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りゅうのせきぞう

 ラヴィとサポニスはアルス皇子、アイリス皇女と連れ立って、王都への旅路についた。エリックの取り計らいもあり、冒険者による護衛を受けながら、道中は特に何事もなく順調に進み、3日間の馬車の旅を経て王都へと到着した。

「ねぇサポニス、王都は前に来たことがあるの?」

「そうですね、ここがまだ王都ではなく、村だったころに訪れています。あれからもう数百年は経っているでしょうから、全く分からなくなっていることでしょう。」

 いったいサポニスはいくつなんだろう?そんな疑問が頭をよぎった。

「賢者様はずっとあの竜の森にいらしたのですか?」

「いや、一族とともに移動していた時期もあったので、ずっとという訳ではないが、ここ300年ほどは先代とともに秩序の天秤を守っているのでな。」

 300年はずっとだと思うけど、サポニスにとっては人生の一つの時代なんだね。母様とも300年のお付き合いがあったということになる。


 王城へと続く荘厳な街道。かつて母様が大勢の騎士に連れられて歩んできた道。水鏡の雫のメッセージを受け取ってからは、一層そんな思いが強くなる。アイリスたちには住み慣れた王城への帰路。きっとワクワクしているに違いない。馬車は王城の外門をくぐり、中庭の先の大きなエントランス前に横付けされた。

「第一皇子アルス様、第一皇女アイリス様ご帰還。」

 高らかに先ぶれの声が響き渡り、さらに

「竜の森の守護者ラヴィ様、森の賢者サポニス様ご到着。」と続いた。

 実際にこのように紹介されると、なんだか恥ずかしくなって、お姉ちゃんの後ろに隠れた。

「大丈夫ですよ、ラヴィ。今日はみんなであなた方を歓迎しているのですから。」

 私たちはそのまま王の待つ迎賓館へ向かう。そこでも入場とともに高らかのファンファーレが鳴り響き、大きな声で紹介が行われた。

 なんだかもう、恥ずかしくて立っていられない。お姉ちゃんが優しく私の手を引いて、一緒に中に入っていった。


 王様は、私たちを見るなり玉座から駆け寄り、私たちを上座に置き、深々と礼をする。その姿を見た一同もそれにならい、礼をした。

「どうぞお顔をお上げください、王よ。」

 サポニスが威厳のある声でそういうと、サポニスに対して

「ようこそおいで下さいました。森の賢者で、建国の祖でありますサポニス様。」

「今はそなたが王であろう。昔のことはもう構わぬから、そうへりくだるでない。皆がびっくりして見ておるではないか。」

「はい、ではいつものようにさせていただきます。」

「皆の者、竜の森より守護者のラヴィ様、森の賢者のサポニス様にお越しいただいた。このお二人は我が国の恩人であるサニア王妃の愛娘と、その師であり、建国の祖と言われる方である。今日は我が願いに応じてこの王城へお越しいただいたものである。くれぐれもよろしく頼む。」

 場内からは歓迎の拍手が沸き上がった。

「それでは、我々の新しき隣人、竜の森との新たな関係を祝い、乾杯。」

 場内は祝賀ムードでいっぱいになった。


「サポニス様は森の賢者として知られ、今のフランネル公国の建国に大きく貢献された師であると、今でも語り継がれるほどの人物なのですよ。」とお兄様が隣で耳打ちして教えてくれた。

「それよりもいっそう歓迎されているのは、あなたのようね、ラヴィ。」

「え、どうしてかな?」

 私の元にはたくさんの贈り物が届けられ、多くの人たちがあいさつに訪れている。その人たちが言うには、アルゴ皇子との戦いで、アルス皇子たちを守ったこと、特にアイリスは騎士団では大人気なので、私のしたことが武勇伝となって伝わっていた。

 また、アルゴ皇子は恐ろしい魔法使いへと変貌していったため、そのアルゴ皇子が王妃とともに帰国したことは、城に仕えるものにとっては懸念が一つ減って、とても喜んでいるとのことだった。

「侍女たちに、ラヴィについての問い合わせが殺到したみたいだよ。そしたらね、侍女たちが言うには、天使のような女の子で、急に人になったから着る服や靴もないって言ったの。そのあとから、特に騎士団からは贈り物が届いて大変だったみたいだよ。」なんていたずらっぽくお姉ちゃんが言った。

 私はますます恥ずかしくなって、お姉ちゃんの後ろに隠れて、スカートをぎゅっと握りしめていた。

「ダメよラヴィ、今日はあなたの歓迎会なんだから。」と言ってお姉ちゃんは私を前に立たせて、

「かわいくて、とても強いラヴィちゃんですよ。」と言って喜んでいた。

 アルスは竜の森でのことを同僚の騎士見習たちと楽しく語らっていた。

 特にカイルたちの一糸乱れぬ剣技の披露については身振り手振りを交えて熱く語っていた。

 サポニスは王様をはじめ、アカデミーの教授たち、魔導士の方と語らいながら手土産のバッカスの酒を楽しんでいた。


 私たちが解放されたのは、夜もすっかり遅くなってから。私が眠い目をこすったのを合図に、

「今日の旅のお疲れもあることですので、今宵はここでお開きとさせていただきます。」となった。


 私はお姉ちゃんと一緒にお部屋に帰った。

 部屋には高く積み上げられた贈り物の箱と、感謝の手紙が添えられていた。

 侍女たちにお願いして私のクローゼットを用意してもらい、そこから必要なものを支度してもらうことになった。アイリスも満足そうな顔で見守っていた。

 その夜はゆっくりとお風呂に入って、お姉ちゃんと一緒の布団で休む。お姉ちゃんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。


 次の日、王様に連れられてお母様の眠る竜の聖廟へ、サポニスとアルス、アイリスとともに訪れた。私は大きな花束を抱え、石化した母様の足元にささげた。

「母様、ようやく会えましたね。ラヴィはお姉ちゃんと竜の血盟によって結ばれました。母様の後を引き継ぎ、秩序の天秤の守護者としてお姉ちゃんとともに頑張っていきます。どうか見守っていてください。」

「サニアお母様、こうしてラヴィとともに天命を授かりました。必ずラヴィを守ります。どうか安心してお眠りください。」

 二人で母様に祈りをささげると、お兄様、王様とつづいてお祈りをしていた。

「それでは皆様、サニア王妃とのお別れの時間です。」そうサポニスが告げた。

 それは、石化の呪いを解き、母様を自由にして差し上げるとともに、母様とは永遠の別れを迎えるということ。昨日のアカデミーの教授たちと王様の意見を聞き、呪われたままでは哀れに思う。解呪できるものなら、その魂を苦しみから解放させてあげたほうが良いということになった。

「ディスペル・マジック」

 サポニスが唱えたのは、高位の聖属性魔法だった。

 その時、私たちの前に竜人になった母様が現れたの。でも母様の姿は光の粒になってゆっくりと空に消えて行った。

「母様!」私は泣きながら叫んでいた。アイリスも私の肩を抱きしめながら、目に涙を浮かべていた。

 サニア王妃の石像が白い光をまとい、その光が部屋全体を満たすと、やがて静かに崩れ落ちた。その瞬間、場にいた誰もが、彼女の魂が解放されたのだと確信した。

 ようやく会えたと思えた母様は、石化により魂がとらわれていたのだ。これでいいの。

 私はお姉ちゃんに縋り付いて泣いていた。

 王様とサポニスは深々と頭を下げ、お兄様とお姉ちゃんもそれにならって頭を下げていた。


 崩れ去った石像の中央から、一筋の光が空へと伸びた。光は天空で赤い槍の姿となって、まるでアイリスを選ぶかのように彼女の手元へと静かに舞い降り、それを両手で受け止めていた。

「お母様が私たちにこの槍を託したのね。」と、そっとつぶやいた。

「これは飛竜の槍です。女性竜騎士のための槍ですね。先代様はこれをお二人に託されました。秩序の天秤の守護者として、平和と調和を愛し、世に安寧をもたらすよう、精進するのです。」

「はい、必ずラヴィとともに秩序の天秤の守護者として、その責務を全うすることを誓います。」

 お姉ちゃんが私の背中を押して、

「さ、ラヴィ、あなたもよ。」

「アイリスお姉ちゃんと一緒に、平和と調和を護ります。見ていてね、母様。」

 優しい風が吹き抜け、皆を包んでいくのがわかった。


 その後、アカデミーの有識者たちが集められ、サポニスと王様とともに今後の検討をしていた。その中で、まずはアイリス皇女の竜騎士としての成長を促すための訓練、ラヴィのパートナーとしての役割を学ぶことを優先事項とすることになった。

「では、我が竜の森にて二人を訓練いたしましょう。久しぶりに腕が鳴りますわい。」と、サポニスが言う。

 さらに、竜騎士を守るグラディエーターという存在があったと文献にあるという。竜騎士の弱点は接近戦に弱いこと。それを補うために剣闘士がそばにいたと記録されている。

「それは当然ですな、なにせ初代国王はそのグラディエーターで、女性竜騎士と結ばれ、騎士団長の家系に連なるのだからのう。」

 え、そういうことだったの? 一同に納得の空気が流れた。

「そのグラディエーターとして我が子アルスをその任につかせたい。一同、異論はあるか?」と王様が言う。

 結局また姉弟で竜の森に赴き、そこでしばらくの間訓練することになった。


 次の議題は、消滅した竜の石像についての対策が話し合われた。というのも、竜の石像であるサニア王妃はその伝承の物語から国民より絶大な人気があり、竜人祭まで行われているのだ。竜人祭の当日は、街中が白い衣装をまとった人々であふれかえり、まるでサニア王妃への敬意と感謝を込めた生きた絵画のようになった。

「王に謹んで進言いたします」

「どうした?」

「このままではサニア饅頭の売り上げが下がってしまいます。」

「!?」

 ドラゴンの石像に参拝するものがいなくなると、商店街では販売しているサニアの石像のレプリカや、お守り、サニア饅頭まで、物品販売に多大な影響を及ぼすということだった。

 さらに、観光案内、果ては飯処や宿泊業、ひいては夜の街まで大きな影響があるという。

「それはつまり……石像によって商業が潤って税収の柱となっているので、どうにか復元できないか?ということなのだな。」

 最終的には、サポニスが大まかな石像を土魔法で形作り、彫像師らが、細部を彫刻する形で賛同を得た。


 私とアイリスは練兵場で新しい槍の扱いを習っていた。教えるのは騎士団長。先祖は竜騎士だったという。出立の日までアルスとともに訓練を受けることになった。


 それからようやくサポニスは解放され、私とともに竜の森へ飛行して帰還した。

 森に帰るとチコおばちゃんが二人を待っていた。

「そろそろ戻られる頃だと思ってね、作って待っていたんだ。さ、おあがり。」

 そう言って野菜のスープを出してくれた。空を飛んで冷えた体にはちょうど良かった。

「これは温まる一杯です。ありがたい。」サポニスもただ黙って食べていた。


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