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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第三卷:天南築基編一八方塞がり·正魔大戦
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傀儡獣一築基期14

 仲間の逃亡に激怒していた修士たちの罵声は消え、互いの瞳に恐れの色が浮かんでいた。


 劣勢ながらも、彼らは内心で確信していた。たとえ傀儡に敗れても、空中へ逃れるのは容易だと。


 しかし逃亡者の末路がその幻想を打ち砕いた。多重防御と防御法器を備えながら、光柱の一撃すら防げなかったのだ!


 築基を経た修仙者ほど死を恐れる。凡人より遥かに長い寿命を手に入れた者たちが、簡単に命を捨てるわけがない。


 だが、あの巨大光柱の威力は絶望的だった。もし防御結界に直撃していれば、全員が塵と化していただろう。


 恐怖が心を蝕む。今さら撤退を願っても、優勢な敵が許すはずがない。彼らは完全に窮地に立たされていた。


 高空の雲中に潜む韓立も、超光柱の威力に背筋を凍らせた。ますます身を隠す決意を固める。


 それでも好奇心が勝った。神風舟の速度を恃み、彼は観察を続けることにした。


 ただし彼の青紅雲は百余丈(約300m)の高度にあったため、地上の者たちには未だ気づかれていない。


「このままでは危険だ」と悟った韓立は、頭上に浮かぶ灰色の低い雲を発見し、密かにそこへ移動した。雲に溶け込んだ青火瘴せいかしょうは完璧な擬態となる。


 ――これで安心だ。彼は再び戦況を見下ろした。


 明らかに修士たちの戦意は衰えている。各種の法器を操る動作は華やかだが、初期の勢いはない。各々が保身を考え始めた証だ。


 その時、防御結界内の年長修士が森に向かって叫んだ。

「閣下、本当に皆殺しをお望みか? 我々は元武国げんぶこく複数宗門の弟子だ。我々を殺せば、元武国修仙界全体を敵に回すことになる!」


「ふん…殺身の禍だと?」

「逃亡者を殺す前なら考慮したかもしれぬ。だが一人殺した以上、どうせ敵は敵だ。全員始末してしまえば、誰にも知られまい」


「我々に害意はない! 停戦を誓う!」若い修士が慌てて叫ぶ。


「誓い? 信用できぬ! お前たちは密かに尾行してきた。害意がないなら、食事に招くつもりか? そもそも私は元武国の者ではない。仮に敵に回そうと、千竹教総壇へ抗議に来る気か? もしそうする勇気があるなら、そちらの師尊を褒めてやる!」


 森から聞こえる硬質な声に、韓立は眉を上げた。


(あの男か?)

 競売会で傀儡獣を落札した巨漢に違いない。どうやら修士たちが彼を尾行し、傀儡の秘密を奪おうとしたらしい。逆に罠にはめられたのだ。


「皆の者! 奴は口封じを企んでいる! 死力を尽くして戦うぞ!」年長修士が怒鳴ると、他の修士も覚悟を決めた。


「死力? 傀儡すら破れぬ身で何ができる? そろそろ終わりにしよう」

 巨漢の殺気を含んだ声と共に、森の奥で地響きがした。


 ドスン! ドスン! 重い足音が林縁に近づく――


 全ての者が固唾を呑む中、高さ五丈(約15m)の巨虎傀儡が姿を現した。マント姿の巨漢がその頭部に腰を下ろしている。


 修士たちは巨虎を見て青ざめた。あの超光柱を放ったのは、間違いなくこの獣だ。


 巨漢は無言で虎の頭を叩いた。傀儡虎は顎を開き、口内に白い光を集め始める。他の傀儡たちは攻撃を止め、整然と後退した。


「全員で支えろ!」修士たちは結界に両手を押し当てた。もはやこれが命綱だ。飛び立つ選択肢は、最初の犠牲者が証明した通り死を意味する。


 轟音と共に超光柱が放たれた! 修士たちは結界で辛うじて防ぐが、その代償は大きい。霊力を急速に消耗し、顔色がみるみる青ざめていく。


(この攻撃は持続しないはず…)

 韓立の予想通り、光柱は次第に細り消えた。


 修士たちは安堵の息をついた。しかし巨漢は嘲笑うと、虎の頭部の蓋を開け、中級火属性霊石を投入した――虎の口が再び白光を宿す!


「馬鹿な…!」

 修士たちの絶叫が虚しく響く。次の光柱を前に、彼らの結束は崩壊した。蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 巨漢は巨虎を操り、二つの光柱で二人の逃亡者を焼き払う。焦臭い煙が立ち上り、黒焦げの塊が地面に転がった。



 残る二人の修士は遠くへ飛び去り、瞬く間に空に消えた。巨虎に跨る魁梧の男は微動だにせず、冷ややかに彼らを見送る。追跡する様子は全くなかった。


 雲中に潜む韓立は違和感を覚えた。先程までの冷酷非情な手法からすれば、逃がすはずがない。何か仕掛けがあるのか?


「閣下、長々と見物しておって漁夫の利を得る時機を窺っているのか? そろそろ現れぬか」

 下から響く冷たい声に、韓立は息を呑んだ。


(この高さで見つかったのか?)

 喉仏が上がる。傀儡の威力を目の当たりにした韓立は、空中で巨虎の標的になるつもりはない。あの光柱の速度と破壊力は絶望的だ。神風舟を全力で操って回避するしか生き延びる道はない。


 遁走を考えた韓立だったが、次の瞬間その思いは消えた。傀儡たちの武器が向けられたのは高空ではなく、近くの小土丘だったのだ。


(まさか…!)

 土塊が崩れ、灰色の布袋を被った異形の男が現れた。かつて魁梧の男と対峙したあの人物だ。


「お前だったか!」

「何者だ? 傀儡獣の秘密を知っているようだな」

 魁梧の男の目は殺気に染まる。


黄龍こうりゅう、久しぶりだな。相変わらず短気だ」

 布袋の男の言葉に、魁梧の男も雲上の韓立も凍りついた。


「なぜ俺の名を…お前は誰だ?」

 正体を見破られ、男は頭巾を引き裂いて捨てた。そこには凶暴な面差しの、黄髪の巨漢の顔があった。


「千竹教の護教法王ごきょうほうおうの座を捨て、遥か彼方まで来るとは。傀儡獣に隠された『半部大衍決はんだいえんけつ』のためか?」

 布袋の男は悠然と問う。


「正体を明かせ!」黄龍の声が鋭くなる。


「大衍決の第一層口訣を密かに授けた者を忘れたか?」

 その言葉に黄龍は顔色を変え、数歩後退した。


林師兄りんしけい…? いや、師兄はとっくに…! 俺を愚弄するとは!」

 怒り狂った黄龍が手を振ると、百体の傀儡が一斉に男を取り囲んだ。


「旧情を忘れぬとは感心だ」

 布袋の男は柔和な眼差しでそう言うと、布袋を外した。現れたのは…


「林師兄!」

林師叔りんししゅく!」

 黄龍と韓立が同時に叫んだ。韓立は黄楓谷おうふうこく入門時に出会った、彫刻に没頭する老人を思い出していた。あの精巧な猿の彫刻が印象的だったのだ。


「師兄…なぜこんなに…生きていたのか?」

 黄龍は狂喜して両手を握った。


「ふふ…当時は偽装死だったのだ。死んだのは…何をする!」

 林師叔の笑顔が驚愕に変わる。振りほどいた手首には、箸ほどの太さの血穴が開き、黒い血が滴っていた。明らかに猛毒だ。


「逃亡生活中に脳は腐らなかったようだな? だが油断しすぎだ。『黒糸蠱こくしこ』の味はどうだ? 蠱毒宗こどくしゅうから苦労して手に入れた代物だ。解毒は容易ではあるまい」

 黄龍は嘲笑しながら続ける。

「偽装死したのなら大人しくしていたらよかった。旧部下と接触し、大衍決を盗もうなど愚の骨頂だ。現教主は大層ご立腹でな」


「ふん…よくやった」

 林師叔は怒りを鎮め、毒血を排出すると緑の瓶から黄色い薬粉を飲み干した。その目は冷徹に黄龍を射る。

「旧部下の情報は全て偽りだったな? 傀儡獣に大衍決など最初から無かったのだ」


「金で動かせぬ者などおらぬ」

 黄龍が振り返り、森へ呼びかける。

「出てこい! かつての林教主の御曹司、林大師兄をご披露するぞ!」


「あら、お噂の林師兄様! 残念ながらわらわは遅くに入門したので…」

「ふん! 今や喪家の犬めが!」

 嬌声と嫌味な男声が響き、森から男女が現れた。


 黄龍が紹介しようとした瞬間、林師叔は身を翻した。無数の光点が周囲に撒かれ、地面に触れると――


 眩い光の中、武装した二百体の傀儡兵士が出現した!


「大衍決第三層か…! 動け! 毒が回るまで食い止めろ!」

 黄龍が号令すると、傀儡軍団が突撃を開始する。男女も二百体の傀儡獣を繰り出した。


 光弾と光柱が飛び交い、人形と機関獣が激突する。空中の韓立は息を詰めて見守った。


(林師叔は千竹教の元教主の子…今は失脚し黄楓谷に潜伏していたが、大衍決を求めて罠にかかったか)

 韓立は状況を理解すると、ため息をついた。


(築基初期が介入できる戦いではない)

 青火瘴を収め、神風舟を全力稼働させる。白虹が天を突くように飛び去った!


 轟音に戦闘中の四人が顔を上げる。秘密を聞かれたことに慄くが、韓立が離脱したのを確認すると、再び戦闘に戻っていった。


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