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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
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わるいひとたち

 

 南側の森に20人くらいの人が住み着いていた。

 夜になると近くの人の街へ強盗に行き、朝になると帰ってくる。

 そこからお金だけでなく、食料や酒、女の人まで奪ってくる。

 この前は羊を引きずって連れてきた。

 森の南にある村は、みんな怖がっているけど、誰も戦うことが出来ない。

 夜になると外に出ないでおびえて暮らしている。

 そんな様子さえもわるい人達は喜んでいた。


「この人たち、いったいどういうつもりなの?

 みんなにひどいことをして、それで喜んでいるなんて。」


「あれは強盗団ですぜ、追っ払ってきましょうか。」


 血気盛んなカイルがそう言った。


 一方ネルフは、


「あの統率の取れた動きは元兵士だろうか?

 だとしたら安易には攻められないと思うぞ。」

 と慎重な意見をした。


 サポニスは、

「人間同士の争いごとに、あまり首を突っ込むものではありません。

 私の部下が人間の街で暮らしておりますので、まずは使いを出しましょう。」


「おう、だがな、嬢ちゃんに迷惑がかかるようなことにはなりはしないかね。」


「お嬢様が出てきてしまうと、話はややこしくなりますから。

 ここは人間同士で何とかしてもらいましょう。」


「見ているだけなの、サポニス。

 私はあののんびりとした街が、この人たちのせいで悲しみに満ちた姿になるのは耐えられないの。」


 サポニスはしばらく黙って、それから、

「それでは『秩序の天秤』を使ってみるのはどうでしょうか。」


 私の洞窟の奥にひっそりとおいてある。

 魔法陣の中心に置かれた天秤は森の守り手に代々引き継がれている魔道具で、秩序の天秤と呼ばれている。

 それは私たちの竜の森の中に悪意がある者がいると、天秤が秩序の乱れを示す。

 この森の秩序を乱すものであれば、森の守り手として黙っているわけにはいかない。


 サポニスに教わったとおり、魔法陣に竜の魔力を注いでゆく。

 秩序の天秤が淡い青い光を放ち、まるで森がざわめくように風が吹き抜けた。

 秩序を乱す者に対しては、竜の森自身がその存在を拒み、追い出すように仕向けるのだ。

 あとは人間の罪は人間自身が裁けばいい。


 秩序の天秤は盗賊団の存在を許さなかった。

 森の奥から白い霧が静かに立ち込め、盗賊団の視界を徐々に奪っていく。

 白い霧に包まれた者たちは、垣間見える人影におびえ、恐怖に正気を保てない者もいた。

 そこにハイオークたちが集団で包囲網を作っていく。

 静かに、ゆっくりと。そして一人も逃さずに包囲網を狭めていく。


 森の奥からはドラゴンの咆哮一声を合図にオーガの軍団が襲い掛かる。

 盗賊団は、これは恐ろしいと森の外へ逃げていく。

 そこにはサポニスの部下でギルドマスターのエリックが率いる冒険者パーティーが盗賊団を捕らえていた。


「これで街の住民も安心するだろう、森の守り手よ、感謝する。」


 エリックは森に向かって一礼した。


「おみごと、鮮やかでしたね、お嬢様。」


「いえ、あなたの作戦でしょ、サポニス。

 いつのまにエリックと連絡を?」


「お嬢様が街の惨状をご覧になられて、どうにか始末をつけなければならないと思ったからです。」


「さっき、私が出るとややこしくなるって。」


「たとえ盗賊団でも人間には変わりありません。

 悪者を退治しても、人の目にはドラゴンが人を襲ったように映ります。

 それではお嬢様の望む仲良くすることはできませんので。」


「そう、まぁいいわ。

 わるい人はいなくなったし、連れてこられた人は?」


「ハイオークが保護して森の中でエリックに引き継ぎました。

 こちらも魔物が人間を保護して助けたということが明るみになれば大騒ぎですから。」


「まあ、お嬢、俺たちは魔物なんだ。

 どれだけ努力したって人間と魔物の敵対関係は変わらない。

 エルフやドワーフといった亜人種は街の中でも暮らしていけるが、俺たちに言葉が通じることすら知られていない。

 まぁ、お話ができてもこの見た目ではな。」


「よおカイル、お疲れさん。」

 そう言ってネルフがねぎらうと、さっきの会話にカイルが入ってくる。


「いいかいお嬢、俺たちオーガだって、魔物だから人間と敵対している。

 でもな、ここの魔物は自分からは人間を襲わない。

 それは秩序の天秤と、お嬢との約束があるからだ。

 この森に暮らすからには守らなければならない掟なんだ。」


 そうだったのね。

 みんなは私のために、そうしてくれていたのね。


 それは、私が母様の最期を見てしまったから。

 大勢の兵士に囲まれて、母様は連れて行かれた。

 それ以来人間を怒らせてはいけないって思っていた。


「だから、ここ以外に住んでいるオークやオーガは人間と闘う。

 それは互いの生き残りをかけた戦いだからだ。

 ここには豊かな森があって、ドラゴンがいて人間は近づかない。

 森の恵みを奪い合いにならないから争わない、それに……。」


「それに?」


「お嬢が天秤に願ったろ?

 平和で優しい森にしたいって。」


「だからそれを乱すものに罰を与える。

 この森の秩序を作っているのは、ほかならぬお嬢なんだぜ。」


「ですからお嬢、間違っても人間を滅ぼしたいとか、母様の敵討ちをしたいとか願わないと約束してください。

 もしもそう願ってしまうと、森の魔物は城に向かって総攻撃をしてしまいます。」


「そうですな、お嬢様。」

 とサポニスが言った。


「先代様にもきつく言われておるよ。

 平和が一番。

 憎しみからは何も生まれはしません。」


 そうよね、私の好きなのんびりは、平和だからできるのね。


「ああ、それと後でエリックがお目通りを願っております。」


「まぁ、エリックが来るの?

 チコおばちゃんに言わなきゃ。」


 エリックは街に住んでいて、人間の暮らしのことを教えてくれるから楽しみ。

 ノームのおじいさんに、キャベツをたくさんもらってこなきゃ。


 チコおばちゃんの作る料理はみんなが大好き。

 お肉がメインのドラゴンやオーガ、オーク、ドワーフの皆さんもおいしいって言っている。

 それからお野菜大好きなエルフさんたちや、妖精さんたちの花の蜜もちゃんと用意してくれている。

 チコおばちゃんはみんなが何を好んで食べるかまでちゃんと知っているから。

 ハイオークたちが大きな肉を頬張っていたり、妖精たちが花の蜜を楽しそうに食べる姿を見て、そっと微笑んでいるの。


 そして、おじさんたちがそろっておいしいというのはバッカスの酒。

 ドワーフ秘伝のお酒で、ナギおじさまがこっそり持ち込んでいる。

 結局はみんなで飲むから、チコおばさんにばれて大目玉なんだけどね。


 今日はみんなで大仕事を終えた後だし、わるいひとたちを追い払ったお祝いに、みんなで一緒にご飯を食べた。


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