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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第二卷: 煉気編一初めて世間に·血色禁地
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陳家族兄妹

 

李施主(せしゅ)貧道(ひんどう)が彼を見逃したことに、何か疑問を抱いておられるのでは?」

 中年の道士はしばらく沈黙した後、突然口を開いた。


「ふっ…確かに少しはな。あの小僧の持つ法器(ほうき)はなかなかの逸品だ。見ていると、わしの心さえも揺らぐほどよ!」

 老人は自らの思惑を隠そうともせず、ずばりと言い放った。


「ならば施主、その考えは早々にお捨てになった方がよろしい。あの者は…殺せぬのだ」

 道士はわずかに眉をひそめ、警告を込めて言った。


 青衫(せいさん)の老人はそれを聞き、一瞬だけ驚きの表情を浮かべたが、何も問うことはしなかった。相手の性格からして、ここまで言えば必ず後で説明してくれることを知っていたのだ。


 果たして、道士は無表情のまま言葉を続けた。

「あの者は天闕堡(てんけつほ)馬雲龍(ばうんろん)と深い繋がりがある。安易に手を出すべきではない」


 老人はその名を聞いて表情を強く動かし、思わず叫んだ。

「まさか…天闕堡百年来、最も金丹期(きんたんき)※に到達する可能性が高いと噂の、あの馬雲龍というのか!?」


 道士は自嘲気味に笑い、ため息をついた。

「その者以外に誰がおろう。貧道も彼には何度か面識がある。あの若者が手にしていた落塵珠(らくじんじゅ)こそ、彼の名を轟かせた法器に他ならぬ。間違いない!故に、あの若者は確実に馬雲龍と関係が深い。手を出すのは控えるべきだ」


「なるほど…道友(どうゆう)の忠告がなければ、わしは大過を犯すところであった!むっ、早々に霊薬を採取して立ち去ろう。また厄介な客が来る前に!」

 老人はようやく驚きから我に返り、すぐさま提案した。


 道士も当然快く同意した。二人は左右に分かれ、それぞれ一株ずつ「紫猴花(しこうか)」※を手に入れると、即座に別れを告げ、道を分かった。


 ---


 同じような光景が、禁地の他の場所でも同時に繰り広げられていた。ただし、彼らの衝突はこれほど平和的なものではなく、はるかに激烈な火花を散らしていた。


 環形山(かんけいざん)のとある尾根にある石造りの小屋の傍らで、四人の人間が二手に分かれ、様々な法器を駆使して激闘を繰り広げていた。


 その内の男女二人は黄色の装束を身にまとい、黄楓谷(おうふうこく)の弟子である。

 四十歳前後で書生のような風貌の男は、銀色に輝く巨大な筆と金色に燦然(さんぜん)と光る書物を手にしていた。その筆を一振りし、書物を一翻せば、天を覆うほどの銀の()と金色の光が炸裂し、対する二人を汗だく、青ざめた顔に追い込んでいた。

 一方、美しい若い女弟子は青と黄の二振りの飛剣型法器を操って補助に回っていたが、誰の目にも明らかなほど、その実力は相棒の男とは比べるべくもなく、敵である二人と比べても天と地の差があった。牽制すらままならず、むしろ時折、圧倒的に強い相棒に救ってもらわねばならない有様だった。


 そして彼らと対峙するのは、同じ門派ではない二人組。

 緑色の光のオーラを頭上にまとった醜男は、茶碗ほどの太さの飛蛇(ひだ)と巨大な蜂の大群を操り、黄楓谷の男の放つ金色の光の波状攻撃を必死に食い止めていた。なんと彼は、韓立とも情報交換したことのある霊獣山(れいじゅうざん)鍾吾(しょうご)だった。

 もう一人は陰気で美形の青年。その青衣(せいい)からして、化刀塢(かとうう)の弟子と見て間違いない。

 彼の目前を飛び回る二振りの赤い飛刀(ひとう)は光芒を放ち、一目で凡品ではないことがわかる。本来なら攻撃用の法器であるはずの飛刀は、今や彼の前で二つの車輪ほどの大きさの光の幕と化し、無数の星のように降り注ぐ銀の符を懸命に防いでいた。


「待て!もう戦わぬ!我々は降伏する!(ちん)さん、お前の勝ちだ!この石屋内の霊草はお前たちのものだ!」

 最早持ち堪えられなくなった化刀塢の青年が、先に音を上げて降伏を申し出た。

 傍らの醜男・鍾吾も、僅かに悔しそうな表情を浮かべたものの、異を唱えることはせず、青年の言葉を黙って認めた。飛蛇と蜂の群れを自身の側へと呼び戻す。


「ふん!降参するとか言って、そんな都合のいい話があるものか!」

 黄楓谷の女弟子の中で最も実力が劣る彼女は、額にかかった髪をかき上げながら、不満げに言い放った。彼女は完全に無視され続け、腹の虫が収まらなかったのだ。

「なにっ!?我々を皆殺しにでもするつもりか?お前たちにそんな真似ができるものか!」

 化刀塢の青年はそれを聞いて逆上し、まるで女性が驚いた時のような甲高い声で叫んだ。そのあまりの声に、残る三人は思わず鳥肌が立つのを覚えた。

「無論、そんなことは致さぬ。七妹(しちまい)はただの捨て台詞だ。お二人はどうぞお引き取り願いたい。陳某(ちんぼう)は決して邪魔は致さぬ」

 黄楓谷の中年男はわずかに眉をひそめ、すぐに目配せで女の不穏な続きの言葉を止めると、鍾吾たちに向かって穏やかな口調で言った。

「へへっ…陳兄(ちんけい)さすがは陳家の嫡男。その器の大きさは、ちっぽけな小娘とは大違いだ。では、我々はこれで失礼するとしようか!」

 化刀塢の青年は急に平静を取り戻し、声も普通の男のものに戻った。そのあまりの変わりように、さながら優雅な美公子の如く、周囲の者を驚かせた。

 そう言うと、青年と鍾吾の二人は、石造りの小屋を未練たっぷりに一瞥し、苦渋の表情でその場を立ち去り、山陰に消えて見えなくなった。


兄上(あにうえ)、なぜあの二人を殺さなかったのですか?もう少し頑張れば、すぐに始末できたのに!」

 美女は二人の後ろ姿を見送った後、ついに我慢できずに振り返り、中年の男に問いかけた。

「七妹よ…あの一件以来、お前は少し偏屈になってしまったな。やれと言えばすぐに人を殺そうとする。あの二人が何者か知っているのか?彼らの出身家はどちらも名の知れた大族だ。我ら燕家(えんけ)や陳家のような超弩級の家門には遠く及ばぬが、軽んじることはできない。安易に敵を作るべきではない」

「それに…仮に本当に殺そうとしても、おそらく成功はしなかっただろう。金書銀筆(きんしょぎんぴつ)の威力を(たの)み、彼らを追い詰めたように見えたがな。実際のところ、それは彼らが逃げ出す気がなかったからこそ可能だったのだ。もし本当に殺意を剥き出しにすれば、彼らが馬鹿ではない以上、当然全力で逃走する。そうなれば、我が金書銀筆の威力がどれほど大であろうとも、二人を捕捉することは不可能だ!ただ無駄に仇敵を増やすだけに終わる」

 黄楓谷の中年男はまず、七妹を寵愛する口調で少しだけ叱り、続いて手を下さなかった理由を丁寧に説明した。その言葉に、女弟子はようやく合点がいった様子だった。


「そうだ、七妹よ。陸家(りくけ)のあの小僧は、お前を(はか)ってからというもの、全く姿を見せなくなった。どうやらお前を救った者に殺されたらしいな。もしそうなら、奴は運が良かったと言うべきか…さもなければ、奴に生死を分かつほどの苦しみを与え、我ら陳家の者に手を出すことの恐ろしさを思い知らせてやったものを」

「むしろ気になるのは、お前を救った者の正体だ。わしは大変な労力をかけて、あの数日本谷(ほんこく)を離れていた弟子を調べたが、陸家の小僧を脅かすほどの実力者が外出していた形跡は見つからなかった。無論、あの小僧の法力など取るに足らぬが、奴の持つ青蛟旗(せいこうき)※は確かに一流の頂級法器(ちょうきゅうほうき)だ。その手からお前を救い出せたということは、その者の実力は決して弱くはないはずだ。はたして、本門とは無関係の通りすがりの修仙者だったのか?」

 女の兄は突然、慈しみに満ちた口調に変え、口にした「七妹」に向かって言った。


 どうやらこの「七妹」こそが、すでに冷たく変わり果てた「陳师妹(ちんしまい)」その人であった。ただ、彼女の実兄であるこの中年の男の前では、幾分か本来の性格を取り戻しているようだった。その言葉を聞くや、すぐに顔を赤らめ、甘えた口調で言った。

「もうっ!あの男のことなんて言わないでよ!助けたくせに…人を荒れ野に一人置き去りにして、自分はあたしの築基丹(ちくきたん)※を持ち逃げしやがったんだから!どう考えたってろくな人間じゃないわ!」

 陳师妹の口調には、明らかな憤懣が込められていた!


 もっとも、彼女がこれほど恥じらいと怒りを感じた本当の理由はそれではなかった。その男のことを思い出すたびに、意識朦朧(もうろう)で全身が熱く燃え上がり、裸でいたあの情けない夜を思い出してしまうのだ。

 彼女の全身を思うままに撫で回した、あの荒い手の感触。そして相手の身体から漂う、濃厚な男の気配。それらは今なお彼女の心に深く刻まれていた。

 ただ、陳师妹は恥ずかしさと怒りから、そのことをできるだけ考えまいとし、記憶の奥底に押し込めていた。しかし実兄にそう言及され、再び思いがこみ上げてきた。思いにふける彼女の顔は、赤くなったり青ざめたりを繰り返したのだった。


 陳师妹がぼんやりと我に返った時、彼女の兄が、意味深長な笑みを含んだ目で、まるですべてを見透かすかのように自分を見つめていることに気づいた。彼女の頬はますます深く(こう)に染まった!


 甚だしく恥じらいを感じた陳师妹は、小足(こあし)を踏み鳴らすと、「薬草を採ってくるわ!」と言うや否や、自ら石造りの小屋へと向かって駆け出した。内心の奇妙な恥ずかしさを誤魔化そうとしたのだ。


 中年男は、最も可愛がっている妹の後ろ姿を見つめ、思わず微笑んだ。そして、心の中である決断を固めた。

 彼もまた、その後に続いた。


 ---


 …とある密林の中では、緑衣(りょくい)の少女が唇を噛みしめ、一羽の白い小鷲(こわし)を操り、双頭(そうとう)怪蛇(かいだ)※と苦しい戦いを繰り広げていた。どうやら一進一退の攻防が続いているらしい。怪蛇の背後には、幹全体が火のように赤い大樹がそびえ立ち、その枝には拳ほどの大きさの赤い果実がいくつも実っていた。


 …ある細長い地下洞窟の中を、白装束の男女の一団が音もなく歩いていた。その数は十五、六人ほど。どうやら禁地に生き残った掩月宗(えんげつしゅう)の弟子たちが全員、この場に集結しているようだ。そして先頭を歩むのは、かつて韓立を遠くから一目見たあの、妖精のような少女であった!


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