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竜騎士と秩序の天秤  作者: 竹笛パンダ
第1章 竜騎士と秩序の天秤
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サニアおかあさま

 

 次の日の朝、アルスたちと朝食の後、謁見の間にてサポニスとカイル、ネルフ、そして昨夜遅くに到着したエリックと一緒にアルスたちとの謁見に出席した。

 巨大な玉座にちょこんと座るのは、どうにも居心地が悪かったので、玉座から降りて、アルスたちと同じ高さの、会議用の椅子に座っていた。


「まずは、これを森の賢者サポニス様に。

 王よりお預かりしたものでございます。

 お確かめください。」


「これは、水鏡の雫。

 高位の魔法使いが念じて、伝えたいことをイメージとして保存しておくもの。

 王様からのメッセージなのかい?」


「サニア様、先代の森のドラゴン様のものと伺っております。」


「なんと!先代様からのものであったか。」


「アルス殿下は内容をご存じか?」


「いいえ、私共にも。

 そもそもこのようなものが存在し、その使い方を我々の王城で知る者は一人もおりません。」


「あい、わかった。」


 サポニスはそう言うと水瓶を出し、魔法で水を注いでいった。

 水瓶の底には光る魔石があり、魔力で光を点灯させた。

 丸い光が私たちの頭上に映し出され、そこに静かに水鏡の雫を落とすと……。


 そこには王城に連れてこられたときの、王様と母様とのやり取りが映し出されていた。

 王城へ続く大きな通りを、騎士に囲まれてゆっくり歩き、城門の前で跪き、王と話を始める。


「森の主様、我が願いに応じ、よくぞ参られた。

 感謝しております。」


「あんなに大勢でお迎えに来られれば、応じないわけにはいかないだろう。

 それと、お迎えの際に森に棲むものや森の木を傷つけることなく、静かにしていてくれたこと、感謝する。

 それにしても2万の軍勢とは恐れ入った。」


「ドラゴンは武を重んじる種族と聞き及んでおりましたので、まずは力を示した次第です。

 ただし、侵略が目的ではなく、あなた様に拝謁を望んでおりましたので、騎士たちにはくれぐれも失礼のないようにと申し伝えておきました。」


「まぁ、坊のことだ、森にも我にも危害を加えることはないとしてもね。

 こういうことは形が大事なんだ。

 して、この我に会ってなんとする。

 もはや軍門に下ったのだ、それに礼を尽くした相手を今更攻撃しようとは思わぬ。」


「お心遣い、痛み入ります。

 実は、お願いがございまして、お呼びした次第です。」


「ほう、願いとはなんじゃ。」


「我が子アイリスとアルスのことでございます。

 何者かに死の呪いをかけられて、今やその生命は風前の灯火となっております。

 どうやら強力な術者によるものらしく、この国の魔術師、神官の力をもってしても呪いを解くことはかないません。

 そこで森の主様にお願い申し上げる次第です。」


「では坊、いや王よ、我に名を授けよ。

 このままでは我は城にも入れぬ。

 それから此度は我も竜の魔力を行使せねばならぬようであるな。」


「それでは、畏れながら、名づけをさせていただきます。」


「それでよい、我はおぬしに下ったのじゃ。

 遠慮はいらん。」


「『サニア』と名づけをいたします。」


 すると母様は美しい女性の姿に変化した。

 一糸まとわぬ姿だったので、王様が慌ててマントを掛けた。


「これ、誰かある。

 この方の労をねぎらい、身なりを整えて差し上げろ。

 サニア様である。くれぐれも丁重にな。」


「はい、喜んでお世話させていただきます。」


 その後は、お姉ちゃんの侍女の先輩にあたる者たちが、ラヴィと同じように入浴と着替えの世話をしていた。

 初めてのお風呂に感動はしていたようだったが、それを表に出すまいと必死の表情に、私もお姉ちゃんも苦笑い。


 その後二人の寝室を訪れていた。

 そこには6歳と3歳の姉弟が防御結界の中に寝かされていた。

 呪いは徐々に生命力と魔力を奪い続けていた。


 すぐには殺さず、徐々にその生命を奪う。しかも呪いの発動はかなり遅らせてあった。

 直後に発動しないのは、術者の存在を隠すためであろう。

 このようなことはよほど魔法に精通している者でもない限り不可能なことだと、母様が考えを述べていた。


「呪いの魔法はね、解かれたり、失敗すると、術者に意趣返しが起こるのだよ。

 だから私がこの呪いを解けば、だれがやったかはいずれわかるだろうさ。

 本当は光の魔力で消滅させてもいいんだが、そうすると術者はのうのうと生き続けることになる。

 さて坊、どうするかね。」


「この子たちの母親も、同じ魔法で殺されているのでな。

 できればどこの誰がこのようなひどいことをしたのか、この手で裁いてやりたい。」


「それで、おぬしが苦しむことになっても、か?」


「もちろん、だれがやったかがわからなければ、この子たちを守れないであろう。

 その覚悟はできておる。」


「よろしい。

 では私からも一つ、お願いがあるのだが……。」


「伺いましょう。」


「私はもう長くはない。齢も500を過ぎたところだ。

 末の娘に力のほとんどを渡し、あの子の成長を見ながらゆっくりと過ごし、世代交代をするつもりだった。

 おそらくここで竜の魔力を使えば、それが最期となろう。

 我は十分に生きたのでな、役目を終えることに異存はない。

 できれば娘を守ってやってほしい。

 もう我にはかなわぬことゆえ。」


「ああ、約束しよう。

 竜の森とその娘は我が公国が責任をもって庇護するとしよう。」


「では、竜の血盟により、契約はなされた。

 いずれこの二人が我が娘の良き友とならんことを願う。」


 そうして母様は二人のベッドの間に立ち、防御結界を外すように言うと、白い光が母様を包み、母様は竜人の姿になった。


「竜の慈愛」と唱えると、ベッドの二人は光に包まれ、浮かび上がり、体から呪いが解かれていく。

 そして二人は母様のもとに呼び寄せられ、ぎゅ~ってしてもらっていた。


「私はサニア、もうお前たちは死の呪いにおびえることはありません。

 ここまでよく頑張りましたね。

 安心してよいのですよ。

 それからお前たちに一つ、私からお願いがあります。

 私の娘とも仲良くしてあげてね。

 お願いはそれだけ。

 それでは元気に暮らすのですよ。」


 二人はベッドの上まで宙を浮いて戻ると、そのままベッドにそっと置かれ、すやすやと眠りについた。


「おお、サニア殿、なんとお礼を申し上げればよいか。」


「この子たちも我が子同然です。

 しっかり守ってやってくださいな。」


「しかと心得た。」


「あのおしめをつけて泣いていた坊が、立派に父親になっているじゃないか。

 頼んだよ、この子たちとこの国を。」


 そう言い残して母様は部屋を出ていった。



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