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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
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りゅうのせきぞう

 

 次の日、王様に連れられてお母様の眠る竜の聖廟へ、サポニスとアルス、アイリスとともに訪れた。

 私は大きな花束を抱え、石化した母様の足元にささげた。


「母様、ようやく会えましたね。

 私はお姉ちゃんと竜の血盟によって結ばれて、『ラヴィ』って名前ももらったのよ。

 母様の後を引き継ぎ、秩序の天秤の守護者としてお姉ちゃんとともに頑張っていきます。

 どうか見守っていてください。」


「サニアお母様、こうしてラヴィとともに天命を授かりました。

 必ずラヴィを守ります。

 どうか安心してお眠りください。」


 二人で母様に祈りをささげると、お兄様、王様とつづいてお祈りをしていた。


「それでは皆様、サニア王妃とのお別れの時間です。」

 そうサポニスが告げた。


 それは、石化の呪いを解き、母様を自由にして差し上げるとともに、母様とは永遠の別れを迎えるということ。

 昨日のアカデミーの教授たちと王様の意見を聞き、呪われたままでは哀れに思う。

 解呪できるものなら、その魂を苦しみから解放させてあげたほうが良いということになった。


「ディスペル・マジック」

 サポニスが唱えたのは、高位の聖属性魔法だった。


 その時、私たちの前に竜人になった母様が現れたの。

 でも母様の姿は光の粒になってゆっくりと空に消えて行った。

「母様!」私は泣きながら叫んでいた。

 お姉ちゃんも私の肩を抱きしめながら、目に涙を浮かべていた。


 サニア王妃の石像が白い光をまとい、その光が部屋全体を満たすと、やがて静かに崩れ落ちた。

 その瞬間、場にいた誰もが、彼女の魂が解放されたのだと確信した。

 ようやく会えたと思えた母様は、石化により魂がとらわれていたのだ。


 これでいいの。

 私はお姉ちゃんに縋り付いて泣いていた。


 王様とサポニスは深々と頭を下げ、お兄様とお姉ちゃんもそれにならって頭を下げていた。


 崩れ去った石像の中央から、一筋の光が空へと伸びた。

 光は天空で赤い槍の姿となって、まるでお姉ちゃんを選ぶかのように彼女の手元へと静かに舞い降り、それを両手で受け止めていた。


「お母様が私たちにこの槍を託したのね。」

 と、そっとつぶやいた。


「これは飛竜の槍です。

 女性竜騎士のための槍ですね。

 先代様はこれをお二人に託されました。

 秩序の天秤の守護者として、平和と調和を愛し、世に安寧をもたらすよう、精進するのです。」


「はい、必ずラヴィとともに秩序の天秤の守護者として、その責務を全うすることを誓います。」


 お姉ちゃんが私の背中を押して、

「さ、ラヴィ、あなたもよ。」


「アイリスお姉ちゃんと一緒に、平和と調和を護ります。

 見ていてね、母様。」


 優しい風が吹き抜け、皆を包んでいくのがわかった。


 その後、アカデミーの有識者たちが集められ、サポニスと王様とともに今後の検討をしていた。

 その中で、まずはアイリス皇女の竜騎士としての成長を促すための訓練と、私がパートナーとしての役割を学ぶことを優先事項とすることになった。


「では、我が竜の森にて二人を訓練いたしましょう。

 久しぶりに腕が鳴りますわい。」

 と、サポニスがにやりとした。


 さらに、竜騎士を守るグラディエーターという存在があったと文献にあるという。

 竜騎士の弱点は接近戦に弱いこと。

 それを補うために剣闘士がそばにいたと記録されている。


「それは当然ですな、なにせ初代国王はそのグラディエーターで、女性竜騎士と結ばれ、騎士団長の家系に連なるのだからのう。」


 え、そういうことだったの?

 一同に納得の空気が流れた。


「そのグラディエーターとして我が子アルスをその任につかせたい。

 一同、異論はあるか?」

 と王様が言った。


 結局また姉弟で竜の森に赴き、そこでしばらくの間訓練することになった。


 次の議題は、消滅した竜の石像についての対策が話し合われた。

 というのも、竜の石像であるサニア王妃はその伝承の物語から国民より絶大な人気があり、竜人祭まで行われているのだ。

 竜人祭の当日は、街中が白い衣装をまとった人々であふれかえり、まるでサニア王妃への敬意と感謝を込めた生きた絵画のようになった。


「王に謹んで進言いたします」


「どうした?」


「このままではサニア饅頭の売り上げが下がってしまいます。」


「!?」


 ドラゴンの石像に参拝するものがいなくなると、商店街では販売しているサニアの石像のレプリカや、お守り、サニア饅頭まで、物品販売に多大な影響を及ぼすということだった。

 さらに、観光案内、果ては飯処や宿泊業、ひいては夜の街まで大きな影響があるという。


「それはつまり……石像によって商業が潤って税収の柱となっているので、どうにか復元できないか? ということなのだな。」


 最終的には、サポニスが大まかな石像を土魔法で形作り、彫像師らが、細部を彫刻する形で賛同を得た。


 私とお姉ちゃんは練兵場で新しい槍の扱いを習っていた。

 教えるのは騎士団長。

 先祖は竜騎士だったという。

 出立の日までアルスとともに訓練を受けることになった。


 それからようやくサポニスは解放され、私とともに竜の森へ飛行して帰還した。


 森に帰るとチコおばちゃんが二人を待っていた。


「そろそろ戻られる頃だと思ってね、作って待っていたんだ。

 さ、おあがり。」


 そう言って野菜のスープを出してくれた。

 空を飛んで冷えた体にはちょうど良かった。


「これは温まる一杯です。ありがたい。」


 サポニスもただ黙って食べていた。


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