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第4節「男女の同衾ってこんなだったっけ……」

【前節のあらすじ】

 男性恐怖症が出てしまうローゼアとフランは、フランの調査に協力するついでに人通りの少ないお店へデートへ出かけた。

 そこでローゼアは、フランに赤い布を一枚買ってもらい、次はどこへ行こうか話し合おうとした瞬間、恐怖の対象である男性とぶつかってしまう。

 パニックを起こしてしまったローゼアを心配したフランは、少し休ませた後、彼女を抱き抱えられて宿に戻ることに。

 お姫様抱っこで抱えられる役得と体調不良を同時に得てしまったローゼアは、赤い布を抱きしめて少しだけバツが悪そうにしながら、二人でモモの待つ宿に戻るのだった。


      *     *     *      


side:フラン


 一階の酒場ですら、もう寝静まったかのような静寂が流れるほどの夜更け。

 ローゼアさんの体調不良で宿に戻った僕たちは、思い思いにその後を過ごしていた。


 今日は昼間のうちにローゼアさんのおかげ……はちょっと酷いかな? ともかく、昼間のお客さんから、人外種の数とか、色々と目立つことなく調査できたのは不幸中の幸いで、今は魔力ランプ――魔力で動く、亜人専用のランプ――が部屋の中を照らす中、二人に部屋を追い出された僕は、自分の部屋で報告書をまとめていた。


 宿の部屋に備え付けられていたテーブルを使わせてもらい、まとめていた報告書の羊皮紙に目を通していく。


「んー、と。『民間の衣服事情は質が低く見られる』っと……はあ。とりあえず、今日の分はこれくらいかな」


 調べ終えたことを一通り書き終え、背筋を伸ばした後、乾いたのを確認して軽く丸める。

 普通の手紙なら報告用の鳥とか、冒険者ギルドへの委託とかあるけれど、機密文書だから、僕が国に戻るまでこのまま封印安定だ。


「……うん。とりあえず今日はこれで終わりかな」


 ふうと息を吐いて、肩の力を抜く。

 明日の予定をたてたいけれど、モモさんの都合が分からないと立てようがないので、とりあえず明日回る予定の調査を組み立てていく。


「えっと、次の町へ行くための準備とー、料理の勉強中だったっけ。それじゃあ、食品類と保存食の買い物、かな? 旅のための荷物も増やさないとだから二人用の鞄も――」


 コンコン。

 思考の途中、突然響いたドアノックに耳を向ける。

 集中していて気付かなかったけれど、どうやら誰かがすぐそこまで来ていたらしい。

 警戒させないよう、いつも通りを装って警戒しながら向かう。


「んー? こんな時間にノックなんて、誰だろ。はーい、どこの誰さん?」

『……今、平気かしら』


 驚いたことに、くぐもったその声は間違いなくローゼアさんの声だった。

 チラリとテーブルに振り返って荷物の隠し場所とインクの片づけ先を考える。


「あ、ちょっと待って」


 テーブルに広げても問題のないインクだけを残して、枕の下に突っ込んでから急いでドアに向かって開ける。

 廊下には、後ろ手に手を組んだローゼアさんが薄い寝間着姿で立っていた。

 透き通る生地じゃないおかげで、男の子を刺激しない親切仕様で、少しだけ寒そう。


 後ろ手に手を組んだローゼアさんが少しだけ前にかがんで小首をかしげると、綺麗な左角が鼻先に近づき、視界の端で彼女の腰羽が揺れた。


「仕事は終わった?」


 目が僕にはない腰羽に吸い寄せられて、細い尻尾が挑発的に揺れるのが目に入る。

 ちゃんと血の通った動きで感心していると、ローゼアさんの琥珀色の瞳が訝し気に細められる。


「フラン?」

「え? あ、うん。待たせちゃってごめんね? タイミングバッチリって感じ」


 動く誘惑から意識を切り離すためにドア枠に寄りかかって微笑む。

 見てるのがバレてたのか、ローゼアさんはクスクスと笑われて、尻尾が体に隠された。


「あら、待たせるから、それが男の仕事かと思った」

「あはは、男の人が聞いたら頭痛ものだね」


 そういえば、ローゼアさんとモモさんの二人で来たにしてはやけに静かだ。

 なんとなくそう思って真っ暗な廊下を覗いてみるけど、立っていたのはローゼアさん一人だった。


「あれ、もしかして一人?」

「ふふ、モモが寝てる間にこっそりと、ね?」

「わあ、ずいぶんな悪戯っ子だね」

「本当は一緒が良かったけれど、もう寝ちゃってたから」

「モモさんだから、ローゼアさんが居ない! って、起きてくるかもよ」

「その時はその時ね。そもそも今日は私の番だもの。少しくらいならモモも許容してくれるわ。優しい妹だもの」

「あはは、昼間に言った通りわがままになってくれて嬉しいよ」

「……モモに怒られたもの」

「あはは。それで、どうかした? もちろん、わかってて言ってる」

「意地が悪いわね、フラン。そう、ね……。今日も一人だと、あなたが寂しいかと思って」


 悪戯っぽく琥珀色の瞳が細められ、これまた悪戯っぽく表情が変わっていく。

 それが彼女なりの照れ隠しと強がりなんだなと思うと可愛らしく思えて、ついつい、騎士仲間でも評判が悪い嗜虐心が湧き上がる。


 緩みそうな口元を手で抑え、微笑みかけた。


「それじゃあ、僕は寂しいって言った方がいい?」

「……そう来るのね」

「あはは、強がりさんの本音を聞きたいからね。ちょっと意地悪かもだけど、ローゼアさんは本音を隠しがちだから。ダメ?」

「あら、私は平気よ?」

「そっか。なら、僕が本当に寂しくなるだけ、かな」


 ちょっと意地悪だけど、そう返してみる。

 昼間に言った通り、強がりだけされて、黙られちゃったら僕は助けてあげられない。


 ……まあ、僕もローゼアさんも、今こうしてここに立っている意味がある程度察しがついてるから、完全に意地悪なだけなんだけど。

 その証拠にローゼアさんはムッとしたまま、唇を尖らせた。


「……ねえ、フラン。仕返しにしては強いんじゃない?」

「あはは。でも、寂しいのは本当」


 実際、僕としては助けてあげたい。

 その想いを込めて返すと、ローゼアさんは本当に恥ずかしそうに俯いて、プルプルと震え始めてしまった。


「ほ、本当、は……」

「本当は?」

「……っ! あ、っ……」


 言おうとしてるのに、口が動かない。

 そんな感じだった。


 これは、ちょっと虐めすぎたかな。

 でも、本音を言えないままだと今後も同じことになりそうだったから、もうちょっとだけ心を狼にする。


「うん、教えて。ローゼアさんはどうしたいのかって」

「っ! きょ、う。買い物に行ったとき、怖くて……。思い出しちゃって、その……」

「あー、うん。それに関してはぶつかる前に助けてあげられなかったから、反省してる」

「いい心が――ちが、そうじゃないの……そうじゃ、無くて……」


 一瞬、挑発されかけて、すぐに首を振って否定していた。

 ちゃんと素直にしたくても、ローゼアさんは元々モモさんや周りの事で警戒をし続けなければいけない環境に居た。

 だから、心の枷を外すのが難しいんだろうなって。

 ちゃんと素直になろうとするいじらしい姿が可愛くって、ついつい噴き出してしまう。

 ローゼアさんがハッと顔を上げて、綺麗な顔が怒りに染まった。


「っっ! ちょっと、フラン!?」

「ご、ごめ、あはっ。ごめんごめん。こうしないと、ローゼアさんは強情だから」

「っっ! ふ、ふふっ、いい根性してるわ、フラン。モモと相談してちゃんと"お返し"をあげるから、待ってなさい」

「あ、あれ、ローゼアさん?」

「ふふ、ふふふっ、どんなことをしてあげようかしら。寝込みを襲うのも良いし、子供を作ってしまうのも……私は難しくてもモモならきっと……」


 さっきまで意地らしかったのに、視線が横に逸れ、怪しい笑いがローゼアさんから零れる。

 僕はともかく、モモさんは完全に巻き込まれる形になってしまった。


「ごめん、モモさん。巻き込んじゃったかも」

「……ねえ、フラン。モモに謝るのもいいけれど」

「あ、戻ってきた。どうしたの?」

「部屋、入ってもいいかしら」


 そうだった、まだ建ちっぱなしだった。

 ついついからかうのが楽しくて立ちっぱなしだったけど、こんな寒い場所に女の子を一人立たせているのは騎士……の前に、一人の男として、まあまあ落第点だ。

 ドア枠から体を開けて場所を開けると、ローゼアさんがするりと俺の横を通り抜けて部屋に入っていった。

 

 少し悩んで、閂をかけずにドアを閉めて壁際から彼女の事を見守る。

 ゆるゆると奥まで歩き、ベッドに腰かけて足をぶらぶらとさせ始めていた。


 警戒心なく、心を許している姿は、モモさんとも重なって、やっぱり二人は双子なんだなって思わされた。


「……なに?」

「あ、見てるのバレた?」

「ええ、フランの熱い視線をしっかりと……。なに?」

「ううん。二人はやっぱり双子なんだなって思って」


 僕がそう言うと、ローゼアさんがクスクスと笑う。

 それから、悪戯っぽい垂れ目を指さした。


「ええ。ピンクブロンドの髪も、琥珀色の目も同じでしょ?」

「うん。あ、でも、双子ってあんまり姉妹って感じがしないって聞いたことあるんだけど、二人は姉と妹って分けてるよね?」

「そうね。珍しいと思うわ」

「あれって何か理由があるの?」

「双子だもの」

「双子だから、姉妹って分けてる……?」


 興味深くなって、テーブルのイスをローゼアさんの前まで引っ張ってきて、背もたれに顎を乗せて座る。


「どうして、双子だからって分けてるの?」

「単純な話。私はあの子の姉でいないといけないからってだけ」

「いけないって……」


 多少、強迫観念を感じる言い方だった。

 そこまでしてローゼアさんが姉だって言うのは、どういう事なんだろうって、興味が湧いた。



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