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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
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アルゴふたたび

 

 お姉ちゃんたちが森での修行を行っているそのころ、アルゴはたった一人で王城にやってきた。


「おい、伝令を出せ。第二皇子のアルゴ様が帰ってきたと。」


 そう門番に告げると、外門から王城へ続く石畳の上を堂々と歩いた。


「お待ちを、アルゴ様。」

 そう声をかけたのは騎士団長であった。


「俺は親父に用があるのだ。

 貴様にではない。」

 と無視してエントランスに向かおうとするが、騎士団長の合図で数名の騎士たちが行く手を阻んだ。


「貴様、何の真似だ。

 お前ごときがこの俺様を止めるだと、笑わせるな。」


「アルゴ殿下のご訪問の真意をお伺いしてもよろしいですかな?

 王城には何用で参られたのか、お聞かせ願いますか。」


「これは国家の重要事項なれば、貴様などに話しても埒が明かん。

 いいから俺を親父の元へ通せ。

 それが貴様の身のためだ。」


「それに」


「それに?」


「俺にはいまは争う意思はない。もしそうであれば我が身一つではここへは来ないぞ。

 まぁ、それでもここを突破する程度のことはできるのだがな。」


 その様子を聞きつけ、慌てて奥からベスパー大臣がやってきた。


「これはアルゴ皇子殿下、お迎えにも上がらず、失礼いたしました。

 ここはわたくしがお相手差し上げましょう。

 ではこちらへ参りましょうか。」


 騎士団長がベスパー大臣に詰め寄るが、ベスパー大臣は騎士団長に耳打ちした。


「今のお前たちではこの方には到底かなわない。

 不測の事態に備え、各所へ伝達せよ。

 警戒態勢をとれと。

 その間この方のお相手はわしがする。

 それから王へ伝令を。」


「は、承りました。」


「おい、作戦会議は終わったのか?

 ではベスパー、案内を頼む。」


「はい、心得ましてございます。」


 ベスパーは謁見の間ではなく、迎賓館の中の応接室へアルゴを連れて行った。


「王はここにはいないはずだが。」


「こちらにお越しいただくように伝令をしております。

 食事でもとりながらゆっくりとお過ごしいただくよう、準備をしておりますゆえ。

 何卒、しばらくのご猶予をくださいませ。」


「ではサナを出せ。

 あいつには世話になった。用がある。」


 サナというのはアルゴの傍付きで年上の侍女である。

 当然この事態を受け、給仕のために呼ばれていた。


「これ、急いでサナをここに連れてくるのじゃ。」


「はい、ただいま。」


 しばらくしてお茶を携えてサナが静かに部屋へ入ってきた。

 いつものようにお茶を入れると、

「お久しぶりです殿下、お元気でしたか?」

 と笑顔で問いかけた。


「ああ、すまないな。

 こうしてお前の茶を飲むのも久しいな。」


「ええ、よくお帰りになられました。」


「お前にこれをやろうと思ってな。

 母上がつけていた指輪だ。

 こいつをやろう。」


「え、そのようなものをいただくわけにはまいりません。」


「俺からでは不服か?」


「いえ、そうではなくて、あの、王妃様は。」


「死んだよ、いくら指輪の呪いとはいえ、哀れなものだ。

 嫁入りした国を亡ぼせなどと、あのジジイもクソだな。」


「それはどういう。」


「俺の言っていることはわからぬか。

 おいベスパー、アカデミーから教授をよこせ。

 呪いの魔道具について詳しい者を。」


「は、承知いたしました。」


「ではサナ、久しぶりにお前と話がしたい。

 少し付き合え。」


「はい、殿下。」

 そう言ってアルゴの前に跪く。


「いや、そうではない、ここでどうだ。」

 と言ってサナに着席をうながす。


 サナは大臣の顔を見ると、大臣は黙ってうなずき、手で椅子を指していた。


「では畏れながら。」


 そうしてサナはアルゴの隣の席に座り、お茶を手にした。


「ここから先の話は俺がお前に話すことだ。

 だが大臣がそれを偶然聞いたとしても俺は構わないことにする。」


「はい」とサナはもう泣きそうな声で返事をする。

 王妃の指輪、呪い。

 それだけでも十分に恐ろしいのに、これから話す殿下の言葉。


「まずはお前には感謝している。

 俺はその言葉も告げずに帰国させられたのでな。」


「はい、ありがとうございます。」


「そこで、お前にはあの指輪をやろう。

 もちろん呪いは発動していないから、身に着けても問題はないのだが、お前もそんなものは嫌だろう。

 だからアカデミーに売るというのはどうだ?

 そうすればここを出ていい暮らしができるだろう。

 何せ帝国がこの国に仕掛けた陰謀の証拠だからな。」


「そんな、畏れ多い。

 ますますいただくわけにはいきません。」


「俺がお前のものだと言っている。

 だからお前は金を受け取って黙って実家に帰ればよい。

 それだけだ。

 指輪をどうするかなぞ、気にせんでもよろしい。

 なぁ、ベスパー大臣よ、それでいいか。」


「はい、各所と相談のうえ、取り計らいます。」


「だとよ、よかったな。

 お前も実家に帰ることができる。

 俺からの礼だと思って受け取っておくがよい。」


「はい。」とサナは戸惑いながら返事とした。


「そしてお前は解雇だ。もう俺にかかわることを禁ずる。」


「それはどういうことでしょう?」


「今にわかるさ。

 俺はこの国を裏切り、ジジイからも『役立たず』と追放された。

 そして母は指輪の呪いで死に、親父にこうして会いに来たわけだ。」


 アカデミーから教授が呼ばれると、すぐさま指輪の鑑定に入った。

 部屋の隅では騎士団長が大臣に耳打ちする。


「王は隣の給仕部屋にいます。

 そのまま会話を続けよと仰せです。」


 大臣は無言で給仕部屋に了解の合図をする。


「あ、団長もそのまま聞いてくれ、貴様には俺の首を跳ねてもらわねばならんからな。」


 これには誰も何も言えなかった。


 しばらくして教授は、

「これは使役の呪いの指輪です。

 身に着けたものを命令に従わせ、従わなければ死を与える恐ろしいものでございます。」


「して、この指輪になどのような命令が。」

 と大臣が教授に問うとアルゴが、

「……王との間に子をなせ、そののちに皇族を滅ぼし王を殺せ……その子を王とせよ、失敗は死である……。」

 と答えた。


「そんな……。」

 サナは言葉を失った。


「こんな指輪を娘の身につけさせて嫁に出すんだよ、あのジジイは。」


「教授、これで帝国がこの国を乗っ取ろうとしていた陰謀の証拠になるだろうか。

 騎士団長、俺の首を跳ねる理由としては十分だろうな。」


「殿下、どうしてこのような大事を?」

 と大臣が問う。


「ああ、母上は日々変貌していったよ。

 こんなことでは死にたくないと指輪の力に抗い続けて、まともな精神を保つこともできないくらいにな。」


 アルゴは当時を思い出しながら苦笑していた。


「その指輪には闇魔法の発動も備わっている。

 魔力を通せば死の闇魔法が発動する。

 第一王妃は強力な闇魔法で死んだのだ。

 母上がそうした。

 しかし明るみにならなかったのは、母はもともと闇魔法の使い手ではなかったからだ。

 だから術者は不明のままだった。

 母が死んだ今になってようやくわかったことだ。」


「そうでしたか。なかなか術者が見つからないのはそのためだったのですね。」


「母は言っていたよ。

 そのまま見つかって首を跳ねられたほうが幸せだって。

 それはそうだろう、呪いで死んでいくその様子を、子どもたちが見てしまったと言っていたからな。

 ずっと自分を責め続けていたんだ。

 そして姉上や兄上にも時間が経ってから、その呪いは発動してしまった。」


「なんと、そうでありましたか。」

 と教授は言う。


「もともと術者の力でなないため、解呪が不可能という訳でしたか。」


「これ程重大な秘密をなぜ我々に?」


「言ったであろう、俺はもうジジイに用なしと言われたんだ。

 だからこの国で罪人として首を跳ねてもらおうとやってきたと。」


 重たい空気が流れ、誰もが言葉を失った。


「これは、母上が最期に語った話だ。

 俺はこれを親父に話をしなければならない。

 そして最期の言葉を伝えなければならない。」


 アルゴの目には決意がにじみ出ていた。

 しかしそれは同時に、死罪をも受け入れる覚悟と、悲しみに満ちていた。


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