第十七話 委員長・須崎星子
ガラガラガラ……。
高梨先生は、教室のドアを開ける。
すると、先ほどまで廊下まで響いていた、ワイワイした騒ぎ声は一瞬にして収まった。
あれ?
クライエトン先生みたいな教師なら分かるけど、この先生ってそんなに効力あるの?
まあとにかく、高梨先生が教壇に立ったので、私たちもその横に並んだ。
男女問わず、全ての生徒の視線は私とアミーダに向けられる。
ああ、なんか恥ずかしいな。
「留学生の、素波砂チャリオネと、剃図アミーダだ。みんな、仲良くしてやれよ」
「ええっ!!留学生!?」
生徒たちはみんな、びっくりしている。
まあ、それはそうよね。
何しろ、急な話だっただろうから。
「そうだ、留学生だ」
「留学生、留学生……」
生徒たちは、ボソボソと呟き始める。
何、この雰囲気?
もしかして、あんまり歓迎されてない?
「留学生、だーっ!!」
その瞬間、生徒たちのほとんどが立ち上がって、喝采を上げた。
めちゃくちゃ、喜んでる。
「なあ、どこの国にいたんだ?」
「え、ええと……。アメリカ」
「へー、すごいわね!じゃあ、英語もペラペラなの?」
「まあ、ペラペラとまではいかないけど……」
「俺の隣の席、使っていいよ」
「ちょっと男子、色気づいてんじゃないわよ!」
「何だよ、うるせえな!別に誰の隣だっていいだろ!」
「あんた、授業中にいつもおならしてるでしょ。そんな人の隣にやれるもんですか!」
「ちょっ……、それは言うなよ!」
「はあ……」
高梨先生は、ため息をつく。
いやー、歓迎されてるのは嬉しいんだけど、この世界の学生ってこういう感じのノリなんだ。
魔法学校の学生とは、全然タイプが違うな。
魔法学校の学生は、男子は紳士的に振る舞う人が多かったし、女子はお淑やかな感じに寄せてる人が多かったから。
それに、留学生って日本の学校だとこんなに歓迎されるんだ。
ちょっとびっくり。
「おい、須崎。お前の隣、空いてるだろ」
高梨先生は、向かって右奥の隅にいる女子生徒に声をかけた。
「はーい」
女子生徒は、元気に手を振って応えた。
生気溢れる目が、こちらを向いた。
髪型はショートカットで、ボーイッシュな印象を受ける。身長も、私とアミーダより高いようだ。
「須崎、ついでにこの二人に学校のこと、色々教えてやれ」
「分かりましたー」
「須崎は、このクラスの委員長だ。分からないことがあったら、何でも聞いてくれ」
「はい、分かりました」
私は、須崎さんの席まで行くと一礼した。
「よろしくお願いします」
「かたーい!」
頭に、チョップが寸止めで入った。
「え、何が?」
「同級生なんだから、敬語なんか使わなくていいよー」
「そ、それもそうだね……」
「私は学級委員長の、須崎星子。よろしく!」
「私は、素波砂……チャリオネ。よろしく」
私と須崎さんは、がっちりと握手を交わした。
それにしても慣れないなあ、この変な苗字。
「盛り上がってるとこ、悪いんだけどさあ」
後ろから、アミーダの声。
「何?どうかしたの?」
「あたしの席、なくね?」
「あ」
キーンコーンカーンコーン。
だああーっ、疲れたー。
やっと、午前の授業終わりかー。
魔法学校の授業もしんどかったけど、技術の授業が多かったから、動いてることが多かったのよねえ。
ずっと座学っていうのも、しんどいものだ。
「飯、どうする?」
アミーダが振り返って聞いてくる。
結局、アミーダの席は新しく机と椅子が運び込まれて、私の前になったのだ。
「お昼ご飯……。あ、あれ!?」
「そ、それ」
そういえば。
思いっきり忘れていたが、昼食はどうするんだろう。
シズネさん、完璧に忘れてるわよこれ。
「どうかしたの、二人とも?」
須崎さんが、ニコニコしながら近づいてくる。
「実は、お昼ご飯を持ってくるの、忘れちゃったのよね……」
「え!?」
須崎さんは、後退りした。
え、何?
お昼ご飯忘れるって、そんなにやばいことなの?
「この時間だと、食券は全部売り切れちゃってるから、購買で何か買うしかないんだけど……」
「アミーダ、そういえばお金は?」
「ここに持ってる」
アミーダは、青いがま口の財布を取り出した。
「え、それどこで!?」
「ああ、あのひったくりから助けた婆さんからもらったんだ」
「いつの間に、そんな……」
「あの帰り際に、小遣いもらってたんだよね」
「まさか、大金じゃないわよね……?」
「ひい、ふう、みい……。十万くらいかな」
「アミーダ、一万円だけ残して返してきなさい」
「やだよ、そんなの。いい金づるが見つかったんだから」
「あんな優しいご老人からお金を搾取するなんて、どういうことよ!」
「そもそも金持ちじゃなかったら、助けてないけど」
「そういう問題じゃないでしょ!」
「でも、ここ通えてんのだって金づるありきなんだよ?よく考えた方がいいんじゃない?」
「その金づるって言い方、やめて!いくら何でも、おばあちゃんに失礼よ!」
「じゃ、財布ってことで」
「あなたねえ……」
「プハッ」
横を見ると、須崎さんが吹き出して笑っていた。
「アハハハ、何のこと話してるんだかよく知らないけど、あなたたちほんとに仲がいいのね」
「うん、それはまあ……」
魔法学校からの、長い付き合いですから。
「あ、こんなことしてる場合じゃない!」
須崎さんの顔が、またしても険しくなった。
「この時間帯の購買は、地獄よ」
「地獄……?」
「そう、地獄の購買。登校初日からここには行ってほしくないけど……」
一体、どんなところなんだろう。
まあ、未開地よりはマシでしょ。




