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第5節「お姉さまは怖がりなんです」―2



「はいよ。こっちが長持ちする乾燥果物。言われた通り、袋いっぱいだ」

「はい。ありがとうございま……わ!」

「おっと、大丈夫、モモさん」


 ワニ系亜人種のクラカヴェークのおじさん……エルピスで有名らしい果物屋さんの店主さんに袋を手渡してもらおうとして、思ったよりも重くてバランスを崩してしまう。

 よろけてしまっていると、フラン様に支えてもらっちゃいました。


「えへへ、ありがとうございます」


 フラン様にお礼を言って、袋の中を見ると、亜人の土地と呼ばれる台地から運ばれてきた乾燥果物とか、見たことない色の果物もたくさん入っていて、話あって声が自然と零れる。


「いっぱいありますね、フラン様!」

「あはは、そうだね。あ、落とさないようにね」

「はい!」


 フラン様の言う通り気を付けながら、ぶつからないように周りを見る。


 

 今、モモたちが居るのは、人種の坩堝と言われるエルピスの中でも、市場というお店がたくさんある広場前の通りでした。

 周りをパッと見ただけでも、薄着で歩いているリャーディにラプール。お店の店主にヘンドーリャ。

 エルフやドワーフと言った幻想種の人までたくさんの人が歩いていました。


 お店になるような建物は、一見分かりにくいんですけど、白い砂みたいな家には、屋根の代わりに布が張られてたり、石と木を積んで作られた家みたいなお店。

 それぞれが日持ちのする食材を売るお店や、目の前にいるクラカヴェークのおじさんみたいに、見たことのない果物を売ってるお店らしいです。


 人種と文化が並ぶ、エルピスの市場通り。フラン様と旅の荷物を買いに来ただけなのに、色々なものがあって、目移りしてしまいそうでした。

 モモがぼうっと通りを見ていると、果物屋のおじさんが「しっかし」と珍しそうにモモたちを見られてしまいました。


「いくら日持ちがするって言っても、結構な量を買い込むな、嬢ちゃんたちは。大家族かい?」

「はい! 三人分必要なんです!」

「三人かい。そりゃまあまあな人数だ。ほんで、角魔族も居るってなると、お嬢ちゃんたちは何処から来たんだい?」

「え? えっと……」


 それはモモが答えていいか分からない質問でした。

 口ごもってしまうと、事情を察してくれたのか、おじさんは「おおっと!」と大袈裟に両手を上げて、無害をアピールしました。


「悪いな。エルピスも最近物騒でよ。見たことねえ嬢ちゃんたちが買いだしをしてると、つい聞きたくなっちまうんだ。気を悪くしたなら悪いな」

「いえ! 実は姉と、ご主人さまと一緒に旅をしている途中なんです」


 モモがフラン様を探して、指をさします。

 すると、フラン様はまるで見ていたみたいに、別のお店の人と話してたのに、すぐに振り返って手を振ってくれました。


「姉妹で買い物。そして、三人で旅かあ、いいねえ」

「はい! 知らなかったらモモもそう見えると思います!」

「うん?」


 おじさんと致命的にすれ違ってる気がしますけど、訂正はしませんでした。

 おじさんもまあいいかと頷いて言葉を続けます。


「俺も若い頃は旅を夢見たもんでさ。国から出たくて出たくてしょうがなかった。それがこんなところにまで来ちまって果物屋をしてる。不思議な話だよなあ」

「ふふ、そういう運命の流れだったんだと思います! モモも、ふら――ご主人さまに会えたのは運命だって思いますから!」

「ちげえねえ。めぐり逢いの月様には感謝しねえとな。……お嬢ちゃんはこれからまた旅かい?」

「たぶんまだエルピスには居ると思います! ご主人様の予定が分からないので」

「そうかい。それなら、またこの町に立ち寄ったらぜひうちの店に来な。お嬢ちゃんたちは可愛いから、またこんぐらいサービスするからよ」


 おじさんはそう言いながら袋にもう一つオマケを乗せてくれました。


「わあ! ありがとうございます!」


 やりました、お姉さまと協力して料理の練習をする食材が増えました!

 オマケをしてくれたクラカヴェークのおじさまに別れを告げ、買い物をしていたフラン様に駆け寄ります。


「フラン様! こっちの買い物は終わりました!」

「あ、モモさん。ありがとう。荷物、貰うね」


 果物をもって駆け寄ると、フラン様にお礼を言われ、あっという間に荷物を取られてしまいました。

 さりげない気遣いは嬉しいですけど、お役に立ちたかったので、すごく残念です。


「よっ、っと。……うん、これで市場の買い物は終わりだね」

「もう買わなくても大丈夫なんですか?」

「うん。後は買うにしても剣の手入れのための砥石とか、もしもの時のためのロープとかだから、この格好だと、ね。一回休める場所までもどろっか」

「はい!」

「あ、そうだ」


 フラン様に連れられて、宿に戻る道を歩いていると、フラン様は何かを思い出したかのように袋を片手に持ち替えました。

 どうやって、そんな超バランスを保っているんだろうと眺めていると、フラン様は、二つの小さな袋を取り出して、片方をモモに差し出される。


「これ、モモさんに。返事を待たせてるから、その代わりに」

「返事の代わりに、モモに、ですか?」


 いったい、なんでしょう。

 不思議に思いながら受け取ると、それは柔らかくて小さい、鉄製の棒みたいなものでした。


 表面がザラザラとしたもので、持ち手には持ちやすいように加工された革が巻かれている……。"角磨き"っていう、角がある種族のためにつくられた身だしなみの道具でした。


「あ、あの、これって……」


 渡されたものが信じられず、思わず聞き返してしまった。

 フラン様は何でもないように苦笑されてしまう。


「角磨き、だって。ウィルカニスとかリャーディは爪磨きって言うんだけど、モモさんたちも角の手入れはするって前に聞いたからさ」

「これを、モモに……」

「うん。あはは、セクハラだったらごめんね。気持ち悪かったら捨てちゃっても――」


「い、いえ! 捨てません!!」


 思わず、大きな声が出てしまう。

 せっかくフラン様がくださったものを、気持ち悪い程度で捨てるなんて、ありえない。

 だってだって……。


 フラン様からもらった角磨きの棒をぎゅっと抱きしめる。


「……捨てません。もったいなくて使えないかもしれませんけど……ありがとう……ございます」


 フラン様が初めてくれたプレゼントが、角磨きだなんて、嬉しすぎますから。

 頬が緩んでしまいそうだし、一生の宝物にしてしまうかもしれない。


 フラン様が()()()()()()を知らないとしても、嬉しさが溢れてしまいそうです。


 ……でも、そういえば袋は二つ、ありました。

 ということは、モモにだけのプレゼントではないってことですよね。


 んー、と、サプライズにしたいフラン様のために考える。

 せっかく、角魔族に角磨きを渡すなんて言うものすごい事をしてもらっているので、せっかくならお姉さまにはもっと感動してもらいたいなって思いました。


「あの、フラン様」

「ん?」

「これ、お姉さまへのお土産にも買いました?」

「え゛」


 宿に戻るために歩いていたのに、フラン様の脚が止まってしまいました。

 やっぱり、そのつもりだったみたいです。

 だから、くるりと回ってフラン様のお鼻に指を突きつけました。


「今、袋を二つ持ってるのが見えちゃいました。気を使ってモモにプレゼントって言ってくださってありがとうございます!」

「あはは、参ったな。ちょっとかっこ悪くなっちゃったね」

「いえ! モモは二人に買ってくださっただけで嬉しいです!」


 フラン様が苦笑して、また宿に向かって歩き出しました。

 モモはその横に立って、ゆっくりとフラン様の後に続きます。


「あ、でも、モモは良いですけど、お姉さまにも渡すのなら、モモに言ったみたいに、代わりとか言っちゃ駄目ですよ? ノンデリカシーです」

「あ、あはは、手厳しいなあ……。あ、そういえば、モモさん。聞いてもいいかな?」

「フラン様が聞きたいことなら、なんなりと!」

「ありがとう、モモさん。えっと、今日まで見てて思ったんだけど、ローゼアさんってモモさんの事を守ろうとしてる節があるよね」

「たしかに……。お姉さまはモモにたくさん教えてくれますし、刃物とか解体とか、一度見てから触らない場所を教えてくれたりしくれますので、そうだと思います」

「家族だから、心配なのはわかるんだけど、ちょっと過剰かなって思っててさ。どうしてかはモモさんだったら知ってる?」


 唐突にしては、お姉さまの心理を突いた質問に、思わず横を歩くフラン様を見上げてしまう。

 フランさまのお顔は、とても真剣で……何かを悩んでるみたいに見えました。


 急に、お姉さまの事。それも、お姉さまじゃなくて、モモに。

 しかも、モモを守ってくれる理由を知らないかって聞かれたってことは、と考える。


「……あの、もしかして、お姉さまがお姉さまになった理由を聞きましたか?」

「うん、ローゼアさんから直接。だから、モモさんからも聞きたいなって」

「なるほど! それならお話します!」

「ありがとう」

「いえ! フラン様のお願いですから! ……えっと、たぶんなんですけど、お姉さまがモモを守ろうとしてくれるのは、モモが原因です」

「え? ああ、まあ、なにかしら理由はあると思うけど……どういうこと?」

「えっと、モモは分からないんですけど、お姉さまが言うには、モモは昔から恐怖心が薄いみたいなんです」

「恐怖心が、薄い? えっと、魔族だから、武器が怖くないって話しじゃないよね?」

「え? 武器って怖いんですか?」

「え? うん、普通の人は怖いと思うよ?」


 武器って怖い物なんだって改めて知りました。

 というのも、たぶんモモがお姉さまが守らなきゃって思う原因だと思います。


「でもモモが魔族だから? じゃないと思います。現に、お姉さまは刃物はこわいからちゃんと学んでから使いなさいって言ってました」

「わあ、小さい子に教えるみたい。じゃあ、モモさんって魔力凄い高い?」

「魔力、ですか? いえ、角魔族なのでそこまでは……って、ああ、もしかして魔力障壁とか、魔力防護のお話ですか?」

「あ、そこから伝わってなかったんだ。そうそう。魔族って純粋魔法で、魔力で防御? みたいなのを張ってるんでしょ?」

「ん、たしかに魔力の膜はありますけど……あれって、魔力総量に応じて痛みの閾値……えっと」

「痛みの感じやすさ、だよね?」

「それです! えっと、魔力が多ければ多いほど、痛みの感じやすさと攻撃を弾けるかが変わるんですけど、モモもお姉さまも、魔力は低いので、普通の人種とほとんど同じって言ってました」

「へえ、じゃあ、そう言うのがあるから恐怖心が薄いって話じゃないんだ」

「はい。そうじゃなくて、こう……えっと……」


 自分にない物はすごく説明しにくい。

 そのせいで、フラン様にどういったら伝わるか考えても、全然頭に浮かんできませんでした。


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