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第5節「お姉さまは怖がりなんです」

side:モモ


 モモです!

 今日はとっても嬉しいことがありました!

 それはフラン様も交えて、三人で朝を迎えられたことです!


 起き抜けの姿を見られるのは恥ずかしかったので、モモとお姉さまは先に起きましたけど……。

 好きだって告白した人よりも先に起きて準備をするのって、なんだか親密な関係みたいで、モモはちょっと嬉しいです。


 昨日は、お姉さまに手伝ってもらって、フラン様の朝ご飯を作ったので、今日もフラン様にご飯を作りたいと思いました。

 こっそりと部屋に戻って、一階の調理場をお借りする。今日もまた、お姉さまに朝ごはんの作り方を教えてもらいました。


 料理はやっぱり焦がしてしまって、まだまだお姉さまには追いつきそうにありませんでした。

 でも、モモは二人が一緒に居てくれるだけで嬉しいのでゆっくり覚えたいなって思います。


 そんな朝食を終え、今は、これからフラン様と出かけるために、朝の事を思い出しながら、私はお姉さまに髪を結ってもらっているところでした。

 鼻歌を歌っていると、お姉さまにふふっと笑われてしまう。


「~♪」

「モモ、嬉しそうね」

「だってだって、朝は三人で起きれましたし、朝食も一緒に食べられたんだよ?」

「そうね、素敵な朝だわ」

「うん! お姉さまも嬉しそう!」

「ふふっ、そうね」


 チラリと、お姉さまの様子を伺う。お姉さまと同じ、ピンクブロンドの髪を結いながら、とっても嬉しそうなお姉さまが居ました。


 こうして、お姉さんが一緒似てくれる。


 それは、フラン様のおかげで……お姉さまを助けてくれたフラン様には感謝と恋情しかありませんでした。

 こんな風に笑うお姉さまを見たのは、モモが生きてて、初めてでした。


 朝食の時、フラン様が次の旅のための荷物を買いに行く予定と言ったので、モモは二人で買い物に行きたいと提案すると、「本当にそれだけで大丈夫?」と何度も確認されてしまいました。

 フラン様はヒトの事を心配しすぎなんだと思います。

 だって、モモはお姉さまとフラン様と一緒に居られるだけで幸せなんですから。


 モモを心配してくれる姿はお姉さまに似てて、それはモモにとっても嬉しい事でした。

 やっぱり似てるなって、クスクスって笑ってると、お姉さまが悪戯っぽい笑みで顔を覗き込まれていました。


「本当にモモは、幸せそうね」

「……うん。モモは幸せだよ、お姉さま」

「そう」


 うん、幸せなんです。

 だって、モモはお姉さまと一緒に居られないと思って、そのお姉さまを助けてもらった恩人なんですから。


「モモ?」

「え? はい!」

「髪。終わったわ、モモ」

「わあ! ありがとう、お姉さま!」


 鏡に映る可愛くしてもらった自分を見て、一番にお姉さまに結ってもらった髪……左の角に巻いてもらった髪に触る。


 お姉さまは器用で、家事だけじゃなくて髪を結うこともできる。

 自慢で、最高のお姉さまです。


 今日のフラン様とのデートの服も、お姉さまに貸してもらっちゃいました。

 真っ白なワンピースっていうタイプの服で、普段肌を露出させている魔族にも着やすいオシャレな服でした。

 魔族の服でいいかな? って思ってたんですけどフラン様と二人ならともかく、外で歩くときは出来るだけ着ちゃ駄目って、お姉さまにもフラン様にも言われてしまいました。


 可愛いし、魔力吸収効率もいいのに、残念です。


「ありがとう、お姉さま!」

「ええ、行ってらっしゃい」


 お姉さまにお礼を言って、部屋を出た私は、真っ白なワンピースを着て、フラン様のお部屋の前で待機する。

 そういえば、自分の意志でおしゃれをするのは初めてで、少しだけドキドキしました。


「フラン様はなんて言ってくれる、かな」


 考えるだけでワクワクして、思わず笑ってしまう。

 フラン様を待って、ぼうっと古い木の壁を眺めてると、ドアの向こうで衣擦れの音と、荷物を紐解く音が聞こえてきました。


 今、まさにドアの向こうでフラン様が着替えていたらしいです。


 なんだか、こうして部屋の外で待機をしていると、まるでメイドさんのようではありませんか。少しだけ誇らしい。


「えへへ、全然まだまだメイドさんにはなれないんですけど」


 でも、廊下の外でただ待つだけで嬉しいなんて、初めてだった。

 料理の楽しさも、お姉さまの苦労も、お姉さまの笑顔も、全部全部フラン様が見せてくれる。


 フラン様はどれだけ私に与えてくれるだろう。

 衣擦れの音を聞きながら、ふと、疑問が口を突く。


「……そういえば、フラン様が男の格好をしてるの、最初にあった時しか見てないけど、フラン様って本当に男の人なのかな?」


 お姉さまはどう見ても男の人が怖いって分かる。

 ご飯を食べてるときも物音で体が動いてるし、モモと話すときも目線が窓の外を見たり、モモから外さない範囲ですごく警戒してる。


 なのに、フラン様は怖がってない……。一度も着替えを見せてくれたことが無いってことは、もしかしたらもしかするかも。


 でもでも、昨日の体はとっても男らしかったし、じゃあ男の人? でも、お姉さまはなんで?

 不思議に不思議が重なってしまいました。

 自分の小さな好奇心のせいでフラン様に嫌われたくなくて、でも気になったらそわそわしてしまった。


 些細な疑問を反芻してると、フラン様がドアが開いた。

 キチンと、昨日と同じような服を着て出てきてくださったフラン様は、もう本当に男の人かどうかわかりませんでした。


「お待ちしてました、フラン様。今日も綺麗な栗毛のサイドテール、お似合いです!」


 街の女の人とあんまり変わらない、けど体型が隠れる服を着こんだフラン様がそこに居た。

 モモは騎士装束の時のハーフアップも好きだけど、フラン様が言うには、女装をするときはサイドテールにするそうです。


「お待たせ。納得いく髪を結うのに時間かかっちゃって、ごめんね」

「いえ! モモが髪を結うのが苦手で、お手伝いできなくてすいません!」


 何も出来ないことが恥ずかしくてえへへと誤魔化す。

 フラン様は驚いた顔をすると、モモの横に並んで、廊下を歩くように促してくれました。

 静かに廊下を進みながら、フラン様の横に並ぶ。


「モモさんは髪を結うの苦手だったんだ?」


 ふと、黙って廊下を歩いていると、フラン様がから話を振ってくれました。

 モモは黙ってても平気なんですけど、フラン様が苦手なのかもしれません。


「はい! これ、いつもお姉さまがやってくれるんです! モモもたまにお手伝いしてるんですけど、一番上手なのはお姉さまですから!」

「へえ、料理もローゼアさんに教えてもらってるんだっけ?」

「料理もお姉さまが得意ですよ! 筋を切ったり、狩った動物を川につけたりしてました!」

「ちゃんと血抜きもしてるんだ……。魔道具を使ってたけど、裁縫もローゼアさんだったよね? モモさんの記憶にローゼアさんが出来ない事ってある?」

「お姉さまに出来ない事、ですか? すいません止まって考えて良いですか?」

「うん、いいよ。ゆっくりで」


 フラン様に許可されたので、足を止めて考え込む。

 基本、お姉さまは努力家で、出来ないことも頑張ってやって覚える人だ。専門的な技術が必要な難しいこと以外は全部覚えてしまう。


 身の振り方が器用じゃないとか、我慢する……お姉さまが隠してるから、モモからは言えないし……。


「素直じゃないところ、とか……?」

「あはは、我がままが苦手そうだったしね」


 モモに合わせて止まったフラン様がお姉さまの事を思い出したのか笑ってくれる。

 フラン様が腑に落ちるほど、お姉さまがフラン様に心を許しているらしく、モモはフラン様の返事に感心してしまいました。

 でも、それはそれでちょっと面白くありませんでした。


「むぅ……。フラン様はもう、そこまで仲良くなられたんですね」

「あれ、モモさんもそう言うの気にするタイプ?」

「そういうの、ですか?」


 どういうのを気にするという話なのか分からなくて、首をかしげてしまう。


「僕がローゼアさんと仲良くなること。モモさんは気にしない人かと思ってた」


 ああ、と納得する。

 普通はそうだなって思いますし、モモもお姉さまが好きな人と一緒になるのはとってもいい事だと思います。

 でも、お姉さまもフラン様も好きなので、気になるかと言われれば、気になります。

 上手く説明できる気がしないので、とりあえずそのままいう事にしました。


「それは……だって、モモのお姉さまですもん……。だけど、お姉さまとフラン様が、モモの知らないところで仲良くなってるのも……気になります」

「あはは、正直だね」

「はい! モモは正直者なので! 隠し事はしますけど、嘘は言いません!」

「わー、ローゼアさんと違うところだ」

「ふふ、そうですね。それに、モモもお姉さまには勝てない部分沢山ありますから」

「料理とか?」

「むぅ、それは勉強中です。種族違いの食事なんて、考えたことも無かったですから。……あ、それは嘘でした」

「え、嘘なの?」

「だって、獣魔族さんが同族を食べてる時は普段何を食べてるんだろうって思ったことはありますので」

「おおう、ワイルドな話だった。聞かなきゃよかったなあ」


 フラン様に苦笑されて、思わず見上げる。

 いつものフラン様と違って……いえ、いつものフラン様みたいにどこか遠い目をして、隠し事をしてる目をしていました。

 たぶん、モモとお姉さまの暮らしの事を慮ってくれているのではないでしょうか。


 考えてくれるのは嬉しいけど、心配性なフラン様に心配させることじゃない事柄なので、話題を変えるためにモモはフラン様の髪を見ました。


「そういえば、フラン様。フラン様は、別の髪形はしないんですか?」

「別の髪形?」

「はい! もっと可愛い髪型とか、編み込んでみたりとかするのはどうでしょうか! フラン様は髪の量も多いですし、癖はありますけど、すごく長くできる髪だと思うので!」

「そう? 僕はあまり詳しくないから、どういうのが良いと思う?」


 フラン様の髪をいじってもいいんですか!

 僥倖です! それはとっても素敵な事です!


 フラン様は男の人なのに可愛いですし、色々考えるだけで女の子っぽいのとか、可愛いのとか、みつあみとかでも全然似合いそうで、フラン様の可愛さが爆発しそうでした。


 興奮しそうなのを抑えるために、フラン様の前に回り両手をぐっと握る。


「それだったらお姉さまにも頼んでもっと色んなのを試してみましょう! お姉さまなら見たことある髪型でしたら殆ど出来ますし、モモが結うよりもずっとずっと綺麗に結っていただけますよ! 男の人から見てもきっと可愛いって思っていただけると思います! それにそれにお姉さまならきっとフラン様に似合う……。フラン様?」


 夢中になって喋っていると、ふと、フラン様が我慢できなくなったとでもいうかのように、噴き出して座り込んでおられました。

 どうしたのでしょうか。


「あはっ、あはは」

「ふ、フラン様? モモはなにか失礼なことをしてしまいましたか?」

「ううん、ごめんね? ただ、モモさんは本当にローゼアさんの事が好きなんだなって」

「当然です! だってずっと一緒に居ますから!」

「あはは、僕よりもずっとずっと長いもんね。これはモモさんはローゼアさんにとられちゃうし、ローゼアさんもモモさんにとられちゃうかもなあ」


 心外です。お姉さまはお姉さまであって、モモと一緒に居るのも、フラン様と一緒になるのも、お姉さまが決める事じゃないですか。

 フラン様ももっとご自分に自信を持った方が……。


 そこまで考えて、はてと不思議になりました。

 フラン様のとられるって、どういった意味で取られる何でしょうか。


(モモはお姉さまのモノでもフラン様のモノでもいいけど……。そもそも、お姉さまがとられるって話ならモモの方、ですよね? でも、モモがお姉さまを……? でも、モモとお姉さまは元々一緒に居るんだし、とられるもなにも、一緒に……もしかして、フラン様は……?)


 無意識の言葉かもしれませんが、これは見逃せません!

 是が非でも聞こうとフラン様を見上げました。


「あの、フラ――」



「あら、私の事をとりあってくれるのね、二人とも」



 フラン様に直接聞こうとしたら、そんな声がしました。


 ビックリしてフラン様と一緒に振り返る。

 モモたちが貸してもらってる部屋の前、廊下に少し出たところで、お姉さまが壁に寄りかかって気だるげに……遠くから子供を見守る母親みたいな目でこっちを見ていました。


 あ、でも、お母さんを見たことは無いので、そんな感じって感じです!


 たぶん、疲れてるのは昨日フラン様に担がれて恥ずかしかったのと、単純に体力を使ったことが原因です。


 でも、熱がこもったお姉さまの吐息一つでも、とっても艶やかに見えました。

 さすがお姉さまです!※


「モモ、フラン。買い物に行くんじゃなかった?」

「こ、これから行こうと思ってたんだよ。ねーモモさん」


 なんだか、フラン様が慌てたようにそう言いました。

 後ろめたい事でもあるんでしょうか。

 なんとなくフラン様に合わせることにしました。


「はい。すこしだけ立ち話をしました」

「そう? 私はくしゃみがでそうだから、てっきり私の噂話でもされてるのかと思ったわ」

「…………」「…………」


 それはしたので、嘘を言わないために口を閉じました。

 でも、お姉さまの思い通りだったのか、黙ったモモたちを見て、お姉さまはニヤリと笑いました。


「あら、二人とも返事がないってことは図星だったかしら」

「ちなみに、お姉さま」

「なあに、モモ」

「どこから聞いてたの?」

「さあ? どこからだったかしら。……とにかく行くなら早くいってらっしゃい。私はどっちかの部屋にいるから」


 そのままフラン様の部屋に行ってしまいそうだったので、慌てて「お、お姉さま?」と声をかけると、ドアをくぐる直前、少しだけ足を止めて、


「私は素直じゃないもの。教えてあげない方がそれらしいと思わない?」


 弱々しく、でもいつもの悪戯をするときみたいに笑って部屋に戻っていきました。

 お姉さま、半分くらいモモとフラン様の話を聞いてたみたいでした。

 しばらく、フラン様と二人で茫然と立ち尽くす。


「えっと……」


 フラン様が絞り出したみたいな声は、置いてけぼりを食らっている子犬みたいでした。※

 よっぽどどうしていいか分からないのか、フラン様は、戸惑ってお姉さまが居た方に手を伸ばしてて、噴き出してしまいになりながらその手を取る。


「フラン様」

「え、あ、うん。なに?」

「大丈夫です!」

「えっと、なにが?」

「お姉さまはちょっとお疲れで、悪戯のキレが悪かっただけですから!」

「え? あ、大丈夫ってそっち? 怒られてないからとかじゃなくて?」

「そっちは……帰りにお土産忘れないようにしましょう!」

「……あはは、そうだね。そうするよ、モモさん」


 静かな宿の廊下で、フラン様が苦笑して頷いていました。



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