きかんほうこく
王城では騎士団長をはじめとする軍の勢力が結集し、『打倒魔導帝国』を高らかに叫んでいた。
「王よ、今こそご決断を。
今ならば魔導帝国の力も弱体化しております。
亡き王妃様の仇を取るべきです。
今回我々に仕掛けた侵略戦争の代償がいかに大きいかを思い知らせるべきです。」
と軍人たちが騒ぎ立てていた。
竜の守護騎士となったアルスは、謁見の間で軍の要人たちを前に、
「みなさん、私たちはこれまで、力こそが平和を守る唯一の手段だと信じてきました。
しかし、竜の森での経験は違う可能性を示してくれました。
私たちが武器を捨て、言葉を交わしたことで平和を保つことができました。
その結果、森の主たちと共に秩序を守る協力関係を築けたのです。」
人々は、アルスの言葉に耳を傾けた。
「あの場所では、対話と調和が秩序をもたらし、力に頼らずに争いを防ぐことができているのです。
私たちが今必要としているのは、力を振りかざすことではなく、対話の道を切り開く勇気です。
どれほど強い剣を持っていても、心を閉ざしたままでは誰も救えません。
『秩序の天秤』は、力ではなく調和を求めています。
そしてその調和は、私たち一人ひとりの心の中にあるはずです。」
アルスは力強く語り、兵士たちに訴えた。
「さあ、私たちの未来を築きましょう。
力ではなく、対話を。戦争ではなく、調和を。
この選択こそが、私たちの子どもたちに平和な世界を贈る唯一の方法なのです。」
軍の兵士は剣を床に置き、アルスに跪いた。
兵士たちが剣を床に置くその音が、謁見の間に響き渡った。
それは、戦争ではなく平和を選ぶ決意の象徴だった。
「今、我々は力を持っています。
しかし、その力をどう使うかが大切なのです!
我々の選択次第で、未来は変わります。
武力を使うことが勇気ではありません。
対話を試みること、相手を理解しようとすること、それが本当の勇気です。
この選択が難しい道であることは承知しています。
しかし、その先には、子どもたちが笑顔で暮らせる世界が待っているのです。」
この演説には、まず王自らが立ち上がり、賞賛の拍手を送った。
続いてその場にいた者たちからも拍手が送られた。
騎士団長はその場に立ち尽くし、目頭を押さえることもできずに涙を流した。
『これが、真の王の器なのだ……』と小声で呟いた。
ベスパー大臣も、
「あの幼くかわいかった皇子が、我が国の未来のためにできることを示唆しておられる。
本当に立派な竜の守護騎士になられたのですな。」
拍手と賛同の歓声がやんだ後、王は静かに語り掛けた。
「して、魔導帝国への対応はいかがする。」
と王はアルスに問う。
「明日、魔導帝国には竜騎士アイリスとラヴィ、サポニス様が向かわれます。
まずはその3人が何を為すか、見届けましょう。」
竜の森の大岩の塔にはたくさんの森の住民が訪れた。
今回の戦の勝利を祝う目的もあったが、何よりも我らが森の守り手であるドラゴンに会いたいという人たちがたくさん来て、今ばかりはお姉ちゃんも竜騎士は、立派なドラゴンの隣に立つ護衛だった。
「ねぇラヴィ、やっぱりあなたって人気者だったのね。こんなにたくさんの人たちから愛されているじゃない。」
「そう? お姉ちゃんだって騎士団の人たちから言われているでしょ。
『尊い』って。
どういう意味かはわからないけどみんな言うんだもの。」
「あはは、そうだね、私はある意味度を越してかわいがられているかな。」
竜人の姿であれば仲の良い姉妹に見えるのだが、ここは威厳を見せなければならないところ。
竜の森の守護者がかわいい女の子では示しがつかないとネルフが言った。
サポニスは竜騎士の紹介が終わるまではこの姿でいてほしいと言っていたので、今は少し我慢している。
「皆の者、杯は行き渡ったな。
今日は魔導帝国からの侵略から森を守った祝勝会であるが、その勝利に貢献した二人を皆に紹介する。
共に戦ったものはすでに承知しているが、ここに新たなる竜騎士アイリス殿下と、我らが森の守り手のドラゴン、ラヴィ様がこの困難な局面を乗り越え、我々を勝利に導いたのです。
そしてお二人は、秩序の天秤に認められ、その力の象徴である竜騎士の槍を手にしております。
これが何を意味するかは皆様にはお分かりですね。
我々は世界に向けて宣言します。
新たなる竜騎士とドラゴンの時代の幕開けを。」
サポニスが高らかに宣言した。
その言葉が響いた瞬間、森の住民たちが一斉に歓声を上げた!
「新たなる竜騎士アイリス殿下、森の守り手ラヴィ様に乾杯」
杯を掲げる人々。
その視線の先にいるのは、新たなる時代を切り開く竜騎士とドラゴンだった!
会場は大盛り上がりで宴が行われた。
私は竜人の姿になり、お姉ちゃんとともにチコおばちゃんの料理を堪能していた。
今日もおばちゃんは、「まったく吞兵衛どもは」とあきれていたけど、その顔はいつもよりにこにこしていた。
多くの人々からの祝福を浴びて、私とお姉ちゃんは静かに手を取り合った。これが、二人の始まりなのだ……!




