りゅうきしアイリス
その日の食堂は、いつになくにぎやかだった。
いつのまにか大きな円卓は、小さな円卓が8つに分けられて、一つのテーブルに10人くらいが腰かけられるようになっていた。
そう、全部で80人。
これは食堂というよりも、お城で見たパーティー会場だね。
テーブルごとに料理が分けられ、同じ種族のひとたちが集まっていた。
「あ、オーガ隊だ、ネルフの部隊もいるね。
それからサポニス配下の魔法部隊、お花のところにはシルフと風の精霊たち。
あ、お兄様たちもいる。」
「そうね、そのほかにも魔物の集団とか、ドワーフの戦士たちもいるわね。
本当にこの森の戦力が集められたみたい。」
ハイオークの軍団は戦槌を叩きつけ、地面を鳴らしていた。
ドワーフの戦士たちは既に大剣を研ぎ、戦の準備を整えていた。
エルフの弓兵隊は静かに射線を確認しながら、森の加護を祈り、森の精霊たちは風に舞い、シルフが指示を飛ばしていた。
それぞれが期待と緊張を持って、サポニスの言葉を待っていた。
「さて皆の者、よくぞ竜の森合同演習に集まってくれてありがとう。
新たなる竜騎士と、お嬢様が一緒にこの森のため、いや、世界のために戦うことになった。
これから皆は竜騎士アイリス殿下の指揮下に入ってもらう。
殿下はお嬢様とともに上空から皆に指示を出すので、それに従って行動する。
だから今日は皆との合同訓練に備え、われらが指揮官を紹介する。」
「竜騎士、アイリス殿下である。
一同、敬礼。」
お姉ちゃんは片手をあげて、サポニスに合図をすると、
「では、着席にてお話を頂戴する。
一同傾聴せよ。」
お姉ちゃんは急にそんなことを言われたが、そこは姫様、堂々と皆の前に立ち、一軍の将として演説を始めた。
「新たな竜騎士となったアイリスである。
皆の言うお嬢様には私が『ラヴィ』と名付けをした。
愛が広がり、降り注ぐようにと願いを込めて名付けたものだ。
だから皆にもラヴィの翼のもと、愛の力が降り注ぐことを願っている。」
会場からどよめきが起こる。
我らが森の守り手様に、人間が名づけをするなど、本物の竜騎士以外には考えられないからだ。
「愛とは時として我々に力を授ける。
もちろん愛を育み、穏やかで調和のある世界で暮らすことを誰もが望むところではあるが、その愛する人を、また我らを、この森を脅かす存在がいるのだ。
平和で豊かな暮らしを守るため、我らが愛する子どもたちを守るため、そしてこの森の恩恵を守り、未来へとつづく平和と調和の森を守り抜こうではないか。」
姫様の堂々とした演説に、一同はその言葉やしぐさから目が離せない。
一軍の将としては十分な内容であった。
「戦士たちよ、剣を持て、愛のために立ち上がれ。」
会場から歓声が沸き起こる。
これほど異種族の心が一つにまとまったことはない。
サポニスも満足そうな顔で壇上のお姉ちゃんを見つめていた。
「そして約束しよう、誰一人欠けることなく、皆を愛する人の元へ返すことを。
この竜騎士アイリスと森の守り手のドラゴン、ラヴィが皆を守ると。」
会場は一気に湧き上がり、あちこちから「アイリス」と名が叫ばれ、やがて「ラヴィ」の名とともに手拍子が起こった。
困った顔をしてサポニスを見ると、
「皆にドラゴンの姿をお披露目されてはいかがですか?」
というので、謁見の間に続く広い扉の前で、
「みんな、見ていてね。」
と言って、竜の咆哮とともに立派なドラゴンの姿になった。
その姿を見て、一層森の戦士たちは大盛り上がり。
「いいぞ、嬢ちゃん。
いっそのこと、そこでドラゴンブレスでもやっちまえ。」
いつの間にか酒が注がれ、ハイオークの軍団からは、「アイリス殿下、万歳」などと声を上げ、叫んでいた。
そのあとはもう軍議ではなく、お姉ちゃんと私のお披露目の宴会になっちゃった。
サポニスは、
「またですか。」
とため息とともに頭を抱えていたの。
でもね、
「また、ですよね。」
とニヤリとして、宴会に参加していた。
そのあとお姉ちゃんは、各部隊を回って挨拶をしていた。
もちろん竜人になった私も一緒にね。
チコおばちゃんには私たちがとっても誇らしく思えたみたい。
あとで会いに行ったら、ハンカチで目頭を押さえていた。
「ねぇ、サポニス、訓練ではなかったの?」
「いいえお嬢様、先ほどのアイリス殿下の演説でこの森がひとつにまとまりました。
これはどんな訓練を積み重ねることよりも、とても大切なことですよ。
お互いの言葉を信じて共に戦う。
この森の勢力は強くなりますよ。」
そう言ってサポニスも満足そうな顔で、お酒を飲んでいた。
「まったく呑兵衛どもは。」
そう言っていつもならぷりぷり怒るチコおばちゃんも、今日だけは笑っていた。




