表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/26

りゅうきしのやり

 私たちはそれからしばらくの間、ベッドで眠っていた。やはり竜の魔力を連続して使ったことは初めてだったので、すぐに眠りに落ちた。アイリスも長い時間飛びながらの戦闘はだいぶ疲れるらしく、隣で静かに寝息を立てていた。

 寝室を出ると、秩序の天秤の間から白くて強い光が放たれているのに気付いた。なんだろうと思って部屋をのぞくと、私の額の紋章が光り出した。

「あ、なんだろうこれ。すごく優しい感じがする。おいでってことかな?」

 前にもどこかで、あ、夢で母様に会ったときこんな感じだった。

 私は急いでお姉ちゃんを起こした。

「ねぇ、お姉ちゃん、秩序の天秤がおいでって言ってるの。」

「え、そうなの?今行くからね。ちょっと待っていてね。」

 秩序の天秤はやさしい光を放っていた。青白い光の文字と魔法陣がぐるぐる回って、私たちの紋章の光と同じ光を感じた。

 あとからアイリスが部屋に入ってきた。するとアイリスの持つりゅうのお守りが強い光を放ちだした。


 母様と会った時のように、一面真っ白な世界にお姉ちゃんと二人で立っている。そこには秩序の天秤があるだけだった。

「新たな竜騎士と、それと心をつなぐドラゴンよ。名を何という。」

 天秤が二人に問いかけた。

「アイリスとラヴィです。」お姉ちゃんが天秤に答えた。

「ではアイリスよ、竜の力を得し者よ。汝人の身でありながらその力で何を為す。その力は強大ぞ。人の持つものにあらず。」

「ラヴィよ、竜の力に目覚めし娘よ、汝魔物の身でありながら、人の世に何を為さんとする。その力は強大ぞ。人のためになるものにあらず。」

 秩序の天秤がそう問いかけると、再び光に包まれる。目を開けるとそこは天秤のお皿の上に私一人だけ、お姉ちゃんは反対側の天秤のお皿の上に乗っていた。

 天秤が静かに揺れ、まるで二人の想いの均衡を測るように……。

 ここは一人ずつ答えなければいけないのね。

 私は天秤にこう答えた。

「私は母様が願った平和を、母様の願いを引き継ぎたい。自分がドラゴンであることを誇りに思いながら、人々と心を通わせる存在になりたいのです。そして、人も魔物も手を取り合う『優しい未来』を作りたい。そのためにこの力を使います。」

 アイリスは、

「この竜の力を持つ私にできるのは、『優しい未来』を守る盾となり、この世界に生きるすべての命と共に築き上げることです。この力が人にとって大きすぎるものであるならば、それを乱さぬよう自らを律し、誰かを守るためにこそ、この力が使われるように心を尽くします。」と答えた。

 すると天秤からは、

「お前たちの願いは、秩序に反するものではないか?」

「いいえ、必ずや秩序を守るための力となりましょう。」

「汝らの願い、平和と調和がもたらす優しき未来。その心、確かに受け取った。この力を汝らに託そう。その力が秩序を乱さぬ限り、汝らの絆は光となり、この世を導くであろう。」

 天秤が青白い光を放ち、回転する魔法陣が二人を包み込んだ。

 天秤の両端が輝き、ゆっくりと溶けるように形を変えていった。それは真ん中で一つになって、槍の形へと変わった。

 槍には竜の紋章が刻まれていた。

 そして槍が完成した時に、槍と二人の竜の紋章が輝いた。


 その時大岩の塔から天空に向け、まっすぐ光の柱が現れた。最後に天秤が、

「汝らにこの竜騎士の槍をその力とともに託す」と言って、光が収まった。

 槍は静かに輝きながら二人の手に収まり、私たちは槍を手にしたまま立ち尽くしていた。

「これが竜騎士の槍なのね。」とアイリスは静かに言った。


 天空まで届く光の柱は、その神々しい姿に神の降臨を思わせた。

 私たちは、槍を持ってナギおじさまとサポニスに会いに行った。

「姫さん、ソイツはいったいどこから持って来たんだ?ものすごい力を持っているな。神聖術の付与がされている。こいつは神話級の武具じゃないか。」

「ええ、竜騎士の槍という名だそうです。」

 サポニスが光の柱を見て、慌ててやってきた。

「お嬢様、先ほどの光の柱は、お嬢様の仕業ですか?」

「あのね、秩序の天秤にお願いしたら、槍になっちゃったんだよ。」

 サポニスとナギおじさまが食い入るように槍を見ていた。

「こいつには神聖術式が組み込まれているな。旦那、どんなもんが仕込まれているかわかるかい?」

 サポニスは槍をじっと見つめ、まるで神々の遺産を前にしたかのように震えていた。

「いいえ、わたくしも初めてですから。エルフの聖属性魔法よりも上位のものですね。お嬢様、この槍に竜の魔力を込めてもらえますか。」

「うん、やってみるね。」と言って私は槍に竜の魔力を注いでみた。

 竜騎士の槍の先端に、円形の魔法文字が4列回転していた。それをサポニスが解読した。すると、

「まず、ホーリーフィールド。これは私の聖属性の防御結界の上位のものですね。この槍を中心に神聖術の防御結界を展開します。私のものとは違って、その結界自体に闇に対する攻撃力があります。森を包み込む巨大な魔法陣が展開され、光の壁が魔導兵を弾き飛ばすでしょう。」

「おお、そいつはすごい。一気に形勢逆転だな。」

「次はホーリーブレイズ。これは敵に対して神聖術の攻撃を行います。闇を焼き尽くす純白の炎が、敵を一瞬で灰にするでしょう。さらにホーリーレイン。最上位の治癒魔法ですね。無数の光の雫が降り注ぎ、戦士たちの傷を癒していくでしょう。体力回復と状態異常を治します。」

 すごい武器なのね。武器というよりも、まるで魔法の杖みたい。

「最後に、これは封印されていますが『最後の審判』という神聖魔法の極大魔法です。」

 アイリスはそれを聞いて震えていた。神の怒りに触れて国が滅ぼされたおとぎ話に出てくる、伝説の魔法がその名前だったからだ。

『最後の審判』それは天から降り注ぐ神罰の光……私たちがそんな強大な力を持ってもいいのだろうか?

「ナギ殿、武具としてはどうでしょうか。」

「そうだな、俺が坊主に打った剣と同じようにこの槍にも嬢ちゃんの竜の魔力をまとわせることができる。そうして放った一撃は、伝説級の剣よりもすごいんじゃないか。普通の槍として使えばそこそこのものだがな。」

「アイリス殿下、まずは神聖術のホーリーフィールドでこの森を守っていただけますか。それでまず私たちが魔導兵に侵攻されることはなくなります。また、今の防御結界に阻まれている魔導兵を一掃できますから。」

「わかりました。ラヴィ、お願いね。」


 私たちは大岩の塔のてっぺんに立ち、二人で槍を掲げた。

「お姉ちゃん、頑張れ!」と願うと私とお姉ちゃんの竜の紋章が輝き、それは竜騎士の槍の紋章も輝いた。

「ホーリーフィールド」

 大岩の塔に光の柱が立ち、そこを中心にして光の柱が広がった。サポニスの作った防御結界の外側まで広がり、防御結界を破ろうとしていた魔導兵を一掃した。光の柱はそのままとどまり、新たな防御結界となった。

「これでもう、竜の森に魔導兵は侵攻してこられないね。」

「そうね、あとはあそこね。」そう言って魔法陣を指した。

 魔法陣からは今でも多くの魔導兵が転移して出現していた。

「サポニスに聞いてみようよ。これからどうするのか。」

「そうね。」

 私たちは一度森の食堂へ戻ることにした。


「さあみんな。姫様とお嬢様のおかげでこの森は安全になったと言っている。今夜は明日の戦いに備えてたくさん食べてお行き。今日は何でもごちそうするからね。」

 絶望的な状況から一転して、勝ち目があるとわかって森の住民は大喜びである。くじ引きで負けたネルフの部隊とコボルドの部隊は交代で見張りにつくことになった。

「おい姫さん、今日はうまい酒をありがとうな。」とカイルの部隊から声がかかる。アイリスは恥ずかしそうに小さく手を振っていた。

「謁見の間で会議の準備ができています。そちらにお越しください。」


 サポニスが招集をかける。いよいよ明日は決戦の日になりそうだ。

 エリックから、王都の魔法陣はすべて破壊したため、被害はないと報告があった。あとは今起動している魔法陣を何とかすればいいとの結論だった。

「明日の朝、ラヴィとともに上空から偵察を行います。魔法陣を守っている魔導士の様子を伺って、可能であれば攻撃を仕掛けてみます。」

「そうですね、状況がどのように変わっているか、まずは把握をしましょう。」

 私たちは夜明け前に偵察に行くことになった。

「はい、遅くまでお疲れ様だね。こいつはみんなからの差し入れだよ。」

 そう言って二人に運ばれてきたのは、王城の調理員や侍女たちが手分けして作ったパングラタンだった。

 遅くまで続いた会議の後に、ほっと心が安らぐやさしい味だった。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ