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戦国 霊玉守護者顚末奇譚  作者: ももんがー
第三章 罪人と『半身』
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第ニ十四話 罪人

今回より五話、北の姫こと竹視点でお送りします

 私達の目の前に、ソレは現れた。



 その、強烈な霊力。

 今まで感じたことのない霊力に、私はただただ恐ろしくて黒陽の服をぎゅっと握った。


 禍々しいのではない。清浄なのでもない。

 ただただ、巨大。

 とてつもなく大きな霊力なのに、その霊力には属性も特徴もなにもない。


 ただの、チカラ。



 それが『災禍(さいか)』と呼ばれる存在だった。




災禍(さいか)』とは何か。


 それは、望みを叶えるモノ。

 それは、運命を操るモノ。


 強い望みを持つモノの強い願いを叶えるために、偶然を重ね合わせて運命と結果を引き寄せるモノ。


 強い望みは犠牲もいとわない。

 強い願いは(にえ)を要する。

 結果、全てが滅びる。

 周りも、無関係なモノも。

 願った当事者も。


 それでも、その願いを叶える。

 それが 『災禍(さいか)



 そんな存在を、私は、解き放ってしまった。




災禍(さいか)』の封印を解いた私は『呪い』を刻まれ異世界に落とされた。


「守り役は『人間の姿を失い獣の姿になり』『死ねない』呪いを」

「姫は『二十歳まで生きられない』で『記憶を持ったまま何度も転生する』呪いを」


 封印を解いた私だけでなく、一緒にいただけの他の国の姫と守り役達までもが『呪い』をかけられた。


 私のせいで。


 私が森に行ったから。

 私が無防備に樹に触れたから。

 私にこんな能力があったから。



 謝っても謝っても『呪い』は消えない。

 泣いても叫んでも『罪』は消えない。

 何度死んでも生まれ変わる。

 何度死んでもあの記憶も罪も『呪い』も消えない。

 この『罪』の償い方がわからない。どうすればいいのかわからない。


「姫のせいではありません」

 優しい守り役はそう言って、私の『罪』を肩代わりしようとする。

「アンタのせいじゃない。むしろ悪いのは自分」

 優しい姫達はそう言って、私の『罪』を軽くしようとする。


 でも、わかっている。自分が一番わかっている。

 私は『罪人(つみびと)』。

 たくさんの人を死なせた。国を、世界を滅ぼした。

 無関係な姫と守り役に『呪い』を負わせた。


 私は『罪人』。



 少しでも償う方法はないかと、生まれ変わるたびに国造りに協力してきた。

 とはいえ私などでは大した役に立てない。

 せいぜい求められるままに結界を張ったり、守護の術をかけたりする程度。

 それでも「ありがとう」と褒めてもらえると、少しは私でも役に立てたかとうれしくなった。




 そんなある時、『災禍(さいか)』の気配を感じた。



 最初は意味がわからなかった。

「なんで『災禍(さいか)』の気配が⁉」

 わからなくて、同じように生まれ変わっていた他の姫と守り役と合流した。


災禍(さいか)』は私達の世界とともに滅びたのだと思っていた。

 落とされてから千年経っていた。もう忘れかけていた。

 でも、忘れることなどできなかった。

 あの、強烈な気配。

 間違いなく、私が封印を解いた『災禍(さいか)』がこの世界にいると、わかった。



 また同じことが起ころうとしているのだと思った。

 必死で『災禍(さいか)』を探した。

 探す方法はただひとつ。

 気配を探る。

 色々な人の側に近づいて、気配を探る。

 それしか方法がない。


 目の前でその存在を焼き付けられた私達には『災禍(さいか)』の気配がわかる。

 逆に、私達にしか『災禍(さいか)』はわからない。

 だから、人を使うこともできず、地道に色々な場所で色々な人を探った。


 うっすらと『災禍(さいか)』の気配がする人を調べていたが、間に合わなかった。



 国が、滅びた。

災禍(さいか)』は、その人物の持っていた水晶玉だった。



 私達は『災禍(さいか)』を追うことを決めた。

 もう二度と国を滅ぼすようなことを起こさないために。

 もう二度とたくさんの人を死なせないために。


 それなのに、またも国が滅びた。

 王にはべった美しい女性が『災禍(さいか)』だった。




災禍(さいか)』は姿が一定ではない。

 人の姿をしていることもあれば、宿主の影として取り憑いていることもある。

 器物として宿主の側にあることもある。


「『災禍(さいか)』を探す」というのは、広い砂浜の中からたった一粒を見つけるような途方もないことだった。


 それでも、手がかりがないわけではない。

災禍(さいか)』は強大なチカラを持っているため、何か術を行使するときには大きな霊力のゆらぎが起こる。

 この世界で最初に『災禍(さいか)』の気配に気付いたのも、これがきっかけだ。

 大きな霊力のゆらぎが起こったら駆けつけ、確認することにした。


 そして『災禍(さいか)』という存在自体のこと。

『強い望みを持つモノの強い願いを叶えるモノ』だというならば、急激にチカラをつけた者の側にいるのではないか。

 そう考え、急成長の兆しをみつけたら調べるようにした。

 どういうわけか私達姫は身分の高い家に生まれ変わることが多かった。

 そのため、野望を抱き急成長を遂げる人物を知ることができた。

 そうして何度か『災禍(さいか)』による滅亡を未然に防ぐことに成功した。

 でも『災禍(さいか)』本体を見つけることも、滅することもいまだにできていない。


 

 前の身体のときには織田信長に目をつけた。

 尾張の小大名から天下目前にまで駆け上がった人物。

災禍(さいか)』の気配もついていた。

 しかし織田はちがった。

 となれば、誰?

 

「『災禍(さいか)』の『宿主』は、羽柴秀吉」


()る』ことに長けた菊様が断言した。


 それから晴明さんも手伝ってくれて羽柴秀吉を追いかけた。

 なんとか秀吉の側に近づき『災禍(さいか)』の本体を見つけようと探っていた。

 そこで私も生命が尽きた。



 霊力を回復させた状態で魂も傷ついていなかったからだろう。前の身体で死んでから十年経たないうちに転生した。

 なんとか動けるようになってから先に転生していた菊様達に合流した。


 秀吉の『願い』はまだ満願となっていないらしい。

 そして再び『災禍(さいか)』の本体を見つけるために秀吉を探っている。



 あとちょっとで『災禍(さいか)』を見つけられそうなのに、なかなかみつからない。

 晴明さんから教わった陰明術で式神を作り秀吉につけたが、すぐに見破られて文字どおり破られた。

 他にも色々な場所や人に式神を忍ばせ、調べる。


 その結果予測されたこと。

 多分、今『災禍(さいか)』は、男の子の姿をして秀吉の小姓のひとりになっている。


 そこまではわかったけれど、なかなかその小姓が捕まらない。

 私達が顔を出しても違和感のない秀吉の側室達の館には来ないからだ。


 式神では、どんな人がどこにいるかはわかっても、その気配はうっすらとしかわからない。

 時折見かける秀吉からは、変わらず『災禍(さいか)』の気配がする。

 つまり、まだ側に『災禍(さいか)』がいるのは間違いない。


 隠形の術を使って公務の場所にも忍びこんだ。

 間違いなく『災禍(さいか)』がいる。わかる。

 気配を感じるのに、近寄るとその気配が消えてしまうのだ。


災禍(むこう)』も私達の気配がわかるのだろうか?

 邪魔されたくないと思っているのだろうか?


 式神も、安倍家の人も使っている。

 理想は対象の小姓をみつけ、印となる札や石をつけられたらいいんだけど。

 そもそも対象の小姓が特定できない。

 あとちょっとで見つかりそうなのに。


 姫達と守り役とであちこちに出入りし、術を使い、気配を探り、調べる日々を送っている。





 生まれ変わった私がなんとか動けるようになって、菊様達と合流してすぐに晴明さんが来た。

 菊様がいたここは安倍家の館だからバレるのも仕方ない。


 転生したことを黙っていたことをまず叱られた。

「心配してるんですよ!?」と訴えられては「ごめんなさい」としか言えない。


 昔々一度だけ、生まれ変わってすぐに黒陽が晴明さんに連絡をとったことがある。

「深い意味はなく、ただ挨拶だけのつもり」で連絡したら、すぐさま晴明さん本人がとんできた。

 そして出産直後のまだ落ち着かない家族にむかって「この姫は自分の恩人だ」「ぜひ安倍家でお世話させてほしい」などと迫り、生まれたばかりの娘を手放すことを嫌がった家族と揉め、大騒ぎになったことがある。


 陰明師が、それも希代の大陰明師が赤ん坊を『判じる』意味がわかってないんじゃないかしらあの方。

 ともかくその騒ぎを経験した私達は、家を出るときまでは晴明さんに連絡を取らないことを決めた。


 いつもものすごくお世話になっているけれど。

 迷惑も心配もたくさんかけていると理解してはいるけれど。

 恩を感じて大切にしてくれていることもわかっているけれど。


 だからって、甘えるのは『ちがう』と思う。

 これは私達の問題だから。

 私が罪を犯したせいでたくさんの人に迷惑をかけているのだから。

 だから、晴明さんの手を借りるのは最小限にしないといけない。

 ちゃんと『対価』も渡して、対等の関係でいないといけない。

 甘えるのも、あの程度のことで恩着せがましくふるまうのも『ちがう』と思う。


 だから、今回生まれ変わったときも、晴明さんには連絡をとらなかった。

 黒陽が他の守り役には連絡してくれていた。

 でも「動けるようになったら合流するから、それまでは晴明には黙っていてくれ」とお願いしていた。




 案の定、この安倍家の館に入ってすぐに晴明さんは飛んできた。

「青羽を呼びましょう」と提案されて、反射的に「ダメ」と言った。


 青羽さん。トモさん。

 私の『半身』。私の唯一。


 あの人を巻き込みたくない。

 あの人にはしあわせに暮らしてほしい。


 晴明さんはこんこんと青羽さんを呼ぶ利点を並べる。

 青羽さんはあれからものすごくがんばっていたらしい。今では国でも指折りの退魔師になっているという。

 誇らしい気持ちに、あわてて首を振る。


 そんなの関係ない。

 あの人を巻き込んじゃいけない。

 

 あの人は私の唯一だから。

 あの人にはしあわせでいてほしいから。



 晴明さんと押し問答をしていたら、菊様に見つかった。

 晴明さんがぺらぺらと青羽さんのことを話し、それを聞いた菊様に怒られた。


「使える駒があるんならさっさと出しなさい!」なんて、ひどいと思うの。


 あの人は駒なんかじゃない。

 あの人は、私の――。


 私が反論することもできず「でも」「だって」とうじうじしている間に、菊様が晴明さんに命令していた。

「さっさとその駒呼びなさい」と。



 あの人を巻き込みたくない。

 それは本当。

 でも。


 あの人にまた会える。

 そう思うと、心が浮き立つ。

 うれしくて、そわそわしてしまう。

 そんな自分があさましく、情けない。


 あの人はどんなひとになっているかしら。

 晴明さんも立派な男性に成長していた。

 きっとあの人も立派な男性になっている。


 会ったら、手をつないでくださるかしら。

 笑ってくださるかしら。

 それとも、晴明さんみたいに「すぐに連絡して!」と怒るかしら。


 子供の私を見てがっかりされるのではないかしら。

 あの人は二十五歳になるはず。

 私は年が明けたら四歳になる。

 並んだら親子のように見えるに違いない。

 それでも、以前のように笑ってくださるかしら。



 あの人の話を聞いただけで、「呼ぶ」と言われただけで、こんなに心が乱される。

 これでは『災禍(さいか)』を探すどころではない。


 私は、弱い。弱虫だ。


 もっと強くなりたいのに。

 罪を償えるようになりたいのに。


 私が迷ったり落ち込んだり浮かれたりしているのにも関わらず、肝心の青羽さんは来ない。

 私がなかなか「是」と言わなかったせいで連絡が遅れ、退魔に出かけてしまっていたと晴明さんが話す。


 ホッとしたような、がっかりしたような。


 その後も年末年始があったりして、青羽さんは合流できないでいた。

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