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第十六話 高梨先生

「まずいわ、遅れちゃう……」

そう。時刻はもう八時二十分になっていた。

それにも関わらず、ここから学校まで二十分以上はかかるという。

「もう……。アミーダが、いつまでも寝てたせいよ」

「いやあ、それ言うならシズネさんもでしょ」

「ごめんねー。社会人の裏の顔が出ちゃったのよ」

サラッと怖いこと言ってるけど。

「ところで、どーすんの?また箒で飛んでく?」

「それだけは勘弁」

「走っていくしかないんじゃないかしら?」

「えーでも、走るのめんどいしなー」

私たち三人。

どういうわけか、どの組み合わせをとっても、あまり会話が噛み合わない。

「あ、そーだ」

アミーダは、何かピンときたようだ。

「こっちが急ぐことないんじゃないの?」

「どういう意味?」

「よーするにさ、あたし達まずは職員室に顔を出すでしょ」

「うん」

「その職員室の時計の針を、チャリオネの風魔法で少しずらしちゃえばいいんじゃないの?」

ああ、なるほど。

確かに、そういうやり方もあるわね。

「チャリオネちゃんって、ほんとにすごい魔法が使えるわね!」

シズネは、目を輝かせている。

「いえ、それほどでも……」

それに対して、私の顔は半ば引きつっている。

こういう魔法の使い方って、魔法使いとしてはどうなんだろう。

便利、といえば便利だ。だけれども。

倒れそうになったおばあさんを支えたり、時計の針をずらしたり、なんか魔法としては地味すぎない?

本来の風魔法は、魔物に突風を吹きつけて攻撃したり、竜巻を起こしたり、浮遊に使ったり、炎魔法の援護魔法として活用したりするなど、いかにも魔法らしい、派手なものが多い。

それに比べて私の風魔法といったら……。

まあ、出力最小レベルしか使えない私が悪いのだけれど。

ああ、本当にため息しか出ない。


「ちょっと片岡先生、遅刻ですよ!」

案の定、職員室に入ると教頭が飛び出してきて注意した。

さて、あの中央の壁にくっついてる時計ね。

風魔法使用、っと。

「え?何のことですか?時間内に来てますけど……」

「何を言ってるんです、もう八時四十五分……」

教頭は、後ろの時計を振り返ると、不思議そうな顔になった。

「あれ、八時三十分手前ですね……。おかしいな、さっき見た時は……」

「勘違いだったんじゃない?」

「ああ、なるほど。確かにそうかもしれませんね……」

風魔法、成功。

なんか、セコいな〜。

「ところで、担任の先生の紹介がまだでしたね。二人の担任の先生は、こちらの高梨小暮先生です」

教頭が指し示した先には、ひょろっとした四十代くらいの、無精髭を生やした男の先生がいた。

白いシャツはシワがたくさんついていて、あまり手入れがされていなさそうだし、黒いネクタイも緩めている。

何より、その目。

見るからに、やる気というものが欠如している。

あはは、クライエトン先生とは、あまりに対照的だな。

「高梨先生、よろしくお願いします」

「え?あー、どうしたんですか?」

「昨日、話したでしょ。高梨先生」

「あれ、何のことだっけなー……。ああ、給料アップしてくれるんでしたっけ?」

「そんなこと一言も言ってませんよ、高梨先生。しっかりしてください。この二人、今日から高梨先生のクラスに入る留学生の子達ですよ」

「留学生ですかー……。めんどくさいですね、フツーに。手当とか、つきません?」

「その話なら、昨日既にお断りしました!」

何だ、このやり取りは。

教頭は、見るからに悪戦苦闘している。

「高梨先生、普段からあんなだからあんまり気にしないでね」

シズネは、私にこそっと耳打ちした。

はいはい、了解。

元いた世界には、あの手のタイプの教師はいなかったけど、分かりやすいといえば分かりやすいかも。


「えーと、名前なんて言うんだっけ?」

「素波砂チャリオネと、剃図アミーダです」

「へー、なんか芸能人みたいだなー」

私とアミーダは、高梨先生について教室に向かっている。

「なんか、聞いときたいことあるか?」

「いえ、私は特には……」

「あるよ」

ああ、アミーダ。

新しいおもちゃを見つけたみたいな反応、しないで。

「何だ、剃図」

「授業サボりたい時とかって、どうしたらいい?」

「ちょっと、アミーダ!」

こんなこと聞いて、説教しない教師がいるだろうか。

初日から目をつけられるのは、勘弁だ。

「あー……。そういうことはお前、教師には聞かないもんだぞ」

「す、すいません!アミーダは、普段からこんな調子なんで……」

「サボりたいと思ったら、勝手にサボればいい」

「え?」

「こっちは成績をつけるだけだから、とやかく言わない。だが、サボりすぎると出席日数が足りなくなって、単位が取れなくなるから気をつけろ」

え?何この回答?

「高梨先生、そこは教師として注意するべきなんじゃないんですか……?」

思わず、口に出てしまっていた。

「え、何で?」

「いやだって、普通の教師は無断欠席とか許さないでしょ」

「あー……、そうかもな。でも単位さえ取れれば、いくつか無断欠席しても結果オーライなんじゃねーの?」

「そういうことではなく……。意識の問題です」

「意識、ねえ……。ま、俺のスタンスとして、問題さえ起こさなければ、その他のことはどーでもいいんだわ」

まさか生徒である私が、現役の教師に説教することになるとは。

でも、この先生の言ってること、一理あるのでは……?

「気が合うね、せんせ」

「ん、そうか?」

アミーダの「気が合う」は、「やりやすい」って意味なのだけれど。








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