ようこそりゅうのもりへ
アイリスとアルス、そして侍女たち数名と護衛の騎士4名。
これら一行が竜の森へ到着したのはそれから一週間後のことだった。
「ラヴィ、会いたかったわ。」
と言って私をぎゅ~ってしてから、サポニスに挨拶していた。
その後の王都では、竜の聖廟のお化粧直しということで、しばらく拝観ができないこともあり、地方から来た観光客から不満が出たみたい。
そこで彫像師が徹夜で作業をして、3日後には除幕式が行われ、お披露目ができた。
新しい竜の石像には石英がちりばめられ、天井から日の光が入るとまばゆい光を放つように工夫されていたから、その美しさが評判となり、ますますお客さんが増えたとかで、結構忙しかったみたい。
「私たちの出立式も、竜の石像の前で行われたのよ。
ホントもう、何でもお祭り騒ぎにしてしまうのだから。」
「民たちが平和に暮らしている証拠ですよ。
王家と楽しみを分かち合う。
いいことじゃないですか。」
とサポニスが笑って言った。
大岩の塔のふもとの食堂は、今では来客も増え、一層大きな円卓が置かれるようになった。
侍女たちがチコおばちゃんを手伝って、円卓に料理を配膳していく。
今回は若い料理人も同行し、チコおばちゃんから食事のレシピを習っていた。
最近、サニア様の石像に亜人種の方々の参拝者が増え、もてなしの料理が課題になっており、王城から派遣されたのだという。
チコおばちゃんもしばらく大所帯になるため、とても感謝していた。
「さて皆の者、ここに再び我が家族を迎えられたこと、とても喜ばしいことである。
そして今回は国の未来を担う若者たちも大勢やってきている。
この森と公国の未来も、この者たちとの交流で、より発展するであろう。
では、杯を持て。」
と、サポニスの挨拶から始まり、
「若者の未来に!乾杯。」
とカイルが音頭を取った。
いつもの来訪と違うのは、若くてかわいい侍女たちがいること、そして若い護衛の騎士たち。
王様もこれからのことを考えて、若い人たちを訪問させたみたいね。
厨房ではチコおばちゃんと若い調理員が話をしていた。
「あたしはね、特に種族とか考えて料理を作ってはいないのさ。
ただ、気を付けるのはシンプルにすること。
肉料理なら肉だけ、野菜なら野菜だけ。
混ざっていると種族によっては食べられないからね。
人間は手の込んだいろいろな素材を使って料理をするだろう?
森の仲間たちにはね、こういう時は、いろいろなシンプルな料理を出せば、食べられるものを勝手に選んで食べてくれるってわけさ。」
「なるほど、勉強になります。」
その様子を見ていたナギおじさまが、
「おい、アルス皇子、次は鍛冶屋の見習いを連れて来い。
面白そうだから人間を鍛えてやるよ。」
「ありがとうございます。エリック殿に進言しておきます。」
「こうして文化的な交流も始まると、将来が楽しみになるね。」
そうチコおばちゃんとお姉ちゃんが話していた。
「これからの皆様の滞在について、何か不足しているものはございますか?」
と、サポニスが聞くから、私とお姉ちゃんで、
「お風呂が欲しい。」
ってお願いしたの。
そうしたらサポニスは大きな岩でできた建物を作って、まんなかにお風呂、それを壁で仕切って、入口を二つ。
そう、男湯と女湯ね。
あとは大きな水がめに刻印魔法でお湯を作り、浴槽に流していく。
細かい調整はナギおじさまにお願いして、あっという間に作ってしまった。
「これで侍女たちも安心してお風呂にはいれるわね、よかった。」
この後、今までは習慣すらなかった大型の魔物たちの間でも入浴が流行した。
今夜は明日からの訓練に備えて早く眠りについた。
「ねぇ、お姉ちゃん、私の部屋で一緒に寝ましょう。
侍女の皆さんも一緒に入っても大丈夫なくらいお部屋が広いから。」
もともとドラゴンの大きさに合わせて作られた部屋で、小さな女の子になったラヴィにはもちろん大きすぎる。
ベッドも広すぎて持て余していた。
「そうね、侍女たちも一緒にお邪魔するわね。」
こうして訪問団の女性たちは私の部屋で過ごすことになり、入り口には女騎士が護衛に立つことになった。
アルスたち男性は、広い謁見の間の片隅に宿営することになった。
「いずれ寄宿舎も必要になりますかね?」
サポニスとナギおじさまがそんな話をしていた。
翌朝、朝食が終わると訓練についてサポニスから説明が行われた。
「まずお嬢様は私と魔力操作の練習です。
その間にアイリス様はネルフと槍術の訓練、これには護衛騎士の女性の方と一緒に受けていただきます。
護衛の方も、対象の方がいなければお暇でしょうから。」
「よろしいのですか?
連れの若い者にまで、お手を煩わせるようなことをお願いしても。」
「ええ、一緒に学ぶ者がいれば、ともに励みになるでしょう。」
「それからアルス殿下には、護衛騎士3名とともにカイルが戦闘訓練を担当します。」
「厩番の方はドワーフのナギが馬蹄の扱いと馬の世話の講義、侍女の皆様にはチコとともに、森へ食料の採取と調理についてそれぞれ半日ずつ学んでいただきます。」
「我らの部下にまで、このようなご配慮をいただき感謝申し上げます。」
「ちょっとした林間学校の合宿だと思ってください。
それに、この大所帯を森の住民だけでお世話するのも実は大変でしたので、お手伝いしてもらいながらいろいろと学んでいただくいい機会になると思いましてな。」
「なるほど、では一同とともにお世話になります。
よろしくお願いいたします。」
本当に若い人たちの学びの場になっている。これからもこういう交流が続いてくれればいいな。
「あ、アイリス殿下とアルス殿下には、午後からは治政学の講義がございますゆえ、あまり体を動かして授業が受けられないなどということのないように、お願いいたします。」
「え~。せっかく勉強しないですむと考えていたのに。」
とお姉ちゃんが不平を漏らした。
「これはお父上からの願いでもあります。
それでは後ほど、元気に再会するとしましょう。解散。」
お姉ちゃんたちは、これから新しいことを学べるって、なんだかワクワクしていた。




