りゅうきしみならい
私はサポニスと森の西側にある広い草原に来ていた。
「ではお嬢様、その姿から大きなドラゴンへと変身する術を覚えていきましょう。
額のドラゴンの紋章に意識を向けて、そこに魔力を集めてみてください。」
「こうかな?」と額に力がみなぎる感じをイメージしてみる。
「そうです、そのまま大きな竜をイメージしながら掛け声をかけて、変身するというイメージを持つのですが。」
「ドラゴン、ドラゴン、ドラゴン、う~ん。
小さい頃に見た優しいお母様くらいしか思い浮かばないよ。」
「そうですな、強いドラゴンには会ったことがありませんでしたな。
それでは王城で見たサニア王妃の石像はいかがですか。
あれは悪しきものに立ち向かってゆく勇敢な姿でしたぞ。」
「うん、やってみるね。」
私は魔力を額に集めると、額の紋章が強く輝き出した。
そこで「えい!」とやってみると、大きくて立派なドラゴンの姿になった。
「うわあ、こんなに立派なドラゴンになれるの?すっご~い。」
しかし、喜んでいて集中が切れると元の女の子に戻ってしまった。
「これからお嬢様はアイリス殿下を乗せて飛ぶことになります。
途中で姿が戻っては、竜騎士を背に乗せて飛ぶことはできません。
ドラゴンの姿でいられるように訓練をします。」
「ハイ先生、頑張ります。」とはいったものの、集中力は切れてしまう。
「では、変身するときに竜の咆哮を放ちましょう。
竜の力を用いれば、体が覚醒しますので、先ほどよりも扱いやすくなると思います。」
私は魔力を額に集中させた後、竜の咆哮をやってみる。
すると体が竜の魔力に呼応して力がみなぎってきた。
「お見事です、お嬢様。
それではそのまま、シルフと追いかけっこをしてください。
シルフを捕まえることができたら、次の段階へ進みましょう。」
「それじゃ、お嬢様。
いきますよ!」
シルフと私の追いかけっこが始まった。
竜人の姿なら、ほほえましい光景に映るのだろうけど、大きなドラゴンが小さな妖精を追いかけまわしていた。
しかしそう上手くは行かず、大きな体で向きを変えるたびにしっぽに振り回されてうまく姿勢や向きをコントロールできない。
そのたびに地面に転がったり、空中を舞っていた。
その様子を見たシルフは、
「お嬢様、泥んこ遊びがお好きなのですかぁ?」
なんてからかって来るから、
「ぜ~ったい、捕まえてやるもんね。」
と言って追いかけっこにムキになっていた。
「はい、そこまで。
初日にしては上出来でしょう。
しばらくはこの訓練を続けてみましょう。
シルフもお疲れさまでした。」
「ええ、お嬢様、明日も遊んであげるわね。」
なんてからかっていた。
私は、「も~っ!」といってちょっと怒ったけど、姿を維持できずに倒れこんでしまった。
「なかなかこれだけでも難しいわね。
これではお姉ちゃんと一緒に飛ぶのはもっと先の話になるかな。」
「半年後、一流の竜騎士コンビになっていればいいですね。」
「そんなにかかるの?」
「いえいえ、普通は数年の修業が必要なところですが、今はそうはいっておられませぬ。
半年でどこまでできるのか、楽しみにしておりますよ。」
サポニスがニヤリにやりと笑っていた。
そのころお姉ちゃんは、ネルフと一緒に基本的な槍術を習っていた。
基本に忠実がネルフのやり方であった。
一つ一つの教えを、従者の騎士とともにゆっくりと習っていた。
「基礎さえできれば、応用はすぐに身に付きます。
基礎をしっかりと確実にすることが肝要ですな。」
そう、基礎はものすごく地味なのだが、お姉ちゃんも従者もすでに汗だくだった。
ネルフが「槍は力ではなく、流れを意識することですぞ」と指導していた。
お姉ちゃんたちは、今までできていると思っていた動きも、姿勢や力の入れ具合、体を支える筋力が追いついていないので、なかなかうまくいかなかった。
それでも、
「槍を構えて、風の流れを感じるのね。
だってこれは『飛竜の槍』だから。
風を切って飛ぶように振るう!」
そう言い聞かせていた。
「そうです姫様、なかなか上手くなりましたぞ!」
力ではなく技の体得って、とても大変な訓練なんだね。
それでもネルフが褒めちぎるので、いい気分で訓練をしていた。
一方カイルは、傷薬を最初に用意して、とにかく実践を積ませているようだった。
アルスと3人の従者の騎士は、カイルの挑発によりへとへとだった。
カイルは4人まとめて相手をしながら、容赦なく攻撃を仕掛けていく。
「まずは剣の扱いに慣れるため、盾は使わずに、剣1本で相手をするように。
剣だけで攻撃、防御を行うこと。
同時にすべて受け切らずに受け流してかわすことも体得するんだな。」
これまでにない訓練の仕方に戸惑っていたが、
「ほれ、青二才どもお前らなんぞ俺一人で十分だ。
まとめてかかってこい。」
なんて言うから公国騎士のプライドが許さなかった。
カイルに向かって一斉に向かっていくが、パワーと技術で勝るカイルにはまるで歯が立たなかった。
私が訓練を終えて様子も見に行くと、アルスは、
「絶対に追いついてやるからな!」と言って悔しがっていた。
「4人でかかってもこれかよ、どれだけ強いんだよ、あの先生は。」
若い騎士見習たちは、そう言いながら疲れ果て、天を仰いでいた。
「よし、今日はここまで。よく耐えたな。」
と言ってカイルがねぎらいの言葉をかけていた。
それぞれが初日の訓練を終え、若者たちがカイルの愚痴を言いながら、お昼ごはんをもりもりと食べる様子が見られた。
お姉ちゃんは甲冑を着用しての訓練だったので、
「あ~、お風呂に入りたい。」
と従者の騎士とともに早速汗を流しに行っていたので、私も一緒に入ることにした。
みんなで入るお風呂はやっぱり楽しい。
大きな浴槽にゆったりと浮かんで楽しんでいた。
「森の中のお風呂って、いい香りがして気持ちがいいわね。」
お姉ちゃんたちも、すっかり喜んでいた。
アルスたちも、お風呂でさっぱりした後には、お昼ごはんが待っていた。
チコおばちゃんは、よく食べる若者たちの様子を見ながら、ニヤリとして満足そうに見守っていた。




