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戦国 霊玉守護者顚末奇譚  作者: ももんがー
第四章 しあわせな時間
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第30話 機能回復訓練

 あれからどのくらい経ったのだろう。

 空っぽだった霊力は半分くらいになったと感じる。

 竹さんがずっと注いでくれていた霊力だ。

 竹さんが身体の中に染み込んでいるようでうれしい。


 熱はずいぶんと下がった。

 まだ微熱とまではいえないが、起きていられる時間も増えてきた。

 


 ある日、ちいさな龍を紹介された。

 黒陽と同じく姫の守り役だという。

 ずっと俺の治療と看病にあたってくれていたと聞き、礼を述べる。


 ちいさな龍は俺の身体を診たあとひとつうなずき、言った。

「そろそろ機能回復訓練を始めよう」

 俺の身体はずっと使っていなかったので、動くように身体を慣らす必要があると説明される。


 最初は指先に力を入れることから。

 いつも竹さんの手を握っていた左手はなんとか動いたが、足は両方とも動かなかった。

 意識して力を込める。動けと命ずる。

 なかなかうまくいかない。


 竹さんが身体をもんでくれるようになった。

 無理矢理身体をほぐすのだ。

 ちいさな手だし、ほとんど力が入っていないので、くすぐられているようで笑いをこらえるのが苦しかった。


 ちいさな龍がやってくれると「痛い痛い痛い!!」と泣き叫ぶ羽目になった。

「痛みがあるのは神経がかよっている証拠」と遠慮なしにもみまくってくれる。

 あまり俺が痛がるものだから、竹さんが半泣きになっていた。

 かわいらしさにでれっとしたら、龍に遠慮なく踏まれた。


 もまれるとまた熱が上がった。

「身体の正常な反応だから大丈夫」と龍が薬を飲ませる。

 熱が上がっても一時のような高熱ではないのでまだ耐えられる。

 そんな俺にちいさな龍は課題を出す。


「身体に霊力を巡らせてなじませといて」

「できれば圧縮してみて」

「少しでも関節を動かして」


 霊力操作は訓練の基本だ。

 それでも霊力が少ないからか、いつもとは感覚がちがう。

 習いたての子供の頃のように、うんうん言いながら霊力を巡らせた。

 竹さんも協力してくれた。

 ずっと俺の左手から霊力を流してくれた。

 竹さんの霊力を身体中に巡らせると考えたら途端にうまくいった。

 我ながら単純だ。



 ふと思いついてこんなお願いをしてみた。

「竹さん。俺に抱きついて霊力流せる?

 昔、俺がやったみたいに」


 きょとんとしていた竹さんだったが、意味を理解したのだろう。真っ赤になってあわあわとうろたえた。

 そんな様子がかわいらしくてたまらない。


「意地悪だったね。ごめんね」

 そう言って笑ったら、彼女は一瞬泣きそうな顔をした。

 そしてぎゅっと目をつぶると、横になっている俺の上に乗っかってきた。

 ぎゅううぅぅっ、と、俺の首にしがみつく。


 あぁもう! かわいい!!


 動かない左腕をなんとか動かして彼女の背にまわす。

 彼女に触れているところから彼女の霊力が染み込んでくる。

 あたたかくて、気持ちいい。


「こ、これで、いいですか?」

「うん。すごく霊力が染み込んでくる。ありがとう」


 俺の言葉に彼女がほっとしたのがわかった。


「重くない?」

「ちっとも」

「むずかしくない? 邪魔じゃない?」

「ちっとも」


 俺の心配ばかりする彼女が愛おしくてたまらない。

 すり、と彼女の頭に頬をすり寄せる。

「すごく元気もらえる」


 彼女から力がぬけた。

 そして、俺の首元にすりすりと額をすりつける。

 かわいい。愛おしい。大好きだ!

 ぎゅう、と抱きしめる左腕に力が入る。


「大好きだよ」


 ぽろりと言葉がこぼれる。

 発熱しているときにさんざんぽろぽろ気持ちをこぼしたためか、熱が下がってからもぽろぽろと言葉があふれる。


「私も」

 俺のぽろぽろに生真面目な彼女が応えてくれるのがうれしくて、またぽろぽろと気持ちをこぼしてしまう。


「好きだよ。竹さん。好きだよ」


 抱きしめていると、欠けた部分が埋まる気がする。

 すごく満たされて、しあわせな気持ちになる。


「好きだよ」


 何度口にしても飽きない。

 何度口にしても足りない。


「好きだ」

「私も」


 ぎゅう、とお互いに抱き合う。

 二人の霊力が混じって、二人の身体を巡っているようだった。




 少しずつ食事もとるようになった。

 最初は米のとぎ汁のようなものから、徐々に濃くしていった。


 ちいさな龍が背もたれを用意してくれた。

 竹さんが「はい、あーん」と食べさせてくれる。


 最初は横に座って食べさせようとしてくれたのだが、俺はまだ首を動かすのも大変だった。彼女はちいさいので膝立ちで懸命に手を伸ばして食べさせようとしてくれたのだが、うまくいかない。

 最終的に、彼女が俺の足に乗っかって、正面から食べさせてくれるようになった。


「重くない?」

「ちっとも」


 俺の言葉に、俺の目の前で笑ってくれるのがうれしい。

 かわいくてたまらない。


 もう食べたくないな、と思っても「あーん」と差し出されたら無理して食べてしまう。

「あーん」と言うときに竹さんも口を「あーん」て開けるのがものすごくかわいい。

 指摘するとやらなくなるのがわかってるから黙っておく。


 俺の身体が少しずつ動くようになっても、彼女は俺の足に乗っかって正面から食べさせてくれる。

 もう横から食べさせても大丈夫なことに気付いていないらしい。

 俺には何の問題もないので、彼女を乗せたまま黙って口を「あーん」と開ける。



 少しずつ、少しずつ回復していった。

 霊力を巡らせる。身体を少しずつ動かす。

 左腕が一番早く動くようになった。

 竹さんの手を握るために力を入れていたこと、竹さんを抱きしめるために無理矢理でも動かしていたからだろう。


 そんな俺の様子は、ちいさな龍にはお見通しだったようだ。


「竹様。エサになって」

「は?」

「エサ? って、何をすればいいの?」

 きょとんと問いかける彼女がかわいい。


「こいつ、竹様のためなら身体が動くから。ちょっと抱きついてみて」

「だ、抱き――!」


 赤くなる彼女がかわいい。

 もうどんな彼女もかわいい。


 彼女はちいさな龍に「ほらほら」とせっつかれ「ううう」と何か葛藤していたが、おずおずと横になった俺の上に覆いかぶさってきた。

 反射的に左腕で抱きしめようと動かす。


「こ、こうですか?」

「そうそう。ほら、すぐ左腕が動いてる」


 そういえば、と彼女が俺を見上げる。かわいい。


 その後も「指先を動かして」「足を動かすよ」と文字どおり彼女をエサにされ、単純な俺はいいように動かされた。

彼女がくっついてくれたので俺に否やはない。



 機能回復訓練で少し無理をするとまた熱がでる。

 薬を飲んで寝て、少し回復したらまた身体を動かす。

 ちいさな龍が全身をもんだり動かしたりする。

 最初は悲鳴をあげていたが、あまりにも竹さんが心配するので、今はがんばってこらえている。

「うぐぐぐぐ」とうめきがもれるのは許してほしい。


「とりあえず目標は立てるようになること。自分で座れるようになること。

 あとは追々自分でやれるだろ」


 そう言うちいさな龍。

 そして俺にエサをぶらさげる。


「一人で座れたら竹様を膝に乗せて抱けるぞ」

「一人で立てたら竹様喜ぶぞ」


 馬鹿な俺はその言葉にいいように操られ、龍の訓練に取り組む。



 身体を動かすのは一日に少しだけ。

 あとは横になって身体を休め、霊力を巡らせる。

 彼女とたわいもない話をしたり、手を握ったり広げたりとできるところを動かしたり。


 それでも少しずつ良くなっているのが自分でもわかる。

 食事をとり、薬を飲み、身体を動かし、眠る。


 夜眠るときに竹さんが一緒に寝てくれるのがうれしい。

 目を閉じていても彼女のぬくもりを感じる。彼女の存在を感じる。


 彼女が居てくれるだけで、しあわせで満たされる。


 最初は手をつないで寝ていたけれど、ちいさな龍にエサにされてしょっちゅう抱きついているうちに俺の腕枕で寝るようになった。

 彼女はまだ四歳。ちいさい身体は俺の脇にすっぽりと収まった。

 なんだか鳥の巣の中の雛鳥のようでかわいい。


 べったりくっついていると、それだけで安定するし満たされる感じがする。

 俺の足りない霊力を竹さんの霊力で補っているように感じる。



「『半身』だからかな?」

「多分ね」


 診察してくれるちいさな龍にたずねてみたら、そんなふうに答えがかえってきた。


「確かに『半身』がそばにいる『半身持ち』は治りが早かった気がする。

 これは調べる価値があるかもしれないな」


「戻ったら姫と相談しなきゃ」と言うちいさな龍はウキウキしてみえた。


「霊力流されて抵抗感じる?」

「いや一向(いっこう)に」

「竹様は? 霊力流して、負担とか、ひっかかりとか、ある?」

「ないです」

 ちょっと考えた彼女もあっさりと言う。


「普通は属性の相性がよくても、これだけの量、長時間流してたら、多少は負担を感じるはずなんだけど。

 ふーん。そうなんだー。へー」


 興味深そうに目をキラキラさせて「あれは?」「これは?」と聞いてくる龍に二人で答える。

 そんなことも楽しくて、彼女も楽しそうで、二人顔を見合わせて笑った。

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