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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第三卷:天南築基編一八方塞がり·正魔大戦
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天地の霊気を集め、 己が基盤を築く一天南築基編・起

注釈**


凝丹ぎょうたん:煉丹過程で薬液を固体の丹薬に凝固させる最終段階。最も繊細な技術を要し、失敗すると廃丹となる。


廃丹はいたん:煉丹失敗により生じた不良品。通常は廃棄されるが、韓立はその薬効成分を再利用しようと考えている。


開炉かいろ:丹薬が完成した炉を開封する作業。丹薬を損傷させずに取り出す高度な技術が必要。韓立はこの工程で驚異的な成功率を発揮した。


辟穀丹へきこくたん:服用すると一定期間(通常一ヶ月)の飢餓と渇きを凌げる基礎丹薬。長期閉関時の必須品。


威圧いあつ:オーラのこと。高階修士が無意識に発する霊圧。築基期の威圧は煉気期修士に肉体的・精神的圧迫を与える。

 

 八つの竜首りゅうしゅが噴く紫炎は、韓立の制御で糸から指ほどの太さへと膨らんだ。銀糸鼎ぎんしていの回転速度は次第に落ち、炎の中で微かに震え始める。


 時間の経過と共に鼎から薬香が漂い、嗅ぐ者を爽快にさせた。だが韓立は分かっていた。成丹せいたんにはまだ早く、瞬時の凝丹ぎょうたんにはより強烈な地火が必要だ。そうして初めて丹丸たんがんが形成される。


 そう考えた韓立は紫炎をさらにまばゆく燃え上がらせ、ついにわんほどの太さに達した。銀糸鼎全体を包み込み、遠目には巨大な火球のようだ。薬香はますます濃厚になった。


 凝丹が始まったのだ。韓立は一層神経を尖らせた。


 しかしその時、鼎の中で鈍い爆裂音がした。小さな音だったが、韓立の心は沈み、顔色が曇った。


 一呼吸置いてため息をつき、地火を止めた。手招きで熱く輝く鼎の蓋を開け、中を覗き込む。


 淡青色の砕けた固体が数片──凝丹に失敗した廃丹はいたんだった。


 首を振り、韓立は玉盒ぎょくごうを取り出し地面に置くと、銀糸鼎をひっくり返して廃丹を収めた。捨てるには惜しい。いつか別の用途があるかもしれない。


 全てを終えると蒲団がとんに戻り、座禅を組んだ。銀糸鼎が完全に冷えるのを待ち、再び煉丹を開始する。


 同じ手順、同じ原料、同じ火力制御。だが不運にも、またも凝丹段階で失敗した。


 無表情で状態を整えた韓立は、黙々と次の煉丹に取り掛かった。


 …


 一ヶ月が過ぎた。醜男ぶおは韓立がまだ出てこないことに驚きつつも、むしろ興奮していた。滞在費が増えるからだ。


 二ヶ月後、十九号の石門は依然閉ざされたまま。醜男は内心でほくそ笑む一方、驚愕を隠せなかった。


 三ヶ月…


 六ヶ月後も韓立の姿はない。醜男の喜びは完全に消え、残ったのは不安に満ちた表情だけだった。


 半年もの煉丹・煉器は珍しくない。それ以上の例も彼は知っている。


 だがこれほど長期間地火屋に籠もる者は、最低でも築基期の弟子だ。煉気期の弟子がこんなに長く煉丹するなど初めてだった。


 煉気期の辟穀へきこくは一ヶ月が限度だ。まさか李祖師の弟子が食料を持ち込んだのか?醜男は疑問を抱えた。


 地火屋内で韓立は蒲団に座り、眼前に浮かぶ二十数粒の紺碧こんぺきに輝く築基丹を沈思しながら見つめていた。


 これらが半年の心血を注いだ全ての収穫だった。入手は想像以上に困難を極めた。


 最初の二十数回は凝丹すらできなかった。廃丹が積み上がる様を見て、彼は心が折れかけた。正式な煉丹術を学んでから再挑戦しようかと。時間はかかるが、霊薬を無駄にするよりましだ。


 だが引き際に、神がかったように最後にもう一度鼎を開けた。すると奇跡が起きた──見事に凝丹し、初めての築基丹を得たのだ!少し小粒だが、手持ちの三粒と遜色ない。


 この成功が韓立を奮い立たせた。帰還の念を断ち切り、心を鎮めて煉丹を続行した。


 驚いたことに、この成功を境に凝丹成功率が急上昇。三回に一回は成功するようになった。開炉かいろの才覚はさらに非凡で、過半数の丹を無傷で取り出せた。予想外の才能だった!


 空腹を感じると、小柄な老人から手に入れた辟穀丹を一粒服用した。百年草薬数株と交換した品だ。まさに時を得た用法だった。


 こうして原料を使い果たした時、彼の手には予想を遥かに超える数の築基丹があった。


 煉丹の難しさを聞いていた韓立は、七八粒得られれば上々と思っていた。だが実際は、世間で囁かれるほどの難事ではなかったのか?煉丹師たちは嘘をついているのか?それとも自分に才能が?


 韓立は少なからず困惑した。


 だが彼は誤解していた。煉丹術は伝聞以上に難しい。普通の煉丹師を育てるには二三十年と天文学的な費用が必要だ。


 韓立の築基丹煉成技術が並み以上なのは、ただ一点──半年間ひたすら同種の丹を煉り続けたからに他ならない。


 どんなに裕福な門派でも、煉丹師に貴重な材料を毎日与え、同じ丹を半年も煉らせ続けることなど不可能だ。


 それが可能なのは最低級の丹薬だけ。だがそんな丹なら原料も安く、失敗を恐れず経験を積める。韓立がこの事情を知らないのは当然だった。


 だが韓立は深く考えなかった。今、彼の脳裏には築基丹を即座に服用し、ここで突破を試みる衝動が湧き上がっていた。


 その欲求はあまりに強く、地火屋で閉関へいかんする可能性を真剣に考え始めた。


 …


 十一ヶ月後、韓立の地火屋の石門は依然固く閉ざされていた。


 ある日、醜男は十九号の石門を呆然と見つめ、憂いに満ちた表情を浮かべていた。もはや確信していた――韓立は間違いなく事故に遭ったのだと。


 彼が恐れていたのは李祖師の怒りだった。鐘掌門しょうちょうもんの縁者とはいえ、祖師の逆鱗げきりんに触れれば後ろ盾も助けてはくれまい。


 ちょうどはらわたよじれるほど心配している時、石門が白光を一閃すると音もなく開いた。満面に春風をたたえた韓立が現れたのだ。


 呆然とした後、ようやく反応した醜男は驚喜して駆け寄り、不平をこぼし始めた。

「师弟殿、なぜ今頃…もし出てこなければ小生は…おや!? そ、そなたは…!」


 醜男は突然目を見開き、まるで幽霊でも見たかのように韓立を指さしたまま言葉を失った。


「どうかされましたか? 私に何か?」韓立は顔に瑩光えいこうを一閃させながら微笑んだ。


「そ、そなたの功法が! どうして…? まさか…築基期ちくきに!?」醜男は長い間呆然とした後、困惑と恐怖の表情でようやく言葉を絞り出した。


「ああ。丹を練り終えた後、ここは環境が良いと思い、築基丹を一粒服用して閉関したんだ。結果、突破に成功した。今は確かに築基期の修士だ」


「ここで築基を!?」

 醜男は韓立の背後にある地火屋を見、また韓立を見たが、まだ信じられない様子だった。煉丹・煉器専用の地火屋で築基を試みる者など、生まれて初めて聞いた!


「何か? ダメなのか?」韓立は淡々と一瞥し、築基期の威圧いあつほとばしらせた。醜男は数歩後退し、脂汗を浮かべた。


「とんでもござらぬ! 師叔ししゅく殿の閉関大成、おめでとうござる!」

 醜男は即座に平身低頭へいしんていとうした。呼称も「师弟」から「師」へと変わった。


 相手が築基に成功した以上、長輩として恭順きょうじゅんするのは当然。彼は「実力至上」の修仙界を痛いほど理解していたのだ。


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