まどうていこくへ
次の日、私はお姉ちゃんとサポニスと一緒に魔導帝国に様子を見に行くことにした。
「ここから北に向かって飛行すれば約2時間で到着します。
相手にわからないようにできるだけ高く飛びます。
寒くなるので気を付けてください。」
とサポニスが教えてくれた。
「お嬢様、高く飛ぶときには翼に霜が付くことがありますので注意してくださいね。
それからアイリス殿下も金属の鎧は表面に氷が付きます。
かなり冷えますので防寒対策をしっかりと行ってください。」
「サポニスはその薄いローブなの?」
「ええ、これには耐寒と耐火の付与がされています。」
「ねぇ、ナギおじさま、同じのが欲しい。」
「無茶言うなよ。お嬢はドラゴンの姿だろ。
何か身につければ飛行に影響が出るってもんだ。
でもまてよ、姫さんのお守りに細工をすればいけるかもな。」
と言ってお姉ちゃんのお守りに刻印魔法をつけた。
「ほれ、りゅうのお守りでお嬢に風の壁を作るだろ?
そいつをちょいと暖かくすれば飛ぶのも邪魔にならない。
姫さんがイメージすれば暖かい風や冷たい風にも変わるってもんだ。」
「ありがとう、おじさま。」
「それから姫さんにはその甲冑に刻印魔法を施せば、高いところを飛んで凍っちまうなんてこともなくなる。」
そうしてお姉ちゃんの鎧にも刻印魔法を施した。
「姫さん、ちょいと鎧に魔力を通してもらえるかい?」
「ええ、こうかしら。」
とお姉ちゃんが鎧に魔力を込める。
「どうだ、あったかいだろ?」
「はい、ありがとうございます。」
「旦那、これでかなりの高さを飛んでも心配ない。」
サポニスは地図を広げて、
「この南のほうにある森が竜の森です。
魔導帝国への近道は、この山脈をこえなければなりません。
通常、交易には山脈を迂回して隣国を経由するのですが、高いところを飛んでも大丈夫なら、問題ありませんね。」
「待っておくれ。
片道2時間もかかるなら、途中でおなかがすくだろう。
お弁当をもってお行きよ。」
「ありがとうございます。
ではリュックサックにしまいますね。」
「旦那の分もあるからね。」
とチコおばちゃんが心配そうに言った。
「ありがとうございます、では出発しましょうか。」
「気を付けていくんだよ」
サポニスが先行して道案内をしてくれた。
私とお姉ちゃんはそのあとをついていく。
それにしてもサポニスが飛ぶのはかなり速い。
ドラゴンの私でもついていくのが精いっぱいの飛び方をしていた。
私たちは国境の山脈までは地上の様子がわかるくらいの高さを、北に向かって飛んでいた。
「そろそろ山に差し掛かります。
高度を上げていきます。
国境を越えてからは、高度を維持したまま、かなり高いところを飛びますよ。」
サポニスと私は念話で話ができるけど、お姉ちゃんには今サポニスが言ったことを伝える。
結構なスピードで高いところを飛ぶのでそろそろ寒くなってきた。
お姉ちゃんはりゅうのお守りと鎧に魔力を通して暖かくしていた。
もうかなりの高度があり、足元に雪の山脈が見える。
私たちは高度を維持したまま国境を超えた。
サポニスが私と並んで飛びながら、左前方に高い塔がある建物が見える、大きな街を指さした。
「あそこが帝都です。」
私たちは帝都の塔に近づくと、ゆっくりと旋回しながら高度を落とし、街の様子を眺めていた。
「そろそろ気づかれてもいい頃なんですがねぇ、何もしてきません。」
街から街道へ直線状に車列が続き、急いで帝都を離れる人たちを見た。
「何かあったのでしょうか?
街の人が避難していますね。」
私たちの姿を見ても、何もしてこない。
私たちは低空で王城へ近づくことにした。
王城からは、黒い霧のようなものが立ち込め、魔導兵があふれ出し、街に向かっているのが見えた。
「これは大変なことになりましたね。
フランネル公国の王都や竜の森の攻略に向かうはずだった魔導兵が、行き場をなくしてあふれているようです。
町の人たちが襲われていますね。
アイリス殿下、お願いできますか。」
「はい、やってみます。
ラヴィ、手伝って。」
「うん、お姉ちゃん頑張って。」
二人の竜の紋章と竜騎士の槍の紋章が輝き出した。
「ホーリーフィールド」
お姉ちゃんは王城の塔のてっぺんに光の柱を出現させ、帝都全体を包むようにその範囲を広げていく。
天空から降り注ぐ光の柱はただの魔法ではなく、まるで神の啓示のようだった
「これであふれた魔導兵は消えたようね。
もう王城からは出てこなくなった。」
サポニスが王城の前の庭園を指し、着陸するように指示を出した。
「なにがあったのか、調査する必要がありそうですね。
先ほどのホーリーフィールドで、力の弱いアンデッドは消滅したと思います。
これから先に待ち構えているのは自ら不死を獲得した力のある者たちです。
気を付けていきましょう。」
私はドラゴンの姿では王城に入れないので、ここからは竜人の姿に戻った。




