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『凡人修仙伝』: 不死身を目指してただ逃げてたら、いつのまにか最強になってた  作者: 白吊带
第二卷: 煉気編一初めて世間に·血色禁地
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紫猴花の守護獣

「着いた、これがその洞窟どうくつか?」二刻ふたこく後、韓立は人の背丈ほどの黒い岩の上に立ち、数丈じょう先にある丈余じょうよの高さの洞口どうこうを眺めながら、独り言をつぶやいた。


「見たところ、特に変わったところはなさそうだな!」韓立は無鉄砲むてっぽうに飛び込むことはせず、慎重に周囲を観察した。時間が限られているとはいえ、油断ゆだんから自らを危険にさらすわけにはいかない!


 資料に記載された秘洞ひとうは、外観がいかんから見る限り確かに目立たず、韓立が途中で見かけた幾つかの野洞やどうと全く同じで、何の特徴もなかった。一体どうやって当時の人物がここを見つけたのか、韓立は心底感心せざるを得なかった!


 一服いっぷくの茶を飲むほどの時間が過ぎて、ようやく韓立は付近に妖獣ようじゅう伏兵ふくへいがいないことを確信すると、慎重に洞口どうこうへと歩みを進めた。


 洞口どうこうは完全に自然の造形で、全体が淡青色たんせいしょく岩肌いわはだであり、人工的なのみの跡は微塵みじんもなかった。韓立は洞内に一歩足を踏み入れ、左右の壁を見渡しただけで、そう結論づけた。


 そして韓立は身をひるがえすと、そっと洞窟どうくつの奥深くへと消えていった。しかし、わずか十数歩進んだところで、また足を止めた。一、二度のかどを曲がった後、周囲は真っ暗闇まっくらやみに包まれていたのだ。


 韓立はまゆをひそめ、収納袋しゅうのうぶくろに手を伸ばすと、鶏卵けいらんほどの月光石げっこうせきを取り出した。この石が現れると同時に、柔らかな白光はっこうが瞬く間に周囲を照らし出し、韓立は仕方なさそうに首を振った。


 彼の当初の意図は、音もなく洞窟どうくつの奥深くにひそみ、守護妖獣しゅごようじゅうがいるかどうかを確認することだった。もし存在すれば、無駄な争いを避けるため、密かに致命的一撃ちめいてきいちげきを与えるつもりだった!しかし月光石げっこうせきが現れた今、彼自身が極めて明瞭めいりょう標的まととなってしまい、奇襲きしゅうなど不可能だ!


 韓立は片手でぼんやりと白く光る月光石げっこうせきを支え、少し躊躇ちゅうちょした後、もう一方の手で自身に土属性どぞくせい護罩ごしょうを貼り付けた。それから、足取りを慎重に進めながら、深く浅く歩みを続けた。


 洞窟どうくつ内は開けた野外とは異なり、高速の身法しんぽうには一定の制約が伴う。やはり体に防御ぼうぎょの層がある方が安心だ。そうすることで身体の敏捷性びんしょうせいは大きく低下するが、うおくまてのひら両立りょうりつしないという道理どうりを韓立はよく理解していたため、特に不満もなかった。


 この洞窟どうくつは非常に細長く、韓立が半刻はんこくも歩み続けても、まだ終わりが見えない。彼の心に疑念ぎねん芽生めばえ始めた。もしかすると場所を間違えたのではないか、あるいは頂級妖獣ちょうきゅうようじゅう巣穴すあなに迷い込んだのではないかと!


 幸いなことに、韓立のこの懸念けねんは、さらに数十丈じょう進み、目の前に大きな曲がりまがりかどが現れたことで、ようやく解消された。そのかどの向こうから、かすかに幾筋いくすじもの白光はっこうれていたのだ。これは目標がすぐそこにあることを示していた。


 韓立はそれを見ると心の中で喜び、急いで手中の月光石げっこうせきをしまい、そっと忍びしのびよった。ここに既に光があり、かつ曲がりまがりかどに位置している以上、当初の計画はまだ続行可能だと思われた!


 韓立がこそこそとかどからゆっくりと頭を覗かせた時、目の前の光景はまず彼を喜ばせたが、すぐに内心で苦々(にがにが)しく舌打ちをした。


 前方は確かにこの洞窟どうくつの行き止まりであり、しかも広々とした天然の岩窟いわやだった。そこには煌々(こうこう)と輝く鍾乳岩しょうにゅうがんが数多く生えているだけでなく、最も奥の小さな紫色むらさきいろ岩壁がんぺきに、一本のくきに数枚のをつけた淡青色たんせいしょくの小花が三、四株かぶ育っていた。


 それらの花は一寸いっすんほどの大きさで、幾枚いくまいもの花弁はなびらが奇妙にも同じ方向にきつき、協力して独特の造形ぞうけいを形成していた。遠くから眺めると、まるで数匹すうひき滑稽こっけい小猿こざるがぶら下がっているようで、実に驚嘆きょうたんあたいした!


「言うまでもなく、これらが間違いなく『紫猴花しえんか』だ。くきの色はあおいが、これは明らかに成長が浅いせいに違いない!」韓立はこの花を一目見るなり、即座に驚喜きょうきの念を抱いた。


 しかし、彼の視線が紫色むらさきいろ岩壁がんぺきの下、地面へと移った瞬間、韓立の表情は苦々(にがにが)しいものに変わった。そこには、数尺すうしゃくもの長さの巨大な百足むかでが腹ばいになっていたのだ。その漆黒しっこく光沢こうたくを放つ硬い甲羅こうら数尺すうしゃくにも及ぶ触角しょっかく、そして凶悪きょうあくな姿を見るだけで、韓立は手を出す前から背筋せすじこおる思いだった。


 彼自身は毒虫どくむし類の妖獣ようじゅうを倒したことはなかったが、その悪名あくみょうはかねてから数多く耳にしていた。


 人々の話によれば、毒虫どくむし類の妖獣ようじゅうは、同格どうかく猛獣もうじゅう飛禽類ひきんるい妖獣ようじゅうよりもはるかに手強てごわく、しかも大抵は偏屈へんくつ殺傷力さっしょうりょくきわめて高い毒術どくじゅつ会得えとくしており、油断ゆだんすれば猛毒もうどくおかされて命を落とすこともあるという。そのため、必要がなければ、なるべくこの手の妖獣ようじゅうには関わらないのが賢明けんめいだったのだ!


 目の前にいるこの百足むかでがあれほどの巨体きょたいである以上、少なくとも中階ちゅうかい妖獣ようじゅうであり、ひょっとすると上階じょうかいである可能性すら否定できなかった。そうなれば、韓立が思わず冷やひやあせをかき、歯噛はがみするのも当然だった。


 今や彼が相手を挑発ちょうはつしているわけではない。この百足妖虫むかでようちゅうが、すでにこれらの『紫猴花しえんか』の守護獣しゅごじゅうとなっているのだ。この巨大な毒虫どくむしを倒さなければ、岩壁がんぺき霊薬れいやく採集さいしゅうすることなど、全くのゆめだった!


 韓立は自身の気配を消し、ゆっくりと頭を引っ込めた。動作はできる限り軽く緩やかにし、どうやらまだ熟睡じゅくすいしているように見える巨虫きょちゅうを起こさないように細心さいしんの注意を払った。


 彼は岩壁がんぺきにぴったりと寄り添い、まゆをわずかにひそめながら、この妖獣ようじゅうに対処する万全ばんぜんさくを考えた。


 幾つかの頂級法器ちょうきゅうほうき威力いりょくを頼りに、力任ちからまかせに突撃とつげきすることも不可能ではない。金光磚きんこうせん符宝ふほう発動はつどうするだけで、十分な自信を持って一撃いちげきでこの妖獣ようじゅうを叩きつぶせるだろう。しかし、この戦いの後、彼の法力ほうりき相当量消耗しょうもうし、万全ばんぜん状態じょうたい維持いじできなくなる。


 これから先の道はまだ長く、直面ちょくめんする危険きけんも確実に増え続ける。そして彼は時間に追われているため、半日はんにちついやして坐禅ざぜんを組み法力ほうりき回復かいふくする余裕よゆうなどなかった。そのため、法力ほうりき大幅おおはば消耗しょうもうと引き換えにこの勝機しょうきを得ることに、韓立はあまり乗りのりきではなかった。


 しばらくあたまなやませた後、韓立の心にひらめきが走り、素晴すばらしい思案しあんが浮かんだ。


 行動こうどうに移る前、彼は慎重に再びあたまを出して百足むかでのぞき見た。相変わらず同じ場所で動いていないのを確認すると、ようやく胸をで下ろした。韓立はほほえむと、来た道のやみの中へと消えていった。


 すぐに、韓立は満面まんめんに笑みを浮かべて戻ってきた。


 今度は彼の体をおおっていた護罩ごしょうは消えており、こそこそとした動きも見せなかった。代わりに、大げさに体をらしながら堂々(どうどう)とかどを曲がり、百足妖虫むかでようちゅうが待つ大広間おおひろまへと入っていった。


 韓立がこれほど大げさな騒動そうどうを起こせば、もし百足むかで妖獣ようじゅうがまだ気づかなければ、それは妖獣ようじゅうではなく「愚獣ぐじゅう」だろう。そのため、この丈余じょうよ巨虫きょちゅう即座そくざ警戒けいかいして韓立に向かってあたまを持ち上げ、二本の太く長い触角しょっかくを絶え間なく振り回し、「シューシュー」という奇怪きかいな音をはっした。見る者に強烈きょうれつ恐怖きょうふを抱かせる光景こうけいだった。


 韓立はそれを見ても言葉をはっせず、手をると、数個の小火球しょうかきゅう超高速ちょうこうそくで飛び出し、見事に妖獣ようじゅう頭部とうぶ命中めいちゅうして、連続れんぞく爆発音ばくはつおんとどろかせた。


 爆炎ばくえんおさまった後、韓立ははっきりと見た。火球かきゅう直撃ちょくげきした妖獣ようじゅう頭部とうぶは相変わらず漆黒しっこくに光り、外殻がいかくには微細びさい傷痕きずあとすら残っていなかった。これにはしたいた。やはり人々が言う通り、毒虫どくむし類の妖獣ようじゅうは極めて手強いのだ!


 巨百足おおむかできずわなかったものの、韓立の挑発ちょうはつに完全に激昂げっこうしていた!


 その口元くちもとにある二本の鋭利えいりきばひらくと、赤い毒瘴どくしょう口内こうないから噴出ふんしゅつし、すさまじいいきおいで韓立へとおおかぶさろうとした。その様子ようすは、まさに韓立を毒液どくえきかしくさんとする意志を示していた。


 韓立が、明らかに猛烈もうれつどくだと分かるものに微塵みじんでもれようと、おろかにもその場につっ立っているはずがない。護罩ごしょうという重荷おもに背負せおわなくなった彼は、つまさきで地面をると、毒瘴どくしょうよりほんの少し速い速度そくど大広間おおひろまから飛び退き、り返らずに来た道を全力ぜんりょくけ出した。まるでこの妖獣ようじゅう毒瘴どくしょうを恐れて、あわてふためいて逃げ出したかのようだった。


 巨百足おおむかでが、韓立をそうやすやすと逃がすわけがなかった。左右に無数むすう手足てあしを信じられない速さでうごめかせると、その巨体きょたいは風のように大広間おおひろまを飛び出し、全力疾走ぜんりょくしっそう中の韓立に全くおとらない速度そくど追跡ついせき開始かいしした。これにはり返った韓立も仰天ぎょうてんし、必死ひっしで速度をさらに数段すうだん上げて、ようやく百足妖虫むかでようちゅうを一定の距離きょりに引き離し、通路つうろの中へと姿を消した。


 巨百足おおむかでは低い「シュッシュッ」という奇怪きかいな鳴き声をあげ、一瞬いっしゅん躊躇ちゅうちょもなく追跡ついせきを続けた。この通路つうろはこの妖獣ようじゅうが何度も通った道であり、当然韓立よりもはるかにくわしい。そのため、すぐに追いつき、韓立の後ろ姿すがたをはっきりととらえたのだった。


 百足妖虫むかでようちゅう大喜おおよろこびで、手足てあしの動きをさらに加速かそくさせ、憎々(にくにく)しげに前方へと突進とっしんした!


 そしてその時、前方の韓立が突然足を止め、り返ってにやにやとこの妖獣ようじゅうを見つめ、もう走ることを止めてしまった。まるで完全に逃走とうそうあきらめたかのようだった!


 これにより、巨百足おおむかでまたたく間に韓立からわずか三、四丈じょう距離きょりまで接近せっきんした。目の前の小柄こがらな人間をきばで粉々(こなごな)に引きこうと喜んだ瞬間、腹部ふくぶ激痛げきつうが走り、巨体きょたいがぐらりとれた。すぐにがた苦痛くつうおそわれ、地面をころげ回り始めた。続いて大量たいりょうの黒い毒血どくけつが体の下からき出し、あた一面いちめんに広がった。


 なんと、いつしか巨百足おおむかでの最も脆弱ぜいじゃく腹部ふくぶが、鋭利えいりきわまる刃物はものによって気づかれぬうちに真っぐに切りかれ、この妖獣ようじゅうは見事にはらかれていたのだった。これほどの致命傷ちめいしょうであれば、巨百足おおむかでがこれほどの苦痛くつうもだえるのも無理はなかった!


 そしてかたわらに立つ韓立が、窮地きゅうちおちいった相手を追い好機こうきのがすはずがなかった。彼は手をげると、円形えんけい金光きんこうと青く光る飛刀ひとうはなち、巨百足おおむかでの二本の太い触角しょっかくへと真っぐにりつけた。


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