プロローグ
この国の歴史には、ひっそりと語り継がれる「皇女の日記」がある。
そこに記されているのは、伝説ではなく、確かにあった記録として……。
竜の住む森と、その竜が守る『秩序の天秤』にまつわる物語。
世界がまだ、調和と混沌のあいだで揺れていた頃——
森の奥深く、誰にも知られずにひとつの魔道具が眠っていた。
『秩序の天秤』。
竜に守られしその存在は、世界の均衡を静かに見守っていた。
だが、均衡とは壊れるためにある。
闇より目覚めし者は、命を超えた力で天秤を傾けようとした。
そして世界を手に入れようと、闇の力による支配への欲望だった。
それに立ち向かうものがいた。
しかしそれは選ばれし伝説の勇者ではなかった。
運命を選ぶ力、そして世界の均衡を守る鍵。
『秩序の天秤』が紡ぐ、竜と騎士の数奇な物語——
誰もが知る英雄譚ではなく、この日記の著者は……。
でも、その頃の私は、
「いつかカッコいい皇子様が迎えに来てくれるはず」なんて夢見てた。
どこにでもいるおっとり姫様だったの。
剣の素振りは苦手だし、朝は起きられないし、戦争とかもっと無理。
だけど——あの子が来た。小さな竜の女の子。
彼女が、私の世界をひっくり返したんだ。
これは“選ばれた者”の物語なんかじゃない。
私と、のんびり屋のドラゴンが、
手を取りあって選んだ、「優しい戦い」の記録。