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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
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ステラきょうわこく

 

 帝都を脱出していた人々が光の柱を見て、戻ってきた。

 そこには清々しい空気が流れていた。

 帝都にはさわやかな風が吹き、空には小鳥たちが楽しげにさえずり、その声が風に乗って響いていた。


 帝都を望む小高い丘の上に4人の姿があった。

 柔らかな風が草原を吹き抜け、帝都には平和の鐘が鳴り響いた。


「さて、チコおばちゃん特製のお弁当にしましょう。」

 私がそう言うとお姉ちゃんもおなかが空いたと言っている。


 サポニスの分もあると言われていたので、期待を込めてリュックをのぞいてみると、ちゃんと「リーンの実」と「仙寿桃」が入っていた。


「私の分をアルゴに上げるよ。

 一度食べたらわかるよ、チコおばちゃんの料理は最高なんだから。」

 そう言ってお姉ちゃんはアルゴにお弁当を手渡した。


「そういえば初めてだね。

 一緒にご飯を食べるのは。」


「うん、そうだね。

 今度からはサナも一緒に連れてくるよ。」


「あらら、おませさんね。」


「ちげえよ、そんなんじゃないから。」


「うん、まだまだ子供ね。」


「お前だけには言われたくないよ。」


 このやり取りにはサポニスも笑っていた。


 私とお姉ちゃんは、手を繋いで穏やかな空を見上げた。

 空には白い雲が流れ、のんびりした風景をみんなで楽しんでいた。


 王城へ人の流れが戻っていった。

 人々が魔の手から救出されたことを喜び、互いに無事を喜んでいた。


「俺にはまだやることがあるからな。」


「ほら、『おねえさま』がいるでしょ、こういうときは頼りなさい。

 いい、大魔導士が魔の手に落ちて亡くなったことはお知らせしなければならない事実だけれども、どう伝えるか、民を安心させるのが皇族の務めなのよ。」


「そうですね。民を安心させることこそ、為政者の務めですから。」


「次の王様、頑張れ~。」


「でもなんて言えばいいのかな。」


「そこはほら、サポニス様がいるでしょ。

 それから私たち竜騎士は、民の希望なのよ。

 ついていてあげるから、しっかりとやりなさいよ。」


 王城前の広場には、鎮まりかえった王城を心配するものが集まってきた。

 かつて闇に支配され、見るも恐ろしかったその姿が、今では陽光を浴びて美しく、そして穏やかな空気に包まれてた。


「ここはカッコよく登場ですかね。」


 私はドラゴンになってお姉ちゃんとともに王城の中から民衆の前に出ていった。

 わざわざ王城に空から戻り、民衆への演説のための演出を準備した。

 そのあと、サポニスとアルゴお兄様の出番ということになった。


 王城の中庭から正門を通って広場へ出ると、民衆が期待に満ちた様子で待ち構えていた。


「竜騎士様だ。

 森のドラゴンと一緒だ。」


 驚いた様子で口々にささやいていた。

 何が起こるのかわからずその場で様子を見ていたが、アルゴ皇子とサポニスの登場で民衆は一気に湧き上がった。


「アルゴ殿下だ、アルゴ殿下がこの国を救ってくれたぞ!」


 人々は抱き合い、涙を流してこの瞬間を迎えていた。


「皆さん、静粛にお願いします。

 ここにいる方々は、私が住んでいるフランネル公国の第一皇女アイリス殿下と森の守り手のドラゴンのラヴィ殿、そして森の賢者サポニス殿です。

 我が魔導大国が魔の手に落ち、不死の国として多くの者の命を奪い、そしてこの国を闇の呪いで支配していたことは皆が知っていることと思います。

 私はその状況に心を痛め、姉である竜騎士アイリス殿に助力を求めました。

 アイリス殿下は、新たな竜騎士として竜騎士の槍を継承し、その力を、正義を行うものとして、この国の惨状から皆を救ったのです。」


 民衆はさざ波のような喜びから大きなうねりとなって歓喜に沸いた。


「我が祖父大魔導士ネビュラはその戦いの中で失意のうちにこの世を去りました。

 そして皇后ラランザも、抵抗むなしく魔の手に落ち、この世を去りました。」


 民衆の間にどよめきが起こる。

 祖父は為政者としては、強いリーダーとして民たちの支持を得ていたのだ。


「しかし私はこの国の未来を託され、この国を平和で豊かな未来のある国にするという責務を負いました。

 同時に私はこの国を民のための国、民主国家にするという使命を持って、この国を作っていくと約束します。

 だから私の愛する民たちよ。

 平和と調和が治める、『優しい未来』を、共に築いていこうではありませんか。」


 民衆の間にはさざ波のように歓喜が広がっていった。


「私はこの国を『ステラ』と名付けます。

 それは、亡き母が愛したこの空の星のように、未来を照らす国にするためです!」


 民衆の興奮は一気に最高潮に達し、圧政からの解放を喜び合っていた。

 次第に民衆からは「アルゴ殿下、万歳!」と名前を叫ぶ声が高まった。

 アルゴは両手を上げてそれを鎮めた。


「私は一度、公国へ帰還しなければなりません。

 この国の復興のために助力を願おうと思います。

 しかし、そのあとは今後の国作りのため、皆さんのために働こうと思います。

 ですから皆さんには、この国の復興のために力を貸してほしいと思います。

 それでは皆さん、また会いましょう。」


 そう言ってお姉ちゃんがアルゴの手を取って私の背中に乗せ、私は二人を乗せて飛び立った。

 サポニスも後から続いて飛び立った。


「およそ14歳とは思えない演説だったわね。」


「ああ、サポニス様が念話で語ることを教えてくれたんだよ。」


「貴方念話が使えるの?

 私だって魔道具に頼っているのよ。」


「そりゃ、魔法使いは魔物も使役するからね。

 魔力を使ってできるようになる訓練もするんだよ。」


「まだまだ私たち二人にはお互いに知らないことが多いようね。

 帰ったらゆっくり話をしましょうか。」


「そうだね、アルス兄さまと一緒にね。」


 私がこの二人を乗せてフランネル公国王都の上空に到達すると、騎士団が街道を貸し切りにして迎えてくれているのがわかった。

 サポニスが事前にエリックに伝達をしていたようだ。

 私は真っすぐな王城への街道にゆっくりと着陸した。


 その様子を見ていた民衆から、

「アイリス殿下万歳、アルゴ殿下万歳」と声が上がった。


 その声に驚いていたのはアルゴだったが、

「なに言ってるの、あなたも皇子なんだから。

 今回はあなたが主役よ。」


 お姉ちゃんがアルゴの背中を押した。

 すると侍女のサナが駆け寄って、

「お散歩はどうでしたか、アルゴ殿下。」

 にっこり笑って言った。


「ああ、とてもよかったよ。」

 アルゴも照れながら話していた。


 王城の謁見の間では、父王ロベルトとアルス皇子、ベスパー大臣など、国の重鎮たちが顔をそろえていた。


「ご報告申し上げます。

 今回の騒動は『ワイトキング』という魔界のものによるものでした。 

 そのものは、魔導帝国帝都の民を生贄とし、強大な不死の帝国を作ろうとたくらんでおりました。

 我らはその野望を阻止し、ワイトキングの討伐に成功いたしました。」


 この報告に謁見の間に拍手と歓声が沸き起こった。


「しかし、アルゴ殿下とともに大魔導士ネビュラ、ラランザ皇后も奮戦いたしておりましたが、残念ながらお二人は帰らぬ人となりました。

 そののちは、我ら竜騎士とドラゴンのラヴィによる帝都の浄化を行い、街は平和を取り戻しております。」


 お姉さまがこれまでの経緯を報告した。


「して、民たちの様子はどうじゃ。

 暴動などにはなっておらんのか。」


「はい、民たちにも多くの犠牲者は出ましたが、後継者としてネビュラ様から指名された弟のアルゴが民たちの動揺を鎮め、為政者として演説を行い、帝都の復興へと導いております。」


「なに、演説とな。

 ここ最近、息子たちの成長に驚かされている。

 アルゴよ、よくやったぞ。」


 アルゴに向け、賞賛の拍手が送られた。


「さて大臣たちよ、今後の帝国への対応も含め、会議が必要じゃな。

 それではアイリスたちは下がって疲れを癒すがよい。

 アルゴもサナが待っているであろう。

 早く行って話をしてやるがよい。

 皆の者、大儀であった。」


 その日の夜は久しぶりにお姉ちゃんとお風呂に入って休んだ。

 お姉ちゃんは日記に今日のことを書いていた。


「今日は大変な一日だったけど、たくさんの人の生と死にかかわって、その中での竜騎士の正義って、何だろうって色々考えたよ。

 そしたらね、ラヴィが答えをくれたの。

『愛は裏切らない。

 だからこうして戦える。

 愛するものを守る力になれるの。

 愛を信じる者がいる限り。』ってね。」


 私はそれを聞いて、真っ赤になった。

 夢中で言った言葉を後からこうして聞かされると、恥ずかしくて、枕に顔をうずめてじたばたしてしまった。


「ねぇラヴィ、私たち竜騎士は、こうして世界の秩序を守っていくことになるのよね。

 これからもよろしくね。ラヴィ。」


 そう言ってお姉ちゃんはぎゅ~ってしてくれた。

 私はお姉ちゃんの腕の中で安心して眠っていた。


 それから数日後、アルゴ第二皇子は正式に帝国の皇太子となり、国の名前も「ステラ共和国」と名を改めた。

 共和国にはフランネル公国から代官としてベスパー大臣が任命され、政治の中心となる役所には、公国から文官が派遣されていた。


「ステラとは、お前の母、第二王妃の名だったな。

 夜空に輝く星のようであった。

 お互い違う形で出会っておれば、もっと分かり合えたかもしれぬな。

 アルゴよ、お前の成長を誇りに思うぞ。

 だが、まだ学ぶことは多い。

 王としての道は険しいぞ。

 国を栄えさせることが亡き母への手向けと心得よ。」

 と、父王がアルゴに説いた。


「母上様……。」

 アルゴは西の空に輝く明星を見上げ、祈りをささげていた。


「どうか、私たちを、正しき道へお導き下さい。」


 夕暮れの空に、星はひときわ、輝いて見えた。


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