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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
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のんびり

 

 私はドラゴン。人間に恐れられ、挑まれる運命。

 でも、本当は人間も好き、やっぱりかわいがられたい。

 今日も空から人々の暮らす街を眺めていた。

 あ、もちろん姿を隠しているけどね。


 私はお母様と同じ『聖なる力』があるみたい。

 だから白い体に白い翼があって、ちょっと特別な存在みたい。

 それでも街の上に私が飛んできたことが見張りに見つかったら大騒ぎ。

「ドラゴンが出た!」ってね。

 私はこの、のんびりした暮らしを眺めるのが好きなの。


 屋根の上の猫の昼寝、子どもと遊ぶ犬、人の胸に抱かれているウサギ。

 パン屋の前で笑う子供たち、大道芸人に拍手を送る人々……楽しそうね。

 いいなぁ~、私もあんな風にかわいがられたい。

 あぁ、あの仔たちが羨ましい。

 全身毛だらけの小動物。人間の女の子が頬ずりしていたわね。

 抱き上げられて、幸せそうだった。


 私がドラゴンだから? かわいがってもらえないの?

 それどころか挑まれ続けて戦うことを運命づけられているのかな?

 私は森の主で、守り神として畏れられている。

 だから、私のことをかわいがってくれたのは、今はもういない母様だけだった。


 その母様だって、城の騎士たちに連れ去られてしまった。

 母様は私に大丈夫だと言ったけど、そのまま戻っては来なかった。


 どうして人間たちはドラゴンに挑むなんて、ばかなことをするのだろう。

 そのたびに大勢死んでいるのに。


 私だって挑まれなければ戦うことなんてないのに。

 そんなのは嫌だな。

 だって私、生まれた時からずっとドラゴンだし、ドラゴンとして暮らしていくのよ。

 だれとも仲良くなれず、戦いの日々を送るなんて。


 ドラゴンは人を食べるとか言われている。

 でもそれは戦ってかみついたときのことで、普段は食事のために人を狩ったりはしないわよ。

 まして言葉のわかる種族を殺すなんて、そこまで非情にはなれないのよ。


 こうして毎日の森のパトロールのついでに、森の近くにある人の住む街を眺めていた。

 森の周りには4つの街があり、比較的魔物の襲来が少ないため、守りもそれほど強固ではない。

 それは私たちが時々魔物を食べて間引いていたり、言うことを聞かせているからね。


 こちらからは人を襲わないこと。

 もちろん挑んできた者には、二度と森に来たいなんて思わせないようにするけどね。

 やっておしまいって言うけど、できれば命までは取らないでね。


 だって人間は、徒党を組んで押し寄せられると、豊かな森が壊されてしまうもの。

 それは私の望みではないし、森に棲むものが困ってしまうでしょ。


 こうして私は、人と森が適切な距離を保てるようにしている。

 森の奥にはおそろしいドラゴンが棲んでいるから近づくなって言っている。

 こんなに優しくしているのになぁ。

 誰もわかってくれないし、ぎゅってしてくれない。


 私は大岩の塔の、根本にある棲み処に帰る。

 棲み処は知恵のある魔物の長によって守られている。

 それはまだ私が幼いから。


 500年は生きると言われているドラゴンの、私はまだ20年を生きたところ。

 母さんがいなくなってからは、私は森に守られ、育まれているの。

 だから私の魔法の先生、ハイエルフのサポニスは今でも「お嬢様」なんて呼んでいる。


「ねぇサポニス、どうしたら人間と争わないで済むかしらね。」


 サポニスと呼ばれたハイエルフの長老は、静かにこう答えた。


「およそ人間どもには、ドラゴンの威厳など届いてはおりません。

 強い力の象徴であり、魔物の長であるとの認識なのです。

 なので、ドラゴンを討伐すれば魔物がいなくなると、信じています。

 平和な人間の世の中のために討伐すべしと考えられているやもしれまんね。」


「でもよ、お嬢、アイツらの戦闘能力は、一人一人は大したことはねぇんだ。

 しかし何万という軍勢で来られたら、さすがの先代も……。」


「これ、カイル。」


 ここまで言いかけてサポニスに制止されたのは、オーガ軍団長のカイル。

 私の護衛と、森の戦力を担っている。


「まあ、なんにせよ今はお嬢が力をつけるのが先決だな。」


 こちらはハイオークのネルフ。

 カイルとともにお母様から名を与えられた私の教育係。

 ネルフは森の防衛と、秩序の維持に力を尽くしている。


 こうしていつものように日課のトレーニングが始まる。

 今日はネルフの体術の授業。

 と言ってもほとんどが実戦形式。

 単純な力比べでは、ドラゴンがハイオークに劣ることはない。

 でも、体のさばき方、攻撃の受け方、交わし方、相手の攻撃を誘って、

 不意を衝く反撃の仕方などを教えてくれる。

 私はまだ幼い女の子なのに、こんなに強くなってどうするの?


「お嬢のうろこは、この盾なんかよりもよほど頑丈なんですぜ。

 だってそのうろこを使った盾は最高級品になるじゃないですか。」


 そりゃ、そうだけど。

 だからと言って防具なしの私に戦斧で打ち込んでくるなんて、どれだけ戦闘狂よ。


「こんな私の攻撃でさえ、正面から受けると少しはダメージになりますし、

 長く続けば体力を消耗します。

 だから正面ではなくて、相手の刃先がうろこをすべるように受け流す。

 いいですか、行きますよ。」


 私は戦斧の刃先が当たりそうなところで腕をひらりとやって、受け流す。

 勢い余ったネルフはバランスを崩し、


「そこですよ、お嬢!」

 と、カイルの声がかかった。


 先日カイルに習った回転しっぽアタック? をやってみる。

 するとネルフに盾で受け止められるが、体ごと吹き飛んだ。


「大丈夫? ネルフ。」

 と、心配そうに声をかけると、ネルフは立ち上がった。


「見事でしたぞ、お嬢。

 まさか反撃を用意していたなんて。」


「あれはね、この前カイルが教えてくれたの。

 その頑丈な尻尾もうまく使えば戦闘で役に立つって。


「せっかくドラゴンの身体をしているんだ、使わなければもったいないだろ。」


 私はドラゴンの姿が畏れられていることが、不安なのだけど。


「ほら、稽古もいいがハラが減っては続かないよぉ。ご飯よ、ごはん。」


「おお、ありがてぇ。」カイルとネルフは急いで食堂に向かう。


 そう声をかけるのはドワーフのチコおばちゃん。


「あんたもどう?」とサポニスに声をかけると、

「私にはどうも肉は……。」


「旦那、そう思って用意していますよ。リーンの実。

 たまにはお嬢と食卓を囲んであげたらいかがですか。」


「リーンの実ですか、よくもこのような希少なものを。

 ありがたくいただきますね。」


「いえ、なに。この前、お前さんだけ食卓にいないって、お嬢がね……。」


「わたくしも少し、心を痛めていましたよ。」


「つくづくあのお嬢はあんたに懐いているんだね。」


 この森には魔物だけではなく、いろいろな種族や動物もいる。

 少ないけど森の入り口には人間の狩人も住んでいる。


 今日のご飯はワイルドボア。

 もちろん私たち魔物は仲間同士で食卓を囲むなんてことは、普通はありえないことなのだけど。


 私が空から見た人間の生活は、こうしてみんなで食べ物を分け与えていた。

 うらやましくて、チコおばちゃんに頼んだの。

 だから、この森の中で食卓があって、みんなでご飯を食べるのはここだけ。

 森の住民がここに用事できたときもなるべくご飯を出している。


「森の守り手様が、我らに食餌を下賜された。」

 ってすごく感激されたから、ずっと続けているの。


 どんなに怒っていても、おいしいご飯の前ではみんな笑顔になれるの。

 人間たちもこうして仲良くなるのかな。



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