表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第三卷:天南築基編一八方塞がり·正魔大戦
118/287

驚いた馬師伯一築基期3

 後ろの三層の剣訣を極めた神通は、「剣影分光術けんえいぶんこうじゅつ」と呼ばれる法決であった。これを修練する前提として、まず飛剣ひけん類の法宝を持たねばならず、無論、飛刀ひとうでも構わない。


 修成後、この神通は敵と対峙する際、飛剣の剣光けんこうを借りて、本体と全く同じ剣影けんえいをさらにもう一つ幻化げんかすることができ、敵の視界を惑わしつつ本体と共に攻撃を加える。剣影は初成の段階では本体の威力のわずか十分の一に過ぎないが、剣訣の層が上がるにつれ威力は増し、第九層に至れば三分の一の威力を得る。


 さらにこの剣影は、修練時に幻化できる数が一つとは限らない。第七層から始まり、層が上がるごとにさらに一つずつ剣影を煉化れんかできるようになるのだ。そうなると青元剣訣せいげんけんけつを極致まで煉れば、飛剣と見た目は同じで威力が三分の一の剣影を、同時に三つ操れることになる。


 こうして見ると、この「剣光分影術けんこうぶんえいじゅつ」という神通はなかなかのもので、一応は修練する価値がありそうだ。


 しかし韓立はすでに知っていた。黄楓谷こうふうこくにこれほど多くの筑基期の修士がいるのに、誰一人としてこれを深く煉り込んでいないということを。その裏にはきっと小さくない問題が潜んでいるに違いない! 彼は大いに後悔した。なぜ当初、その理由をはっきり聞いておかなかったのかと。自分は絶対にこの青元剣訣を修練しないと思い込んで、大雑把にやり過ごしてしまったのだ。


 今となっては、韓立はこの法決に大きな問題があると知りつつも、やむを得ずに修練を始めざるを得ない。ただひたすら、この法決に走火入魔そうかじゅうまのような後遺症がなければいいと願うばかりだった。


 もっとも、彼はこうも考え直した。他の者たちは深く修練はしていないが、二、三層くらいは身につけているようだ。そう考えると、少しだけ修練する分には大した問題もなかろう。


 そんな自分への慰めの考えを抱きながら、韓立は仕方なく青元剣訣の法門に従い、体内でまさに暴発せんとする薬力やくりょくを吸収し始めた。


 この功法をわずか一周回いっしゅうまわしただけで、韓立は「ごうっ」という感覚を覚えた。薬力を吸収して法力ほうりきが急激に膨れ上がるこの感覚は、あまりの心地よさに思わず声をあげそうになるほどだった!


 この妙なる快感に浸りきった韓立は、無意識のうちに法決を何度も循環させ、神智しんちは次第に天外てんがいへと遊離していった。


 どれほど坐禅ざぜんを組んでいたのか。韓立が体内の最後の一筋ひとすじの薬力までも吸収し尽くした時、ようやくこの妙なる体験から目覚めた。


 意識が戻った韓立は、一瞬呆然ぼうぜんとしたが、すぐに何も言わずに立ち上がった。そして目を細め、首をかしげて少し考え込むと、突然腕を上げて目の前でひとしきり動かしてみた。すると、指先から尺許しゃくばかりの長さの、青くぼんやりとした剣芒けんぼうが飛び出し、冷気が人を刺し、鋭利無比えいりむひな様子を見せた。


 この冷たい光を目にして、韓立は喜ぶどころか、むしろ苦笑にがわらいを浮かべた! そして突然、腕を一振りする。すると青い光が猛然もうぜん膨張ぼうちょうし、一丈いちじょうあまりの長さに変わり、ほとんど対面の石壁に突き刺さらんばかりになった。


「マズいぞ… 残った薬力がこんなに強いとは思わなかった。なんと一気に第四層の剣訣を煉り上げてしまった。何か差し支え(さしつかえ)がないといいが」

 韓立は顔色が明暗する中で、そうつぶやいた。


「もういい。せいぜい今後、この剣訣を修練しなければそれまでだ!」

 韓立は独り言のように言うと、腕を下ろした。すると青い剣芒は消えた。


 しかし、好奇心がむくむくと湧き上がった韓立は、やはりあの『青元剣訣』を拾い上げ、護体剣盾ごたいけんじゅんに関する法決を開いて目を通し、何度か暗誦あんしょうした。


 続けて、韓立はうつむいてしばし考え込むと、目を閉じた。そして、パッと見開く。すると彼の体には、奇妙な護盾ごじゅんが現れていた。


 この護盾は全体が青色で、普通の防御罩ぼうぎょしょうと大きさは変わらないが、表面は通常の滑らかな形態ではなく、ハリネズミのような芒刺ぼうし状を呈しており、どこか不気味な殺気さっきが漂っているように見えた。


「これが護体剣盾か?」

 韓立は自身にまとわりつくこの刺盾しじゅんを詳しく観察しながら、少し驚いた。


「剣訣によれば、この盾は自ら剣芒を放ち、敵を反撃できるらしい。惜しむらくは、今は試せないことだ!」

 韓立は非常に残念に思いながら、そう考えた。


 その後、韓立は手足を動かし、改めて体内の真元しんげんを詳細に探ってみた。何の不都合も見当たらないことを確認し、ようやく安心して所持品をまとめ、地火屋ちかやを後にした。すると、ちょうど鉢合わせ(はちあわせ)するように醜漢しゅうかんと出くわしたのだ!


 あの時、醜漢が自分を見た瞬間の驚愕きょうがくの表情を思い返すと、空中を飛ぶ韓立は思わず、心の中で笑みを浮かべた。


 その時、夜がようやく明け始めた頃だった。韓立は誰にも出会わずに百薬園ひゃくやくえんへと戻ってきた。


 彼が当初、閉関して筑基する場所を探すと口実を立てたため、薬園は当然ながらまた馬師伯に返還されていた。そのため相手は心底不満そうで、彼に向かってしばらくの間、ひげを吹き上げながら睨みつけていたものだ。


 韓立が園内に入った時、馬師伯は茅葺小屋かやぶきこやの前で目を閉じ、天地の霊気を吸収していた。目は開けていなかったが、正確に韓立の名を呼んだ。当然だろう、百薬園の禁制きんせいを自由に行き来できるのは、馬師伯を除けば韓立だけなのだから。


 しかし、この馬師伯ばしはくが韓立の名を口にした瞬間、何かを感じ取ったらしく、パッと目を見開き、信じられないという表情で韓立を見つめた。


「まさか… 筑基に成功したのか?」


「馬師伯、弟子は確かに運良く筑基期に入ることができました」

 韓立は深々と一礼しながら、軽く笑って答えた。


 馬師伯はしばらく驚愕していたが、次第に平常心を取り戻した。とはいえ、口元ではまだ呟くように言った。


「信じられん! 本当に筑基期に入ったとは!」


 そう二言三言呟いた後、彼の顔色は突然真剣になり、厳かに言った。


「同じ筑基期の修士となった以上、『師伯』などという呼称はやめてくれ。今後は我々は師兄弟しけいていとして呼び合おう! わしが少し年長ゆえ、師弟が嫌でなければ、馬師兄ばしけいと呼んでくれればよい!」


 韓立はこれを聞き、含み笑いを浮かべてうなずき、反対しなかった。境界きょうがい輩分はいぶんを分けるこのようなことは、修仙界では慣例であり、謙遜けんそんする必要などないのだ!


 その後、すなわち韓立にとっての馬師兄は、韓立と共に屋内に入った。そして机を挟んで向かい合って座り、一服の良質な茶をれた。


 座って間もなく、馬師伯は待ちきれない様子で韓立に筑基の経緯を尋ねた。


 韓立は当然、真実を相手に伝えるわけにはいかない。しかし地火屋で筑基したこと自体は隠さず、ありのままに打ち明けた。少し調べれば、相手も簡単にこのことを知り得るからだ。


 彼はただ、岳麓殿がくろくでんの地火屋を借り、師門から褒美として与えられた筑基丹を服用し、そこで約一年間閉関したところ、どういうわけか運良く成功したのだと説明した。


 馬師伯は韓立の話を一心に聞きながら、「シッシッ」と舌打ちをして驚きを隠さなかった。


 韓立が語るもう一つのバージョンの物語を聞き終えると、馬師伯は目をぱちぱちさせながら彼に言った。


韓師弟かんしてい! お前の話を聞く限り、お前の筑基の過程は他の者と大差ないな! そんな資質で筑基に成功するとは… 師弟は大いなる幸運に恵まれたと言うしかない。百分の一の確率すらつかんでしまうとはな!」

 馬師伯はここ数年、韓立とすでに非常に親しくなっていたため、言葉はストレートで、韓立への羨望せんぼうの気持ちを一切隠さず、むしろ顔にははっきりと嫉妬しっとの表情さえ浮かんでいた。


「ははっ! これはただ、弟子に福星ふくせいが高く照らしているとしか言いようがありません。自分でも予想だにせず、こんなに容易く筑基期に入れてしまいましたから」

 韓立は軽く笑いを交わし、笑いながらそう言った。


「しかしな、韓師弟。筑基に成功した以上、掌門しょうもんのところへ挨拶に行き、鍾掌門しょうしょうもんに名前を登録してもらわねばならんぞ! そうすれば、これからは師弟の待遇も高階弟子こうかいでしとして扱われ、毎年受け取れる霊石れいせきも少なくないのだ!」

 馬師伯は冗談めかしてそう言った。


「師兄のご指摘、感謝いたします!」

 韓立はこれを聞き、顔色をわずかに動かしながら、心からそう言った。


「何でもない! どうあれ、お前ともこれだけ長く付き合ってきた。知らせておくべきことは、出来る限り話しておくつもりだ」

 馬師伯は手を振りながら、何でもないことのように言った。


「実のところ、筑基後の本門最大の恩恵は、筑基期弟子に太岳山脈たいがくさんみゃくの任意の場所に洞府どうふを開き、独りで修行することを許可していることだ! それに加えて…」


 その後、馬師伯は筑基期に入った後に留意すべき点や注意事項を韓立に詳細に説明し、韓立はそれを聞きながら絶えずうなずいていた。


 しかし、相手がこれらの説明を終え、韓立と少し雑談した後、韓立はやはり我慢できずに相手に「青元剣訣」のことを尋ねた。


「青元剣訣か…」

 馬師伯の顔に一瞬、いぶかしげな色が走った!


 しかし彼は韓立を深く見つめた後、何も問い詰めることなく、少し考え込んで口を開いた。


「この青元剣訣の件なら、確かに人から少し聞いたことがあるし、わしも三層は修練している。この剣訣は我ら黄楓谷の本門法決ではない。何年も前に本門が滅ぼした、玄剣門げんけんもんという一派の鎮派ちんぱの絶学だったのだ。しかも元々は九層ではなく、十三層あったと言われている。当時の玄剣門門主は滅門が目前と見るや、その場で剣訣を破壊しようとしたらしい。しかし当時の本門の数人の師祖しそたちも手遅れではなかった。必死に相手の手から功法の半分を奪い取ったが、残りの半分はその場で破壊され失伝してしまった。だから本門に今伝わる青元剣訣はあくまで残本ざんぽんに過ぎない! せいぜい結丹期まで修練できるだけで、その後は続く功法がない。全本の剣訣は、化神期かしんきの功法すら含んでいたと聞くが、真偽のほどは定かではないな?」


 馬師伯は首を振りながらそう言うと、目の前の茶杯ちゃはいを手に取り一口飲み、さらに続けた。


「続く功法を欠いた青元剣訣は、他の一流功法と比べればやや見劣りするが、威力自体はなかなかのものだ! 特にその剣芒と護体剣盾の瞬発しゅんぱつ特性は、多くの筑基期の同門に歓迎されている。だからもし修練が比較的容易なら、本門上下にもこの剣訣を主功法として修練したいと思う者は少なくなかったはずだ! 結局のところ、元婴期の功法など我々にははるか遠く、到底使いようもないのだからな」


 ***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ