おんなのこになった
王様から部屋から出てもよいというお許しを得て、アイリスお姉ちゃんと一緒に散歩することにした。
お城の中庭できれいなお花を眺めたり、噴水の周りをぐるぐると回ってみたり……。
とにかくこの体になって、体を動かすことが楽しくて仕方がなかった。
新しいお姉ちゃんと一緒に過ごせることが、心から嬉しくてたまらないの。
お城の中を見学していると、壁に大きな肖像画があった。
そこには大きな白いドラゴンと、王様、お妃様、二人の皇子と皇女が描かれていた。
「この絵にはね、ドラゴンの姿のサニアお母様、つまり、あなたのお母様、そして、人の姿になったサニアお母様、お父様と私たち姉弟が描かれているの。」
「サニアお母様って、母様は王様に名前を付けてもらったの?」
「そうね、そこは私にも詳しくは教えてもらえないの。
いずれお父様たちからお話があると思うの。」
「うん、わかった。」
少なくとも母様は魔物の王として討伐されたのではなく、ここでしばらくは人の姿で暮らしていたのだな。
こうして肖像画にされているということは、ここでの生活も悪くはなかったのだと、少し安心した。
お城の南東には、きれいな花畑があった。
その一角にある、大きな石造りの建物が立っていた。
「あれはね、竜の聖廟。
この国の危機を救ったドラゴンのサニアお母様に感謝をささげ、この国の発展と安寧を願うところなの。
大きく羽を広げた、ドラゴンの石像があるのよ。
いまでも人気があって、たくさんの人がお参りに来るの。
だから、お城の外から直接入れるようになっているのよ。」
「あそこに母様がいるの?」
「さぁ、そのあたりのことも、お父様からは伺っていないのよ。」
「あそこに入れるの?」
「うーん、私達王族はね、お祭りや行事の時には入れるけど、普段は行くことが出来ないのよ。」
「どうして?」
「それはね、警備の問題だって。
ほら、あそこはいろいろな人が自由に出入りできるでしょう?
だからあそこは城の外と同じなんだよ。
護衛がいないと、行くことが出来ないんだよ。」
母様は、ここでは感謝され、みんなの守り神になったんだな。
もう会うことはできないとしても、こうして母様がたくさんの人の心に中で生きている。
私はちょっと嬉しかった。
お城の中門から外門の間には、騎士たちの宿舎や練兵場、厩などの軍事の施設が並んでいた。そこでアルスは日課の訓練に励んでいた。
私たちの姿を見ると、騎士団長が慌ててやってきた。
「おはようございます、アイリス様。
このようなところへお越しいただきまして、ありがとうございます。
して、どのようなご用件で?」
アイリスが来るだけで、練兵場の士気が上がる。
それほどアイリスは騎士見習の間では人気の的だった。
「アルスは今、ここにいるかしら?
少しお話をすることがあって。」
「は、ただいまお連れいたします。
しばらくお待ちください。」
「おい、殿下をお呼びしろ。
アイリス様がお越しだと。」
「は、かしこまりました。」
私たちは騎士団長の部屋に通された。
しばらくして甲冑姿のアルスが現れた。
「やあ姉さん、こんなところまでやってくるとは、なにかあったのかい?」
「あなたに新しい妹を紹介しようと思ってね。
この子が『ラヴィ』よ。」
「え、冗談はやめてくれよ、『ラヴィ』はウサギだろ?
この子はどう見たって普通の女の子じゃないか。」
私は少しいたずらっぽくお兄様にあいさつした。
「ラヴィです。
昨日までウサギをしていました。
今日は女の子です。
明日はドラゴンかもしれません。」
「ぷっ、やだぁ、この子ったら。
でもね、本当の話なのですよ。」
「もしかして……サニアお母様の?」
「そうよ、森の主様。
その方でありますよ。」
アルスは慌てて臣下の礼をとった。
その様子を見ていた騎士団長や部下たちも続いて臣下の礼を取る。
私は急に恥ずかしくなって、お姉ちゃんの後ろに隠れた。
「ああ、恥ずかしくなっちゃったのね。
アルス、普通にお話をしてあげて。」
「その……ラヴィでいいのかな?
先日は身に余るご歓待を賜り……。」
私はお姉ちゃんの後ろでスカートをぎゅっとつかんで顔をうずめていた。
「だから、そういうのはいいの。
妹になったのだから、かわいがってあげて、ね?」
「ああ、ラヴィ、これからもよろしくね。」
私は少しはにかんで、差し出された手を握る。
「はい、これで紹介はすんだわね。
騎士団長殿、そういうことだから、よろしく頼みますね。」
「は、承りました。」
それから私たちは、竜の森での出来事を団長を交えて楽しくお話したの。
特に宴会芸のオーガ部隊の剣技は、今でもアルスお兄様の目に焼き付いていて、身振りを交えて団長に説明していた。
「こう、二人の剣士が別々の動きをしながら、剣を振るうんだけれども、当たりそうで、当たらない。ちゃんと動きが計算されていて、すごかった。」
アルスお兄様は木刀を持って、もう一人の若い見習いとともに再現しようと頑張ってみたが、時々木刀で相手をたたいてしまい、「いてえ」なんて言っていた。
「あはは、これはもう一度、カイルに習わないとだめだねぇ。」
もう一度、遊びに来てくれないかなぁ。
私はそんなことを願いながら、王城でのひとときを、楽しく過ごしていた。