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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
29/42

さくせんかいぎ

 

 サポニスは皆に魔導兵の恐ろしさを伝えた。


「魔導帝国は、魔法を使って魔導兵を作り出していると考えられます。

 またこの魔法の厄介なところは、その場で戦死した仲間も使役してしまうということです。」


「戦場で『倒された仲間』が即座に魔導兵として襲い掛かってくるってことですかい。」

 と言い、カイルは戦慄を覚えた。


「何よりも厄介なのが、その相手は生前の姿のままなのです。

 我々は苦しみながらも、それが敵として襲いかかってくるのであれば、倒さなければなりません。」


「……つまり、我々から戦死者が出ると敵に取り込まれて増えてしまう、ということなのですね。」

 と、お姉ちゃんが質問する。


「はい、だから我々のうち強い戦力のある者は、打ち取られてはいけないのです。

 そうしてあの国には強い魔導兵がいるのですよ。」


「もしもよ、私が討伐されたらどうなるの?」

 とサポニスに聞いてみた。


「お嬢様、残念ながら我々では対処ができません。

 災害級の魔物『ドラゴンゾンビ』になってしまいます。

 しかも闇属性のブレスが死体の山をゾンビの兵に変えてしまいます。

 ほどなく世界は闇に支配されるでしょう。」


「うぇぇ、そんなのやだよぅ。」


「大丈夫よ、私がいるでしょ。」

 とお姉ちゃんが手をつないでくれた。


 誰かの死体を魔導兵に、しかも死んだ仲間も襲って来るなんて。

 それは魔導兵にされた人も、きっと悲しいのだろうな。


「どうしてそんなことを……?」


「勝つためなら、ひどいことも何でもする。

 それが『魔の物』と戦うということです。

 彼らにとっては、人間も使える材料の一つでしかないようです。」


 そんなの、悲しすぎるよ。

 戦争って、心まで狂わせてしまうのだな。


 だいたい戦況が理解できたところで、作戦を立てていった。


「情報によると彼らは人目を避け、森の中を行軍していると思われます。

 到着は早くとも3日後、竜の森の南方に出てくるでしょう。」


 サポニスは大きな地図を広げて王都からの進軍ルートを予想する。


「そこから竜の森に向かう途中の小高い丘、ここに彼らが魔法陣を設置すると予想します。」


「どうして丘の上なんだ?」


「召喚された魔導兵の足が遅いからです。

 召喚されてすぐに下り坂なら、後続も滞りなく進軍できるでしょう。

 丘を降りた魔導兵は、この森を取り囲むように攻めてくるでしょうね。」


「場所がわかっているなら、そこに何か仕掛けでもするか?」


「いえ、相手は斥候の訓練を受けた魔術師、エクスプローラーなのですよ。」


「おいおい、なんだってそんな奴がいるんだよ。」


「それほど重要な作戦なのでしょう。

 なので、ここはあえて何もしません。」


「何もない安全を確認すれば、当然敵はそこを使うでしょうから、なんの懸念もなく、我々が想定した場所を使っていただきます。」


「では、侵攻ルートに仕掛けを作るのですね。」


「その通り、知能の低い敵はまっすぐに攻めてきますので、壁などを作って少しコースを変えれば渋滞が起こります、そこへ魔法攻撃です。」


 サポニスは地図上にマークを書き入れた。


「これは前回の訓練と似ていますね。」


「はい、ですが今回は敵の数が違うというのと、相手は不死の魔導兵であること、仲間が倒されれば敵になってしまうことです。」


「上空からの魔法攻撃はどうでしょうか?」


「当然時もそこは警戒しております。

 魔法陣あたりには魔法障壁を作っているでしょう。

 ですが、物理攻撃には弱いはずです。」


「回転しっぽアタックで吹っ飛ばす。」


「そこにたどり着くまでが重要なのです。

 アイリス殿下、上空からの指揮をお願いできますか。」


「はい、前回予行演習をしていただきましたので、なんとなく戦略は似ているものかと思いまして。」


「それでいいでしょう。

 私は防御結界で森を守りますが、闇属性の魔導兵がぶつかるたびに聖属性の防御結界は弱っていきます。」


 そうしてサポニスは地図の上に丸く円を描いた。


「私の防御結界は、このように竜の森を覆う感じになります。

 なので、私の防御結界が崩れる前に敵の魔法陣を破壊してください。」


「そうですね。

 これは時間との戦いになるわけですね。

 わかりました。」


 お姉ちゃんは少し考えてから、

「カイルたちには直接攻撃を担ってもらいますが、まっすぐに進もうとしても魔物の勢いに押されてしまうでしょう。

 ネルフたちが円陣を組みながら左翼から敵陣に接近。

 我らは右翼で竜の守護騎士たちが敵とぶつかり、ひきつけておきます。」


「それではお嬢が格好の的にされますぞ。」


「はい、強力なおとり役です。

 魔導兵の群れも数が減ったところに補充するように動くのでは?

 そうすることで反対側に隙を作りますので、そこをネルフと一緒にカイルの強力な部隊が魔導士を襲います。」


「わかりました。

 おい坊主ども、姫さんと嬢ちゃんを頼むぜ。

 この二人が世界の希望なのだからな。」


 世界の希望……そんな大きなことを言われても、私にはまだよくわからないよ。


「ほかの戦力は森の防御結界の直前で敵の侵攻を防いでください。

 エルフの魔法部隊は適時に魔物が集まっているところに魔法攻撃をお願いします。」


 ここまで言い終わると、お姉ちゃんは一息ついて、

「相手は魔導兵、魔導士によって生まれた屍の軍勢である。

 それは死者への冒涜に他ならない。

 我らはその者たちが戦争に使われ、この世にとらわれたままになっている哀れな者たちを、安らかに天上へ導いてやろうではないか。」


 敵の数はおよそ10万、それほどの大軍をどう迎え撃つつもりだ?

 と、静かな動揺が走った。


「そしてこの世の理に反してまでも、権力にしがみついている大魔導士に怒りの鉄槌を下すものである。

 それは同時に我らの森を守ることでもある。」


「皆の者、我とともに剣をとれ、森の守護者として共に戦おうでないか。」


 場内に賛同の拍手が沸き上がった。

 ああ、お姉ちゃんは本当に竜騎士になったのだな。

 このまま戦が始まると思うと、やはり心配でならなかった。


「私は戦いたいんじゃない。でも、見ているだけじゃ、もっと嫌だ…!」


 優しいお姉ちゃんが少しずつ変わっていってしまうことに、ちょっぴりさみしくなったの。

 でもね、この戦いが終われば、またみんなと仲良く暮らしていけるんだよね。


 今夜はチコおばちゃんの家にお姉ちゃんたちと一緒に呼ばれている。

 ナギおじさまがお姉ちゃんに話があると伝えていた。

 今夜も私の大好きなクリームシチューだって。

 


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