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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
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ちからのめざめ

 

「もう来ないで……!」


 私の感情が高ぶった瞬間、体の中から熱いものがこみあげてきた。

 その時ドラゴンの紋章が輝いた。

 みんなを守りたい、だって大切な森の家族だから。


「ラヴィ、大丈夫だよ、心を静めて。

 みんなを守りたい、その思いこそが力に変わるのよ。

 それが愛の力。」


「愛の力?」


「そうね、大切な人を守りたい。

 だから大切な人を傷つけるものは許さない。

 愛のために正義の力をふるうの。」


 お姉ちゃんが私の首筋に触れて、やさしく言ったの。


「さあ、愛と正義の力を、みんなに見せてあげて。」


「みんなは私が守るの!」

 と叫んだ時、私はブレスを放っていた。


 私の放ったブレスは、まるで夜空を引き裂く流星のように敵を一掃した!


「……すごい。

 これが…聖なる竜の力?」


 私の聖なる光のブレスは、あっという間にトレントを消し去っていた。


「おお、ついにやりましたな。

 お嬢様が覚醒してドラゴンブレスを放ちました。

 先代様と同じ、聖属性の光ですよ。」


 サポニスが興奮して言った。


「旦那、今頃お嬢様は怖くて泣いているよ。

 いくら戦いに必要だからって、まだほんの子どもなんだ。」


 チコおばちゃんが心配そうに上から見ていた。


「ええ、そうして差し上げたいところなんですがね。」


「今度の相手はそれほどなのか?」

 とナギおじさまがサポニスに問うと、


「残念ながら、これでも足りないくらいです。」


 私たちはたくさんのトレントが消えたことで、守りながら前進という作戦から丘に旗を取りに行く作戦に変わった。


 私はドラゴンの姿のまま地上をゆっくりと歩いた。

 ネルフたちは弦に捕まった仲間を救出しながら前進した。

 残った敵は、私たちを目指して中央に集まり始めた。


 だから私が少し前に出て、「回転しっぽアタック」でトレントたちを払いのけ、前に向かう道を開けた。

 そうしてできた活路をお姉ちゃんが力強く、

「進め、勝利は近いぞ!」

 と号令をかけて前進していた。


 アルスたち竜の守護騎士とともに丘を駆け上がると、セレンさんが待っていて、サポニスと目くばせをしてから、

「坊やたち、いい夢をみなさいね。」

 と言って幻惑の魔法をかけた。


 もちろんこれは、体験のためであるからほかの戦士たちには魔法をかけないでいた。


 アルスたちは、

「ありがとうございます、セレンさん。」

 と言って旗を受け取って、セレンに抱きついていた。


「きゃあ。」と声が上がる。

 若い騎士が同様にお礼を言いながらエルフの女性に抱きついた。

 ネルフも抱きつかれて困惑していた。


 私が竜人の姿になって、地面から旗を抜き取ってそれでおしまい。

 だけどお兄様たちの幻惑の魔法は続いていた。


「お嬢、見ていて面白いが、このままというわけにはいかないだろう。」


 騎士に抱きつかれたネルフが困惑した顔で言った。


「うん、わかった。

 それじゃ解除するね。」


「私はもう少し見ていたいな。」

 とお姉ちゃんが意地悪を言った。


「ディスペル」と私が唱えると、お兄様たちは正気に戻り、恥ずかしそうに頭を下げていた。


 後から聞いた話では、セレンさんが「よく頑張りましたね」と言って、旗を渡して褒めてくれた。

 そのあとは女性の魅力で抱きついたように見えたので、だんだんそんな気分になったそうだ。

 そのあとのことはネルフが私に聞かせないように抱っこして連れて行ったから、よくわからないのだけど。


 私は静かに戦場を見下ろしていた。

 そこにはたくさんの「トレントだったもの」が散乱し、草原はえぐられ、踏み荒らされていた。


「これが…私のしたことなの?」

 と呟いた。


 お姉ちゃんがそっと手を握り、

「ラヴィ、あなたのおかげで、みんなが生きてるのよ」

 と優しく伝えた。


 私は、「私がしたこと」が急に恐ろしくなった。


「私ね、怖かったの。

 みんなが捕まって、傷ついていくのを上から見ていて。」


 お姉ちゃんが後ろからぎゅ~ってしてくれた。

「うん、そうだったね。」

 と優しくいった。


「でもね、怖いの。

 魔物さんたちはみんな消えちゃったでしょう?

 私にそんな力があるって知らなかったし、これが戦争だと、たくさんの人が私のブレスで死んじゃうのかなって思うとね。」


 もう私は何を言っているかわからなくなっていた。

 気が付けばぽろぽろと涙を流していた。


「ほら旦那、わたしの言った通りだろう?

 まだ子どもなんだから、心が精いっぱいなんだよ。」


 サポニスは困った顔をして、チコおばちゃんとお姉ちゃんに私を預けた。


 その様子を見ていたネルフが、

「部下を救ってもらって、感謝しておりますぞ、お嬢。」


「そうね、あの時ラヴィがブレスを放っていなかったら、何人かは死んでしまっていたかもしれませんね。」


「そんなのやだよ、みんな大切な森の仲間だもん。」


「そうだね、お嬢様はそのみんなのために力をふるったのですよ。

 褒めてもらいましょうね。」


 チコおばちゃんがそういうと、ネルフが優しく頭を撫でてくれた。


「よく頑張りました。

 部下たちもきっと感謝するでしょう。」


「さあ、頑張った人にはご褒美を上げないとね。

 姫様直伝のアップルパイはどうでしょうかね?」

 とチコおばちゃんがお姉ちゃんに提案した。


 しばらくして、チコおばちゃんの家の煙突からは、甘くていい匂いがした。



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