りゅうきしのたたかいかた
竜の森の西側にある草原では、初めてお姉ちゃんと空を飛ぶ訓練が行われていた。
まず私が竜の咆哮とともに大きなドラゴンの姿に変身すると、お姉ちゃんが驚いた顔をして、
「本当にラヴィなの?すごく立派になって、驚いちゃった。」
と言った。
「アイリス殿下、さあ、背に乗ってみてください。」
とサポニスが促すと、お姉ちゃんは一瞬ためらった。
「本当に…大丈夫?」と小さく呟いた。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん。ずっと練習していたんだから」
私は振り返ってお姉ちゃんを見守っていた。
「それじゃ、乗るね。よろしくねラヴィ。」
といって、ジャンプして飛び乗った。
その様子を見てシルフが、
「かっこいいですよ、お二人とも。
今日の訓練お相手は私です。
アイリス様が私を捕まえればおしまい。
どうか落ちないように気を付けてくださいね。」
「ではお嬢様、お願いします。」
とサポニスが合図をして、追いかけっこが始まった。
私はお姉ちゃんが吹き飛ばされないように、ゆっくりと空を飛ぶが、シルフには追い付けない。
困惑した顔でサポニスを見ると、
「アイリス殿下、お嬢様の鼻先に風の魔法で壁を作ってください。
そうすれば背中から吹き飛ばされる心配はありません。」
「わかりました。」
と言ってお姉ちゃんが私の鼻先に向けて風の壁を作った。
「お姉ちゃん、行くよ。」
と言って速度を上げようとするが、風の壁で前には思うように進めない。
「アイリス殿下、風の壁の形を、鳥のくちばしをイメージして作ってください。
そうすれば風を切って進むことができます。」
「やってみます。」
今度は風の壁が私に向かってくる風を切り裂いて、とても飛びやすくなった。
私はそこで速度を上げて、シルフにぐんぐんと迫っていった。
お姉ちゃんは風の壁のおかげで吹き飛ばされずに済んでいた。
「さあラヴィ、シルフを捕まえに行きましょう。」
そう言って、私の首を撫でてくれた。
お姉ちゃんが立ち上がり、私はシルフの下側を追い抜くように飛んで、お姉ちゃんがシルフを捕まえた。
「お見事!アイリス殿下、やりましたな。
お嬢様も一段と飛ぶのが上手くなりましたな。
お二人とも実に良い出来でした。」
とサポニスが喜んでいた。
「では、次の段階に行きましょうか。
アイリス殿下は飛竜の槍で私を攻撃してください。
もちろん空中からです。
私はお二人に負けないように魔法で応戦しますので、それらを躱して私に先日の魔法を撃ちこんでください。」
「わかりました。いよいよ実践にむけた訓練なのですね?」
その様子を見ていたネルフが
「サポニスの旦那、それじゃお嬢に姫さんの盾になれってことですかい。」
「まあ、場合によってはそうなりますな。」
「お嬢にも甲冑をつけたほうがよろしいのでは?」
そういって、ドラゴン用の大きな防具を担いでいた。
「そんなのを着けたら飛べないでしょう。
それにドラゴンのうろこなら大丈夫だよね。」
「いや、しかし、怪我でもされたらと思うと私はもう、いてもたってもいられません。
どうか姫様、お嬢を守ってやってください。」
「おいおい、それじゃ役割が逆だろうよ。」
とカイルが言うと、
「姫さんよ、ソイツでさっさとけりを着けちまえばいいんだ。
頼むぜ、サポニスの旦那に一泡吹かせてやってくれな。」
「そうですな、長引けばサポニス様が有利ですからね。
動かないから体力も使わないでしょうし、魔力は桁違いですからいくらでも攻撃してくる。
速攻がよろしいでしょう。」
「ええ、やってみます。ラヴィ、頼んだわよ。」
「はい、お姉ちゃん。私頑張るね。」
今度は鼻先の風の魔法に加えて防御魔法を全身にかけてくれた。
これであのヒリヒリした魔法は怖くない。
「行くよ。」
と声をかけて空へ飛び出す。
サポニスは私たちに向けて小さい炎の魔法を繰り出してきた。
私はシルフでやったときのようにサポニスのほうへまっすぐ飛んでいく。
まっすぐに飛ばないとお姉ちゃんが魔法を放てない。
そうなのね、この飛び方が重要なんだ。
お姉ちゃんは私の背中に立って、飛竜の槍を構えて魔法の一撃を放った。
サポニスには正面から来ることはわかっていたので、容易に防がれてしまったが、その時に、
「上、上空で宙返りして。」
とお姉ちゃんが言うから、サポニスの横をかすめてから急上昇した。
「ラヴィ、力を貸して。最後に一撃を入れるわ。」
「うん、頑張れお姉ちゃん。」
そういうと二人の竜の紋章が光り出した。
「そこだ!」
とカイルの声が響く。
私たちは急降下しながらサポニスの真上から飛竜の槍の魔法を放った。
巨大な風の刃がサポニスを襲った。
サポニスは飛竜の槍のから繰り出された風の刃を防御結界で受け止めたが、その瞬間、結界に亀裂が入った。
「ほう…見事な一撃でしたな。
まさか、これほどの威力とは。」
サポニスが初めて『本気の顔』をした。
サポニスの後ろの地面は直線状にえぐれていた。
「うおお、旦那に一撃入れましたね。
お見事です。」
とネルフも喜んでいた。
サポニスは自分の後ろにできた魔法の跡を見ながら、満足そうにしていた。
「お嬢様の竜の力と、アイリス殿下の槍術、飛竜の槍の力が一つになった、見事な攻撃でした。」
と言って褒めてくれた。
サポニスは魔法で傷んでしまった草原を修復すると、
「次は集団戦の訓練と行きましょうか。
おっと、その前にお昼でしたな。
各自腹ごしらえをしておいてください。
次の訓練は皆さんとの連携の訓練ですよ。
いくら竜騎士が強くても、単騎では集団で襲ってくる敵にはかないません。
最終的には地上で敵将を打ち取らなければなりませんから。」
みんなはそのサポニスの言葉にほっとしていた。
あんなのを見せられた後に、そこに自分たちも加わるかと思うとぞっとしていたからだ。
「ああ、大丈夫ですよ。
皆様にはアイリス殿下側についてもらいますので、竜の一撃を食らうことはありません。
むしろ味方になって動いていただく訓練ですから、今のうちに腹ごしらえをどうぞ。」
チコおばちゃんがお鍋をたたいて合図をしていた。
お昼だよって。




