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ご覧いただきありがとうございます。

最後までお楽しみいただければ幸いです。

ついに乙女の祈りの真実に近づいた。



像が風化し消滅するまで、贄となった者の魂が其処にあり続けるという事。言い換えれば、像に魂がある限り、彼女を救われないし囚われたまま、輪廻転生の流れからも外れてしまう。



ミラベルを復活させんと色々な薬や魔術を、彼女に使う前に自分で試した結果、何の因果か不死の身体になっていた。ミラベルと共にあらねば意味は無いというのに。



周りは既に代替わりをした。顔見知りが居なくなった私は一線を退いて、やりたい事だけに専念した。



…逆手に取ろう、永遠の命がある事を。



ミラベルを解き放ち、輪廻に魂を戻す。そうすればミラベルは生まれ変わる。彼女を見つけ、今度こそ選択を間違わない。瞳に宿る嫉心の色に歓びを感じ、またその感情を見たいと愚行を繰り返すような真似は二度としない。



石の中にミラベルが居るのを感じながら、その唇に口付ける。君は驚きながらも羞恥で頬を染めてくれただろうか。



直に、その時が来るはずだ。






不意に淡く温かな光が石像を包む。穏やかに燻る煙のように辺りに漂いながら徐々に陰っていく。



次の瞬間、光の珠が像の頭上から浮かび上がると、空へと向かった。周りの明るさに馴染んでいくように、ゆっくりと溶けて消えていった。



漸く、そう思った瞬間、パキリという小さな音と共に乙女の像が崩れていく。



そこに彼女はもう居ないのだと頭では理解していたが、思わずその身を腕に抱えた。けれどあれだけ頑丈だった石の像は簡単に細かな砂となって私の腕からすり抜けて行くいく。風など無い屋内にも拘らず、砂塵は渦を巻き舞い上がる。気付いた時には、辺りに何一つ残さず消失していた。



こうして彼女が石像となってから、百五十五年後に、新しい乙女像の選別が開始された。







ついにミラベルと同じ色をした魂を見つけた。



平民になっていたが、名前に見た目、声までも以前のミラベルのままだった。




左の薬指には、あの時に嵌めた指輪の残滓が見て取れた。有無言わさず私の持つ宮に連れて来ると、大切に大切に囲った。







天涯孤独だったミラベルは、ある日突然、見た事もない煌びやかな世界へと連れて来られた。甲斐甲斐しく世話をしてくれる人も、キラキラと輝く金色の髪に宝石の様な翠色の瞳で微笑み掛けてくれる。こんなに美しい人は初めて会ったはずなのに、何故か心の奥がザワついた。



手ずから食事を食べさせてくれ、湯浴みも着替えも何もかも全てしてくれた。齢十五歳のミラベルは恥ずかしさで居た堪れなくなった。初めのうちは自分で出来るからと抵抗したが、此の世の終わりの様な悲壮感を漂わせた彼を見て、今回だけはと言い聞かせ受け入れた。



暫くすると当たり前となっていた。



ミラベルの世界は、自分と彼だけとなったが、不思議と嫌な気はしなかった。





「半日ほど此処を離れるが、一人で待っていて欲しい」



何度も何度も振り返りながら、誰もこの部屋に入れてはいけないと念を押しながら彼は外から鍵を掛け出て行った。




半刻程経った時、キィと小さな音を立てて扉が開く。



思ったより大分早かったと顔を上げると、見知らぬ少女が近づいて来た。茶の準備を載せた配膳台を押した彼女は、にこやかな笑顔でミラベルは無意識に警戒を解いた。



「一人で心細かったでしょう。ヴィクトル様に貴女を頼まれたの、私はリーナ、友達になりましょう?」



貴女の名前はと尋ねながら、香り高いお茶を勧められ、勧められるがまま口にした。



芳醇な香りに反して、酷く苦くて、けれど何故か懐かしい味に口の中に含んだまま思わず顔を顰めつつ、吐き出そうかと考えあぐねていると、何時の間にか背後にいたリーナに頭と口を抑えつけられ無理やり嚥下させられた。



「貴女がいるから、選ばれないとは思いたくはないけれど。…邪魔なのよ平民のくせに」



真っすぐな憎しみと悪意、そして事を成しえた者特有の恍惚とした表情。どこか遠い記憶の中で見た事がある。




そんな事を漠然と考えていると、地中に引きずり込まれるような重みを感じた。意識ははっきりしているのに動かせない身体。




…あぁ、忌々しい。




知っている感覚。これは二度目なのだと、ギリギリの状況にならないと思い出さないなんて。



本当に呪われた乙女像だこと。




ミラベルが独り言ちたと同時に、ふわりとした浮遊感がして思考が停止する。一度目とは僅かに異なる感覚に、そのまま身を委ねた。







神殿長の娘に横恋慕されているとは、思わなかった。私が靡かないのはミラベルの所為だからと、暴挙に出たと知った。


神官長も末の娘には甘く、碌に考えもせず部屋の鍵をくすねて渡した。



私が用事を済ませ、ミラベルを抱きしめたい衝動に駆られながら足早に部屋へ戻れば、絶望が待っていた。



扉を開けた途端に猫撫で声の女がすり寄ってきた。嫌悪感を剥き出しにしながら、すぐさま躱して打ち倒した。悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちたそれを蹴散らし、不快なままミラベルを探せば、部屋の中央に佇む彼女を見つけた。



再び石像になった彼女を見て、凡その見当がついた。目の前で伸びている曲者がした事を理解し、ギリと歯を食いしばった。



ミラベルの時は、また止まってしまった。



その後の事は曖昧だ。神官長の一族を抹殺したようで、真っ赤に染まる身のまま、石像を腕に抱きかかえていた。



仕方がないが待つしかない。また解放の時が来るのを。ここまで来たら百五十年など取るに足らない。




…何度でも蘇らせる。その方法は覚えているし、寸分違わぬ手順を踏む事ができるのだから。





けれど、違和感に眉を顰める。嫌な予感に身体中から汗が噴き出す。そんなはずはないと、何度も何度も見直す。焦る心とは裏腹に、それは確信へと変わった。



…やはり感じないのだ。ミラベルの魂を。



否。最初から分かっていたのに、認めたくなかっただけだ。



一度目のあの時と同じ。魂が天に帰り、石像が崩れ落ちる直前と。ただの石像が鎮座するだけ。ここに、彼女はもう居ない。あるのは抜け殻となった、固く冷たい石の塊だけ。



壊れない。



壊れない壊れない。



何年も何十年も何百年も。



一向に崩れない。風化すらしない。




それどころか像は輝きを増し、国を照らす。乙女の像が在り続ける為、新たな選出もなく悪習は何時しか御伽噺のような伝承へと成り下がる事となる。







神官長を奪われた神殿からは反逆者として狙われるかと思いきや、何故かその代わりとして祀り上げられた。



気付けば国王の座を競うようにお膳立てをされており、簒奪者という汚名を着せられた。不死身という事も認識されていないようで、王国だけでなく司教側からも抹殺の対象となっていた。



正直どうでも良かったが、ミラベルの居ない世界に未練はない。ならばと命をすり潰し持ちうる力を全て使い、最高の魔力を練り上げ、この世界に呪詛を掛けた。




その日を境にヴィクトルの宮から人が消え、建物さえ跡形も無く消え去った。







気付けば真っ黒な空間に佇んでいた。



目が慣れてくれば、暗いながらもぼんやりと見えてきた。



少し離れた所に、ミラベルの様子を見つめる何かが居るのを。




「貴方ね?乙女の祈りを願う者は」



形を持たぬものは、驚いたようにぴくりと動きを止めた。




「もう止めましょう?大丈夫、私で良ければずっと一緒に居るわ」



手を差し伸べれば、恐る恐る掌を重ねてくれた。







その者も嘗て騙され贄とされた。人の世で国や権力、金が絡むと起こる、さして珍しい事でもなかった。自分の欲望に純粋なだけだったはずの魂が、人々の裏切りに力を使い切り邪神へと落ちていく。



見かねた創造神が、救いの手を差し伸べたのは必然だった。



乙女像に選出された者は、より良い時代へと輪廻転生する事が約束されている。石の中で何を思い、望むかで適した時代へと送り込まれる。だから決して乙女像の機構は悪というだけでは無く、救済の意味も込められている。



乙女の祈りにより、救済された魂の数が溜まった時、邪神擬きも浄化され解放されるようにと神は理を組んでいた。そうして、いずれ神の一画を成すように、だから今は堕ちてくれるな、そう邪神擬きを言い含めた。



邪神の存在は神からしても厄介な事、この上ない。面倒は事前に回避する、数多の人々を巻き込み、世の理に反し時さえも巻き戻してでも。



何度も贄を転生させ、魂を救った邪神擬き。けれど根本の理がもう一つあるのを知る。



徳を積むだけではなく、同類を見つけなければならない事を。邪神の下に集えるのは創造神と二度目の者のみ。



二度目の者とはすなわち、乙女の祈りを輪廻転生して二回経験する事。しかし輪廻転生した者は、無意識に乙女像から遠ざかろうとする。選出されていたのは皆が平民だった為、転生先は貴族を望む。すると候補に挙がるすら無く、二度目の可能性は皆無だった。



邪神擬きは救わねばならぬ、けれどそやつも過ちを犯しているのだから罪を償うべく奉仕をさせなくては。創造神が内心そう思っていたのは誰も知らない。




邪神擬きも半ば諦めていたある時。




目の前に久しぶりに感じる自分以外の生命体が、この空間に居るのに気づいた。



どうせあの狸おやじに違いない。



創造神に悪態をついた。それなら態々こちらから声を掛けるでもなく、寧ろ心を無にして厄介事が過ぎ去るのを待つとしようか。





「貴方ね?乙女の祈りを願う者は」




淀んだこの地で久方振りに響いた音は、凛とした可憐な声。




「もう止めましょう?大丈夫、私で良ければずっと一緒に居るわ」



そう言って差し伸べられた手を見やる。待ち望んでいた瞬間に恐る恐る自分の手を重ねれば、閉鎖された空間を穏やかな風が一掃していった。







「何だ、漸くか」



枷が外れたのを感じて独り言ちた。



どれどれと二人の様子に目を向けた。あれ程、相性が良いにも関わらず拗れに拗れてしまっていた。偶々見つけてしまっただけで、手を貸すつもりなどなかったのだが。


どうにも気になってしまい、ちょくちょく覗き見ていた。



見る度に二人の間には亀裂が広がっていた。



これはいけない。予備軍から邪神へ一直線間違いなしだ。



古くからの伝承や仕来りの殆どは、魂の救済が可能な機構になっている。人々に本来の意味が伝わる事はないので、表面的な内容から悪習だと言われるものも多い。


人身御供だとしても、献身的な者は必ず救われているのだ。



よし、あれを使おう。乙女の祈りを。




ん?卵が先か、鶏が先か?どちらでも良いではないか。



時空を少し歪めただけだ。後は彼等自身で番の神の誕生させたのだろうよ。






おわり

最後までご覧いただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
うーん、自己満足で傷つけて死なせたうえでまだ拘束したがるとか気持ち悪い。
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