


 しかし地面に倒れた氷妖(ひょうよう)は身体の周囲に冷気を含んだ霧を漂わせると、霧が消えた時にはすでに彼の姿は跡形もなく消え去っていた。


 一同は驚き恐れて、あちこちと辺りを見回した。彼らの経験によれば、こうした状況は通常、対戦相手が何らかの遁術(とんじゅつ)を使って瞬間移動したことを示しており、その多くは遠くへは逃げないものだった。


 周囲を眺めても、あの三つ微かに光を放つ繭以外は何もない。普通の黒煞教(こくさつきょう)の弟子たちも愚かではない。既に姿をくらましていたのだ。


 韓立はこれを見て胸騒ぎがし、何かに気づいた。慌てて乾坤袋(けんこんたい)を叩くと、白燐盾(はくりんじゅん)と亀甲形の法咢器(ほうき)が同時に飛び出し、猛烈な速度で彼の周りを回り始めた。同時に大声で叫ぶ。


「皆、注意!奴は姿を隠している!」


 韓立の言葉が終わらぬうちに、女の哀れな悲鳴があちこちの場所で聞こえた。驚いた者たちが慌てて見回すと、地面に座り込み、呪符を操っていた陳巧倩(ちんこうせん)師姉(しけい)がすでに仰向けに倒れていることがわかった。その胸に突然裂け目が生じ、まるで誰かの手が差し込まれ、生きたまま心臓を握りつぶされたような状態だった。血の海に倒れた彼女の美しい顔は歪み、手足は痙攣を続け、目には信じられない恐怖が映っていた。それからすぐにかすかな無念の色が浮かんだが、その目はすぐに虚ろとなり、完全に息を引き取っていた。



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