到着
起きると少しだけ馬車から見える景色が変わっていた。どうやらしばらくの間眠っていたらしい。
「あ、起きましたか。そろそろ馬の休憩も兼ねて、昼食でも取ろうと思ってます。」
そう商人は言った。この人は王国の最大都市であるドレリークからよく俺の村に商品を売りに来てくれるメイヤーさんという方で、今日はドレリークに戻るついでに俺も一緒に乗せてくれることになった。
幼い頃に両親を亡くした俺をよく気にかけてくれた人だ。
「わかりました。今どの辺ですか。」
村から出たことはほとんどないので地理には疎い。
「そうですね、ドレリークまであと4,5時間くらいのところです。この辺の村にもたまに商品を届けに来ることがあるんですよ」
そう言ってあたりを見回した。
確かにさっきから家らしき建物がちらほら見える。村人の一人が俺の方を眺めていたが、やがて畑へ歩いていった。
メイヤーさんは馬車を道の脇に止めて、昼食を摂り始めた。俺も家から持ってきたパンと干し肉を食べることした。今日限りでこの固いパンと肉におさらばできると思うとむしろ少し感慨深い。念のために少しだけ食料は残しておいたが向こうに着けば何か買って食べればいいし問題ないだろう。
食事を終えて、ついでに用を足して再出発した。残りの食料以外の持ち物といえば、お金と身分証明書、それにナイフ、あとは剣。これくらいのものだ。武器以外はリュックにしまっている。身分証は生まれたときに村役場で作ってもらったものだ。お金と同様に魔力が込められており偽造できなくなっているらしい。使ったことは一度もなかったが都会では何をするにもこれが必要だと神父に言われた。
馬車に揺られて数時間、段々と道が舗装されたものに変わっていき心地よい揺れになってきた。
「もう少しで到着しますが、まず最初に私の商会へ馬車を返しに行きます。そのあとで街を案内しましょう」
メイヤーさんが振り返ってそう言った。
そこからさらに1時間ほど、ついにドレリークの街並みが見えてきた。ドレリークの街並みなど知らないのだが、見たこともない立派な建物が並んでいるしここがそうだろう。
やがて馬車が大きな建物の前で止まりメイヤーさんが少し待っていてくださいと言って、建物の中に入って言った。メイヤーさんはこんな立派な場所に勤めていたのかなどと考えながらあたりを見回して待つことにした。
道行く人の服装は俺が着ているものとは違って高級そうに見えた。俺が通行人に目を奪われていると、不審そうに見つめ返されてしまった。気まずくなって遠くに目をやると、騎士のような恰好をした男が二人歩いている。巡回だろうか。立派な鎧を付けている。どんな装備をしているのか気になってしばらく観察しているとメイヤーさんが戻ってきた。そして馬車を建物の脇に止めにいった。
「それでは行きましょうか。ついてきてください」
そう言ってスタスタと先へ歩いていく。俺もそれについてく。
どこへ行くのかは言わなかったが、黙ってついて来いということらしい。頼もしい案内人だ。