表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/28

第2節「告白の答え」―2


 モモさんの料理に舌鼓を打っていると、ローゼアさんがテーブルに肘をついて前で手を組み、あざとく小首をかしげていた。


「フランは体を分け合うのを確認してほしかった? なら……。ねえ、愛しい愛しいフラン様。私たちのためにそのお体を割譲してくださいな」

「あはは、下賜したわけじゃないから難しいかも」

「あら、残念」

「それに、いくら姉妹でもからかうには限度があると思うよ、ローゼアさん」

「否定はしないわ。でも……」

「でも?」

「フランが早く告白の返事をくれたらこういう事も無かったかも」

「ん゛、ヤブヘビ。僕へのカウンターが強いよ」

「ふふっ、冗談よ。あなたが来る前と変わらないわ」

「好きな人の体を分けるって言うのが?」

「ええ。大好きで貴重なお魚。荒野で偶然手に入ったお肉。全部二人で均等に」

「あれ、僕食料と一緒?」

「大事なものは二人で分けないと、でしょ? フランも混ざらない? 私とモモ、どっちがいいか」

「あはは、答えるのは遠慮しようかな。姉妹二人の時間を邪魔したくはないから」

「わ、モモもお姉さまも邪魔だなんて思ってません!」


 あ、モモさんが思ったよりもずっと早くショックから回復してきた。


「それよりも! フラン様!」

「お、おお。元気だね、モモさん」

「今日のお食事はどうだったでしょうか! その……薄かったりとか……」


 そう聞かれたので、もう一回干し肉と、今度はスープも含めて味わってみる。

 干し肉は焦げてはいるけど、干し肉の香辛料が薄まっているし、スープも濃い味付けじゃないのに口の中に野菜の味が広がっていく。

 素材の味が多いけど、僕にとっては好ましい味付けだと思う。

 焦げてるけど。


 横からモモさんの心配そうに覗き込まれ、ピンクブロンドの髪がゆらりと落ちた。


「だ、大丈夫でしょうか。その、香辛料とかもあんまり手に入らなかったので、味が薄かったりとかは……」

「ん、味は僕の好みに合わせるなら大正解かな。あとは……焦がすのは出来るだけ避けた方がいいかも」


 僕がそう答えると、モモさんはほっとしたように息を吐いて、ローゼアさんの方から「ふふっ」って声が漏れる。


「フランの口に合ってよかったわね、モモ」

「う、うん。焦がしちゃったけど、味付けはお姉さまの言う通りにしてよかった!」

「あれ、これ二人で味付けしてくれたの?」

「はい、それは――」

「いいえ、モモだけよ」

「お姉さま……」


 モモさんが何か言おうとしたけれど、ローゼアさんに止められたみたいだった。

 ん、ってことは本当に二人で考えてくれたのかもしれない。


「気にしないで、モモ。私はあわよくば失敗してドジっ子アピールをするモモが見たかったから茶々を入れただけだもの」

「ちょ、ちょっとお姉さま! ち、違うんです、フラン様! 今日こそはって、モモが悩んでたら、お姉さまがウィルカニスは味が濃いのっは苦手って助言をくれたんです!」

「おー、じゃあやっぱり二人で考えてくれたんだ」


 ローゼアさんの方から口を出したのは、ほんの少しだけ意外だ。

 モモさんが率先して身の回りの世話や、洗濯をかって出てくれるから、こういう担当はモモさんなのかと思ってた。


 もう一口食べると、ローゼアさんが悪戯っぽい目を細めた。


「ねえ、フラン」

「ん?」

「意外かしら、私がそういうのにアドバイスをする、なんて」

「えっ、げほっ、えほっ……」

「ふ、フラン様! 大丈夫ですか!?」


 突然自分を卑下するような自虐をぶっ困れて思わず変なところに入って咳が出てしまう。

 立ち上がろうとしたモモさんに、手を上げて大丈夫と伝える。


「ふふっ、そこまで動揺するなんて。図星ね、やっぱりフランにも意外だった?」

「ちょ、ローゼアさん。それ、自分で言ってて悲しくならない?」

「すごく悲しい。でも、私は悲しい思いをさせる方が悪いと思うの」

「おー、僕の罪悪感を利用する手だね? じゃあ、機会をもらえるなら挽回させてもらえませんか?」

「ふふっ、明け透けだけど、許してあげるわ」


 とんとん拍子に、ローゼアさんの御機嫌取りをすることに決まってしまった。

 ちょっと強引なお誘いだから、苦手な人はいるだろうけど個人的には憎めないし、可愛げはあると思う。

 いやまあ、ちょっと間違ったら機嫌を損ねるコミュニケーションだと思うけど、ローゼアさんは相手を選んでやってるのは百も承知だし……。


 そもそも、疑り深いのは、この世界、帝国で生きるのなら必須だ。

 モモさんがこれだけ疑わないのなら、ローゼアさんくらい疑いを持って遠ざけるコミュニケーションは正解だろうって思う。

 まあ、助けるのが遅れた僕の責任もあるし、ね。


「でも、本当に意外だったよ。まだまだ二人の事を知らないのもあるんだけど、他にもあったり――」

「フラン様! お姉さまはすごいんですよ!」

「わあ、も、モモさん?」


 なぜか、モモさんの方が誇らしげに胸をそらしてた。

 聞いてもいいの? って意味も込めてローゼアさんを見るけど、彼女は我関せずって感じでご飯を食べ始めたから、素直にモモさんから聞くことにした。


「そうなの? モモさん」

「ふっふっふっ、まず掃除に料理! 私よりもずっと知識があって、失敗しそうな時に教えてくれるんです!」

「へえ、ってことは普段はローゼアさんが作ってくれるの?」

「はい! すっっっっごく、美味しいのでフラン様もいつか!」

「あはは、機会があったらお願いするね」

「ぜひそうしてください! それに、私が失敗したら、どこがどう間違ってるのかも教えてくれるんです! それにお姉さまはとっても器用で、髪の毛を結ってくれるのもお姉さまなんですよ! それがすごく丁寧ですごいなっていっつも思うんです。勿論現状で満足をせずに――」


 思った以上のほめ殺しを展開するモモさんに圧倒されながら、朝食を黙々と進めるローゼアさんに視線を送る。

 チラリと目が合って、スンと視線を逸らされてしまった。


「……ローゼアさん。恥ずかしくない?」


 このままだと延々と話し続けそうだったので、黙々と食べ続けるローゼアさんに話題を振ることにした。


「妹の誉め言葉は慣れてるもの」

「満更でもなさそうだけど」

「あら、聞こえなかったわ。なにかしら、フラン」

「ヤブ蛇の気配! ううん、なにも。二人は仲がいいんだなって」

「双子だもの。それにほら、モモは可愛いでしょ?」

「あはっ、そうだね」


 モモさんが一所懸命にローゼアさんの事を語るのは嬉しそうで輝いてるし、ローゼアさんも放っておきながら満更でもなさそうだった。

 というか、何度も見た光景だし、たぶん二人はこういう二人なんだろう。

 双子にしてはだいぶ距離が遠い気がするけど。

 でも、どこか楽しそうな二人を見ながら、残りのパンを片付けていくことにした


「……ねえ、フラン」

「ん? どうしたの、ローゼアさん」


 そろそろ宿の人の視線が怖いなって、遅れてる僕がモモさんの料理を食べ進めると、ローゼアさんに声をかけられた。


 ちなみに、隣ではモモさんがまだローゼアさんのいいところを語ってる。

 二人で気にせずに会話を続けていると、ローゼアさんは両肘をテーブルについて組んだ手に顎を乗せた。


「今日は私の日だから、よろしくね」

「ああ、だから、さっき強引に……」

「……嫌だった?」

「ううん。気にしないで。わかってるから」

「そう」


 強引な誘い方も理由は分かってる。

 そのつもりで返事をすると、ローゼアさんは安心したように手を下ろしていた。


 "私の日"

 別に、いかがわしい話じゃなくて、僕の任務……調査についてくる順番の話だ。


 本当は、調査に同行させるのはどうかなって思ったんだけど、一人より警戒されづらいし、双子もそれぞれ僕にアピールしたいし、僕も告白の返事を決めやすいだろうからって。

 二人がそう言うから、二人の意見を尊重して、分担してもらうことになった。


「……ねえ、モモ。フランが呼んでるわ?」


 ローゼアさんと二人で話す間も、語り続けてたモモさんに声をかけていた。


「あとあと、それにですね! お姉さまはフラン様の事を第一に考えて……え? あ、はい! 聞いてました! 今日はお留守番をしているので、お姉さまをよろしくお願いしますね、フラン様!」

「う、うん、任せて。さて……」


 あの状態でも聞いてたんだ。

 驚いていると、モモさんの目がキラン、と輝き興奮した様子で両手を握りしめて、気合を入れたポーズをされてしまった。


 スープの残りをスプーンですくってると、ローゼアさんが椅子から立ち上がってしまう。※


「あれ、もう行くの?」

「ええ、私は部屋で準備をしてくるから」

「ん、そっか。じゃあ、待ってるよ」

「あ、お姉さま! 私も手伝うね!」

「ふふっ、お願いするわ、モモ。……フラン」

「うん?」

「一つだけ……。私たちは角魔族だけど、約束して欲しいの」


 ローゼアさんの変な雰囲気を匂いで感じ取って、モモさんを見る。

 なんだか、約束って言いだしたローゼアさんにモモさんが心配そうな視線を送っていた。

 不穏……というか、真剣な気配は感じるけれど、騎士としてきちんと受け持とうとしっかりとローゼアさんを見返す。※


「角魔族だけど、っていうのは分からないけど……。どういう約束?」

「もし、あなたが元の町へ帰らなければいけなくなったら、ちゃんと答えを聞かせて頂戴」

「え? それはもちろんだけど……」


 思ってたよりも当たり前のことを言われてしまって、キョトンとしてしまう。

 騎士としても当然だし、僕としてもそれくらいはちゃんとするつもりだった。


「そう。ねえ、フラン。"約束"よ」

「……ん、分かってる。僕として出来る限り、答えを決めておくよ」


 モモさんはずっと心配そうな目をしてるけど、僕の答えは変わらない。

 それに、ずるい返しだけど、この言い方なら、告白を受けるにしても、二人を連れていくだけにしても、どっちともとれるから大丈夫だ。

 本当は答えを出してあげたいけど、妹の件もあるから、迂闊なことは言えないから……。


「ふふっ、ちゃんと悩んでね、フラン。適当に決めたら、後が怖くしてあげる」

「はい! たくさん悩んでくださいね!」

「あはは、うん。後が怖いからちゃんと考えておくよ」


 手を振って部屋に戻っていくローゼアさんと、頭を下げて戻るモモさんを見送って、ふぅと肩の力を抜く。


(さて、軽く答えたのはいいんだけど……)


 楽しそうに二階に上がっていく二人をちらりと見て……可愛いし、見た目麗しい二人に思わず、眉を寄せてしまう。


 僕は彼女たちのことをどう思ってるんだろう。


 嫌ってはいない。好ましいとも思えている。

 じゃあ、異性としては?


(まあ、任務の話なんて、本当は話しちゃいけないことを話して、国に連れていく免罪符を作ってる時点でだいぶアレだけどねえ)


 難しい話を考えながら、どうしようかなと、考え続けるしかなかった。








 そういえば、後から聞いた話だったんだけど……。

 魔族の間で、"約束は命よりも重い"って風習と根源があるらしくて、そうやすやすと約束をするものじゃないよってイアソナっていう同僚の亜人騎士に教えてもらった。


 軽い気持ちで受けるつもりはなかったんだけど、思ってたよりも重く大切な約束をしちゃったなあ、ってすごい後悔することになったのは……言うまでもない。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ