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ラヴィのとっくん

「さてお嬢様、シルフとの追いかけっこも終わり、だいぶ飛行の腕を上げられたようですな。」

「うん、大きい体でも、ぎゅ~んと曲がったり、止まったりすることができるようになったよ。」

「では、次の課題です、シルフを背に乗せて、飛んでみなさい。わしはここからお嬢様たちを打ち落とそうと魔法を撃つから、よけながら飛ぶのですよ。その時にシルフを振り落とさないようにするのです。」

「え、サポニスの魔法って、そんなのが当たったら死んじゃうよ。」

「まぁ、お尻が少し赤くなる程度ですかね。いやならすべて避ければいいことです。ほれ、行きますよ。」

「きゃ~ぁ、サポニスずるいよ!速すぎる!」

「ほほぅ、敵はお嬢様を待っていてはくれませぬぞ。」

 サポニスの魔法は、飛んでいる私たちの背中を後ろから狙って飛んでくる。私はそれを旋回して避けるが、背中のシルフを落としてはいけない。

 とにかく夢中でサポニスの魔法から逃れようと必死で飛び回り続けた。だって、体に当たると少し焦げたようなにおいがして、ヒリヒリするんだもの。

「どうしました。逃げているだけではこの私には勝てませんよ。」

「そんなこと言ったって、どうすればいいのかわからないよ。」

「お嬢様、私にお任せを。風魔法で吹き飛ばしてみましょう。ですがそれにはサポニス殿へ近づかなければなりません。あの攻撃をよけながら、サポニス様の正面に行きましょう、そうすれば私の魔法が届きます。」

「うん、やろう」と言って空中で大きく旋回して、サポニスに向かっていく。

 サポニスの魔法の弾幕が容赦なく降り注ぐけど、さらに速くサポニスに近づいていく。魔法がほほをかすめてもそのまま突撃した。

 そこからシルフの風魔法がサポニスを吹き飛ばそうと発動する。その時、

「惜しい、もう少しでしたね。」と言って杖でシルフの魔法を消し去った。

「とても素直な攻撃でしたので、正面から向かって来ることも、シルフが魔法を唱えることも全部見通せました。もう少し工夫が欲しかったですね。とはいえ初めて私に反撃しましたね。よく頑張りました。」

 これって強者の余裕だよね。シルフと悔しそうに、そう語るサポニスを見ていた。

「お嬢様の背にアイリス殿下を乗せるということは、"竜騎士"としての第一歩を踏み出すことになるのですぞ。」

「今までは一人で飛んでいたのを、これからは二人の呼吸を合わせなければならないのね。」

「竜と騎士が"一心同体"になることこそが、真の竜騎士なのです。ではさっそく明日から、アイリス殿下を背に乗せて飛んでみましょう。」

「え?もう大丈夫なの?」とサポニスに聞くと、

「一度も竜人の姿に戻らずに、戦い続けていたではありませんか。」と言ってにっこりしていた。


 私たちが訓練を終え、アイリスの訓練を見学に行くと、槍術の「月下の槍突」を練習していた。以前よりも下半身に力が入り、腕の振り、槍先の動きが洗練されていた。そこへサポニスが、

「そろそろいいでしょう。アイリス殿下、その飛竜の槍の先端に魔力を込めてみてください。」

「こうでしょうか。」そう言うと、飛竜の槍の先端が淡く光る。

「そのまま先ほどの槍術をお願いします。ネルフ、お願いしますよ。」

「おう、それでは私が受けますので、遠慮なく打ち込んでください。」

 ネルフはアイリスとは距離を置いて盾を構えた。そこだと届かないよう。

「魔力を飛ばすイメージでお願いします。」とサポニスが助言した。

「では、参ります。」

 アイリスは気合を入れてひと突き、ネルフに向けて槍術を放った。

 すると、飛竜の槍の先端から風の刃が起こった。ネルフが大盾で受けるが、後ろに押され、地面に足跡が直線に伸び、体二つ分後退して止まった。

「良い出来ですぞ、アイリス殿下、基本がしっかりしたので、技が安定しておりますな。」とネルフが褒めた。

「明日はその技をお嬢様の背中に乗った状態で試してもらいますよ。それから飛行訓練も始めましょう。」

「はい、頑張ります。ラヴィ、よろしくね。」

「うん、頑張ろうね。」二人とも笑顔だった。初めての飛行訓練に、ワクワクしていた。


 それからアルスと従者の騎士たちとカイルが模擬戦をしているところへ見学に行く。アルスと3人の騎士は、連携しながらカイルを責め立てるようにまでなっていた。

「ほお、動きに無駄がなくなり、体が動くようになっているではないか。」

 ネルフが褒めていると、カイルが、

「はい、ここまで。だいぶ様になってきているようだな。では明日からは盾をつけて2人ずつ相手をしよう。剣の使い方がだいぶ器用になって、速度も上がっている。攻撃をかわしながらのカウンターを教えてもいい頃だろう。」

 それぞれが成長している姿を見て、サポニスは満足そうに笑っていた。


「はいはい、お昼ごはんの時間だよ。今日は王城からのお遣いが来たのでね、ちょいと豪華だよ。」

 食堂の円卓には王城の料理が並んでいる。もちろん王城からの若者への差し入れだった。サポニスたちエルフの一族には季節の果物と野菜。肉好きな魔物やドワーフたちには食用に育てられた牛が一頭丸ごと贈られた。

 若者たちは歓喜に湧き上がる者もあれば、懐かしさに涙するものもあった。

 ナギおじさまが、こっそり酒を持ちだしたので、そのまま宴会になってしまった。

「もう、誰だい昼間から酒なんて出したのは。これだから呑兵衛どもは。」

 チコおばちゃんもそう言いながら、楽しそうにしている王城の若者たちの様子を見てほっとしている。

 当然午後の授業はお休みになり。お姉ちゃんも羽を伸ばしていた。

 アルスは、仲間の騎士とともにカイルから宴会芸を真剣にならっていた。なんでも新人騎士見習の合宿で、先輩として披露する計画らしい。


 しかし、このにぎやかな宴の中に、深刻な顔をしている者がいた。

「エリック、ご苦労様です。して、王城はなんと言ってきているのですか?」

「はい、機密事項なので、こちらに。」と言って親書をサポニスへ渡した。

「どうやら魔導帝国が動きを見せ始めましたか。魔導生命体の大群というのは厄介ですね。」

「ええ、それらを指揮して竜の森の攻略を担当するはずだった指揮官からの情報です。」

「はずだった、とは?」

「アルゴ第二皇子が自ら投降し、捕虜になったとか。」

「ほう、あの皇子も土壇場で人の心を示しましたか。」

「なんでも、大魔導士殿のやり方があまりにも非人道的で、嫌気がさしたとか。母親の死をきっかけに、魔導帝国を出奔したとのお話です。」

「では、信頼できる情報であるな。ここに情報伝達のため、王の許印もある。しかし困ったことになりましたな。」

「と、申しますと。」

「魔導生命体が『生き物を喰らう』というのは、決して大げさではない。森の木々すら、奴らの通った跡は枯れ果て、まるで瘴気のごとく、生命を蝕んでいくのだから。」

 エリックは改めて敵の本質に恐怖を覚えた。

「私たちハイエルフが扱う聖属性魔法は基本的に『癒し』と『守り』なのですよ。今回のような敵を打ち払うことはできません。もちろん強固な魔法障壁を展開して、この森を守ることはできますが。おそらく敵は魔力で無尽蔵に生み出せる魔導生命体。この世の理から逸脱した者たちです。これには通常の魔法では歯が立ちません。物理的な攻撃もあまり意味がないでしょう。」

「では、どうやって戦うのでしょうか。」

「そうですな。そもそもあやつらは死を自覚しない。死を恐れるということがない。なので、腕を切られようが足を切っても向かってくる。生き物のもつ生命力を求めてひたすら前進するのだよ。」

「そんな。成す術がないとは。」

「いかにも、奴らを倒すには、焼き尽くして灰にするか、細かく切り刻むか、聖属性の魔法で完全に消し去る以外に方法はありません。」

「本当に、大丈夫なのでしょうか。」

「いや、こればかりわからぬ。だが方法はないわけでもないが、これも定かではない。」

「では、どうすればよろしいのですか。」

「王には、方法がないわけではないが今のところ不確かだ。ただ、王都への侵攻はこの森が防衛に当たるとする。そう返事をしておいてくれ。」

「はい、承りました。」

「それから、若者たちへの差し入れ、有難く頂戴したともな。」

「はい、お伝えいたします。」

「エリック、次は酒でも一緒に飲もうぞ。お互い無事であればの話だがな。さて、我らも宴に参加するとしよう。早くしないと若者に全部平らげられてしまうからのう。特に最近雑食になったドラゴンもおりますからな。」


 私は大きなくしゃみとともに、その場にサポニスがいないことに気が付いた。きっとエリックと難しい話でもしているのだろう。今日はそんなことはお構いなく、チコおばちゃんとお姉ちゃんにはさまれて、みんなでおいしいご飯を食べている。チコおばちゃんにお姉ちゃんが王城の料理を説明して、私と一緒にとにかく食べてみる。

「あら、とてもおいしいわね。今度は私が王城に習いに行かないといけないわね。」

 そんな冗談を言って笑っていた。

 


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