いつも通りの柔和な笑み
カチカチカチカチ……。
突如、僕の耳元に時計の秒針が進むような音が聞こえ始める。それは僕にしか聞こえない音。
その音が鳴った瞬間、僕は姉さんの元へ駆けつけねばならない──。
「農民の小娘が私達に取り入ろうというその魂胆が気に入りませんの。貴賤なき社会などという世迷言を掲げるのはいつだって──」
全力で走ってようやく姉さんのいる食堂へたどり着く。
姉さんは誰かに説教をしているようだった。いや、誰かはもう分かっている。金髪で碧目の女の子だ。
「姉さん!」
姉さんに声をかけた時、同時にその女の子の表情が見えた。僕が見慣れた落ち込んだ表情が張り付いていた。僕が見て見ぬふりをしてきたその表情が。
「あら、どうしたのエスラー」
僕の声に反応し、姉さんはこちらを振り向く。いつもと変わらない柔和な表情だった。眩く輝く赤色の瞳、流麗な銀の髪も変わらない。
「ちょっと用があるんだ……いいかな?」
「いいわ。でももう少し待って頂戴ね。今この愚物に差異というものがなんなのかを──」
僕の提案を承諾しながらも、尚もその少女へ罵声を浴びせ続ける。
これではダメか、なら次の手を。
「行こう姉さん! 先生が呼んでるんだ」
「あらそうなの。分かったわ。一度中断しましょうか」
優等生で名が通ってる姉は、先生からの頼みや呼び出しにすぐに応じる。それを僕は知っていた。
最初からこれで行けばよかったな……。
自らの状況への対処の鈍重さを改めつつ、僕は姉さんの手首を握り、食堂を後にする。
「それで、呼び出した先生とは一体誰なのですエスラー。トロウ先生ですか? それともエベレ先生?」
あのカチカチと煩かった秒針の音は消え、辺りは静寂に包まれていた。
そもそも地下倉庫なんて誰もいないのだから、静かで当たり前なんだけど。
「エスラー?」
「あ、な、何? 姉さん?」
とりあえず危機を脱せたことに安心して、反応が遅れてしまった。
「呼んでいらっしゃった先生とは一体誰のことですの?」
「あーえっと、えっと……。誰だったかな? でも校内放送がないってことは、多分大丈夫だと思うよ!」
上手い言い訳が思いつかない。咄嗟の行動だったから……。
姉さんは怪訝そうな顔をしつつ、微笑みを湛え、
「全くもう、しょうがないですわね。エスラーは」
いつも言ってくれた「しょうがない」を久々に言ってくれた。
その言葉に僕は涙しそうになった。でも、堪えた。
必ず姉さんを救い出す、その決意を再び抱いた。
秒針の音が鳴ったらその後30秒で爆発する、姉を救う決意を。
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