エピローグ
しばらくして――
アルゴはその魔法の才が認められ、アカデミーへの入学が許可された。
そこで魔法とともにアルスと机を並べ、治政学を学ぶこととなった。
もちろん講師はサポニスだった。
お姉ちゃんとアルスは騎士団に入隊し、それぞれ騎馬の訓練や戦闘訓練などに励んでいる。
時々竜の森で行われる演習にも参加しているようだ。
竜騎士の槍は秩序の天秤が置いてあったところにある。
魔法陣に囲まれて、宙に浮いているようだ。
サポニスは、この世界の平和に脅威が現れたときには魔法陣が教えてくれると言っていた。
竜の森では合宿用の寄宿舎が建てられ、フランネル公国、ステラ共和国から若い人が合宿に来ることになった。
森の住民たちが先生になって、教えていた。
相変わらず騒がしいカイルと基本に忠実で静かなネルフの間で時々言い合いになるのだけれども、そこは研修生の「陣取り合戦」で決着をつけたみたい。
チコおばちゃんの元には厨房の関係者ともに侍女見習たちがやってきた。
チコおばちゃんのおやつのレシピは王城の侍女たちの間ではちょっとした流行になっていた。
ナギおじさまのところには鍛冶ギルドからの鍛冶職人の派遣が行われていた。
そこでは新しい槍や剣が作られ、街で売られたり、森の守護者たちに渡されていった。
今日も朝から鍛冶場から小気味よい槌の音が聞こえていた。
チコおばちゃんのお鍋を叩く音が聞こえる。
ご飯だよって。
森のあちこちから仲間たちや若い人たちが集まってくる。
この森の食堂もすっかりみんなのものになったね。
今まで平和でのんびりだった森が、とても忙しくなった。
とはいえ、合宿は2週間で、そのあとは4週間の休み。
のんびりの時間はちゃんと確保されていた。
今日も空から人々の暮らす街を眺めていた。
もう姿を隠していない。
街の人たちが手を振ってくれた。
「ドラゴンが来た!」と声を上げる子どもたちの笑顔を見ると、胸が温かくなった。
この姿のまま街の上を飛んでも、もう誰も私を恐れなかった。
私の隣をサポニスが一緒に飛んでいた。
「お嬢様、あの日と同じ空ですが、あなたの目に映る景色は違って見えるでしょう。」
「そうね、街が怖いところじゃなくて、今は私の友達が住む場所だって思えるよ。」
サポニスは穏やかなほほえみを浮かべた。
「お嬢様、竜の森と人々をつなぐ架け橋として、あなたの役目は始まったばかりです。
のんびりしつつも、忙しい日々が待っていますよ。」
私は翼を広げて、街の上をゆっくり旋回した。
「まあ、それも案外悪くないかもね。
だって私、忙しい日も好きになったんだもの。」
風が翼を後押しして、私は空高く舞い上がった。
森のドラゴンは勢いよく大空を駆け抜け、翼は雲を引き、青空に一条の光を描いていた。
第1章 おわり




