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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
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おんなのこになった

 

 王様から部屋から出てもよいというお許しを得て、アイリスお姉ちゃんと一緒に散歩することにした。

 お城の中庭できれいなお花を眺めたり、噴水の周りをぐるぐると回ってみたり……。

 とにかくこの体になって、体を動かすことが楽しくて仕方がなかった。

 新しいお姉ちゃんと一緒に過ごせることが、心から嬉しくてたまらないの。


 お城の中を見学していると、壁に大きな肖像画があった。

 そこには大きな白いドラゴンと、王様、お妃様、二人の皇子と皇女が描かれていた。


「この絵にはね、ドラゴンの姿のサニアお母様、つまり、あなたのお母様、そして、人の姿になったサニアお母様、お父様と私たち姉弟が描かれているの。」


「サニアお母様って、母様は王様に名前を付けてもらったの?」


「そうね、そこは私にも詳しくは教えてもらえないの。

 いずれお父様たちからお話があると思うの。」


「うん、わかった。」


 少なくとも母様は魔物の王として討伐されたのではなく、ここでしばらくは人の姿で暮らしていたのだな。

 こうして肖像画にされているということは、ここでの生活も悪くはなかったのだと、少し安心した。


 お城の南東には、きれいな花畑があった。

 その一角にある、大きな石造りの建物が立っていた。


「あれはね、竜の聖廟。

 この国の危機を救ったドラゴンのサニアお母様に感謝をささげ、この国の発展と安寧を願うところなの。

 大きく羽を広げた、ドラゴンの石像があるのよ。

 いまでも人気があって、たくさんの人がお参りに来るの。

 だから、お城の外から直接入れるようになっているのよ。」


「あそこに母様がいるの?」


「さぁ、そのあたりのことも、お父様からは伺っていないのよ。」


「あそこに入れるの?」


「うーん、私達王族はね、お祭りや行事の時には入れるけど、普段は行くことが出来ないのよ。」


「どうして?」


「それはね、警備の問題だって。

 ほら、あそこはいろいろな人が自由に出入りできるでしょう?

 だからあそこは城の外と同じなんだよ。

 護衛がいないと、行くことが出来ないんだよ。」


 母様は、ここでは感謝され、みんなの守り神になったんだな。

 もう会うことはできないとしても、こうして母様がたくさんの人の心に中で生きている。

 私はちょっと嬉しかった。


 お城の中門から外門の間には、騎士たちの宿舎や練兵場、厩などの軍事の施設が並んでいた。そこでアルスは日課の訓練に励んでいた。

 私たちの姿を見ると、騎士団長が慌ててやってきた。


「おはようございます、アイリス様。

 このようなところへお越しいただきまして、ありがとうございます。

 して、どのようなご用件で?」


 アイリスが来るだけで、練兵場の士気が上がる。

 それほどアイリスは騎士見習の間では人気の的だった。


「アルスは今、ここにいるかしら?

 少しお話をすることがあって。」


「は、ただいまお連れいたします。

 しばらくお待ちください。」


「おい、殿下をお呼びしろ。

 アイリス様がお越しだと。」


「は、かしこまりました。」


 私たちは騎士団長の部屋に通された。


 しばらくして甲冑姿のアルスが現れた。


「やあ姉さん、こんなところまでやってくるとは、なにかあったのかい?」


「あなたに新しい妹を紹介しようと思ってね。

 この子が『ラヴィ』よ。」


「え、冗談はやめてくれよ、『ラヴィ』はウサギだろ?

 この子はどう見たって普通の女の子じゃないか。」


 私は少しいたずらっぽくお兄様にあいさつした。


「ラヴィです。

 昨日までウサギをしていました。

 今日は女の子です。

 明日はドラゴンかもしれません。」


「ぷっ、やだぁ、この子ったら。

 でもね、本当の話なのですよ。」


「もしかして……サニアお母様の?」


「そうよ、森の主様。

 その方でありますよ。」


 アルスは慌てて臣下の礼をとった。

 その様子を見ていた騎士団長や部下たちも続いて臣下の礼を取る。

 私は急に恥ずかしくなって、お姉ちゃんの後ろに隠れた。


「ああ、恥ずかしくなっちゃったのね。

 アルス、普通にお話をしてあげて。」


「その……ラヴィでいいのかな?

 先日は身に余るご歓待を賜り……。」


 私はお姉ちゃんの後ろでスカートをぎゅっとつかんで顔をうずめていた。


「だから、そういうのはいいの。

 妹になったのだから、かわいがってあげて、ね?」


「ああ、ラヴィ、これからもよろしくね。」


 私は少しはにかんで、差し出された手を握る。


「はい、これで紹介はすんだわね。

 騎士団長殿、そういうことだから、よろしく頼みますね。」


「は、承りました。」


 それから私たちは、竜の森での出来事を団長を交えて楽しくお話したの。

 特に宴会芸のオーガ部隊の剣技は、今でもアルスお兄様の目に焼き付いていて、身振りを交えて団長に説明していた。


「こう、二人の剣士が別々の動きをしながら、剣を振るうんだけれども、当たりそうで、当たらない。ちゃんと動きが計算されていて、すごかった。」


 アルスお兄様は木刀を持って、もう一人の若い見習いとともに再現しようと頑張ってみたが、時々木刀で相手をたたいてしまい、「いてえ」なんて言っていた。


「あはは、これはもう一度、カイルに習わないとだめだねぇ。」


 もう一度、遊びに来てくれないかなぁ。

 私はそんなことを願いながら、王城でのひとときを、楽しく過ごしていた。


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