魔法に魅せられたお上りさん
寒空の下、人々は体を震わせながら雪道を踏みしめるように足を進める。
すれ違う人々は皆往々にして顔には深いしわが刻まれており、心労のほどが窺えた。
まだ日も登らぬ時分から、働きに出る彼らの身の上に思いを馳せたのち、
これからの自らの境遇を改めて想起し、少年は改めて身を引き締めた。
魔法士を志す者にとって避けては通れぬ道、魔法学校の入学試験が迫っている。
お世辞にも裕福とは言えぬ、田舎者の少年にとって、試験の失敗は即ち魔法使いへの道が閉ざされることを意味していた。
少年には敬愛する祖父がいた。
宮廷に仕えていたとうそぶく祖父は幼かった少年に魔術を教えた。
祖父が操る美しい魔法の数々は子供心を大いにくすぐるものであった。
同時に祖父が語る魔法使いとしての矜持もよく説いていた。
暗きを覚え、尚照らさん。
魔法を拠り所として育った少年にとって、この言葉は自らの生き方の道標ともなっていた。
少年は、祖父が急逝したのち、叔父のもとに預けられた。
叔父は粗暴な人物で、少年を小間使いのように扱っては、度々暴力を働いた。
しかし一変した生活の中にあっても少年の魔術にかける想いは変わらなかった。
最も、魔導書を買うことなどはできず、叔父が売り払った実家の納屋から幾つか魔導書をくすね、探るように知識を取り入れるだけだったが。
自らの知識と実力が試験の合格にたるものかどうか、少年は湧き上がる不安を必死に抑え込まんとするのであった。
祖父の形見である懐中時計に目を走らせ、少年は足早に街道を進んでいく。