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戦国 霊玉守護者顚末奇譚  作者: ももんがー
第一章 恋する少年
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第十六話 霊玉守護者

 その日の夜には竹さんが護り袋をくれた。

 寺で扱っている護り袋だが、中にはあの丸い石が入っているのがわかる。


 竹さんが自ら俺の首にかけてくれた。

 うれしくて照れくさくてニヤニヤしてしまう。

 お互い顔を見合わせて笑いあっていたが、不意に竹さんが抱きしめてくれた。


 竹さんが! 

 俺を抱きしめてる!!


 いつもは俺が竹さんの頭を抱きかかえるようにするのに、今日は逆だ。

 初めて竹さんが抱きしめてくれた喜び。

 竹さんに包まれる心地よさ。

 多幸感にめまいがする。


「貴方を護ってくれますように」


 その言葉が耳に入ってきた途端、理解した。

 もう、お別れなんだ。


 じわりと涙があがってきそうになるのを、ぎゅっと目を閉じることでこらえる。

 竹さんの背に腕をまわし、抱きしめる。


 こんなに大好きなのに。

『半身』なのに。

 別れたくない。

 一緒にいたい。


 竹さんが腕をゆるめたので、仕方なく俺もゆるめる。

 離れたくない。

 でも、ずっと抱き合っているわけにもいかないこともわかっている。

 わかっていても、苦しい。


 何も言わずうつむいている俺を、竹さんが心配そうにみているのがわかった。

 たがらあわてて笑顔をむける。


「ありがとうございます。大切にします」

「護りはつけましたけど、無茶はしないでくださいね?」


 心配してくれるのがうれしい。


 本当は「貴女がいてくれればいいじゃないですか」と言いたい。

 言いたいけど、言えない。

 だから、せめて心配させないように、にっこりと笑った。




 修行最終日。

 明日には晴明も黒陽も出立する。

 もちろん、竹さんも。

 今日は竹さんも調子がいいからと、木陰で修行を見守ってくれている。

 竹さんが見てくれているだけで張り切ってしまう俺は馬鹿だと思う。

 格好いいところを見せたいが、そんな手心を加えてくれる晴明ではない。

 今日も今日とてボロボロにされる。


 数日前から練習していた霊力の刀は形になった。

 晴明の木刀と打ち合っても消えなくなった。

「もっと霊力操作の練度が上がれば、使い物になるだろう」と晴明も黒陽も言ってくれた。


 風の術も色々と試す。

 こちらも「この調子で練度を上げていけ」と二人に言われる。

 地道に修行するのが強くなる一番の秘訣のようだ。

 明日からはひとりでがんばらないといけない。

 喉の奥が急に苦くなったが、気付かないふりで風を集める。


 ふと思いついた。


「昨日の竹さんみたいに、風の霊力を極限まで集めたらどうなるかな?」


 竹さんが作ってくれた守護石は、水の霊力を集めて固めたものだと話してくれた。

 風の霊力でもできるかな? と晴明に話をふると、晴明も「どうなるだろう? やったことないな」という。


 ちょっと試しに。と、手のひらに霊力を集めていく。

 風の術を使うのではなく、霊力だけを集めて固めるように。


 ぎゅううぅっ、と風が集まる。

 竜巻の中心になったようだ。

 霊力操作をしていると、突然ナニカを感じた。

 身体の中心で風が渦巻いている。

 俺の中の金属性の霊力が固まっていくような。

 霊力をためる『器』から湧き出すような。

 ナニカが、俺の中に集まっていくような。


 手のひらに集めるはずだった風が、俺の身体の中に集まっていく。

 ぎゅううぅっ。

 押し固める。

 勢いのまま拳を握る。

 竹さんの作ってくれた守護石が頭に浮かぶ。

 あんなふうに、まるく。かたく。

 そう考えた、その途端。


 ぽん。


 身体のどこかに、ナニカがおさまった。


「――青羽?」


 呆然とする俺に、晴明が声をかける。

 突然風がおさまったので、心配してくれているらしい。


「どうした? 大丈夫か?」


「――うん。…なんか、」


 にぎにぎと手を開いたり握ったりしてみる。

 なんだろう? ナニカが来た? 何だ?


 木陰にいた竹さんが肩に黒陽を乗せたままやってきた。

「どうしました?」と心配そうだ。


「いや、なんか、なんだろう?」


 うまく説明できなくて、自分の手をみたまま説明する。


「風の霊力を極限まで集めたら、昨日の竹さんみたいに石ができるかなって、実験してみてて…」


 ぐっと握った左の手の中に、ナニカがある。

 ひらくと、そこには石があった。

 

 一寸ほどの大きさの丸い石。

『金』と刻まれた透明な玉の中は、白い渦が踊っていた。


 何だコレ。


「それ――!」

 竹さんが驚いた声を上げる。

 黒陽も目を見開いて驚いている。


「『(まが)』の、霊玉――!」


「霊玉?」


 きょとんとする俺とは反対に、晴明は「もしかして、あの!」と驚いていた。


 竹さんと黒陽がしどろもどろに説明してくれる。




 昔、とてつもない霊力のゆらぎを感じた。

災禍(さいか)』かとかけつけてみれば、一人の男が『(まが)』となり殺されていた。

 その上『()』になろうとしていた。

 憎しみや恨みといった負の気持ちからできる『場』は、妖や悪霊を生み、集め、災厄を起こす原因になる。


 それはまずいと浄化しようとしたがうまくいかず、ならば封じようと試みた。

 が、男の霊力はとてもとても大きかったので、竹さんでもひとつに封じることができなかった。

 ならば滅しようとしたところ、一人の僧の霊が止めてきた。


 これは自分の子だと。

 滅するのは許してくれと。

 霊力が強いことが問題ならば、霊力を切り離すとか、魂だけ封じるとかできないかと。


 そこで竹さんは男の魂はその地に封じ、男の霊力を五つに分けて、都のあちこちに飛ばした。

 自然の中で、あるいは人の手で清められ、浄化しますようにと願って。



「そんないきさつがあったのですか」


 晴明が感心したようにうなずく。


「晴明さんも知ってたんですか?」


「噂に聞く程度で、現物を見たのは初めてですが」


 竹さんの問いかけに、晴明も話してくれる。


 木火土金水それぞれの強い霊力を持つ者に託される『霊玉』があること。

 霊玉を守る者は『霊玉守護者(たまもり)』と呼ばれること。

 その『霊玉』にはとてつもない強いチカラが込められていること。


「言ってみれば、その属性最強の証みたいなものですよね」

「今はそんな扱いになっているのか…」


 晴明の言葉に黒陽があきれたようにつぶやく。


 え? てことは、俺、金属性最強?

 いやいやそんな。


「まさか属性の霊力を集中して集めたら出てくるなんて、思ってもいませんでした」


 つまり、誰もやらなかったことをやったから『霊玉(これ)』が来たと。

 たまたまだと。

 まあ、そうだろうな。



「かなり浄化が進んでいますね」


 俺の手のひらの霊玉をみながら竹さんがうれしそうに言う。


「もう何百年かで浄化できそうですね。よかった」


 うれしそうな竹さんに、俺もうれしくなる。

 きっとずっと気にしていたんだろう。

 どこか安心したような顔だ。


「これからは、青羽さんが霊玉を清めてくれるんですね」


 うれしそうに、まぶしそうに竹さんが俺を見つめる。

 なんだか頼りにされているようで誇らしい。


「私達の判断が正しかったのか間違いだったのか、わからないけれど」


 霊玉を見つめる竹さんの声は弱々しい。

 きっと今でも迷っているのだろう。


「貴方ならばきっとこの霊玉を清めてくれる」


 祈るような言葉に、背筋が伸びる。

 そんな俺に、竹さんはペコリとお辞儀をした。


「よろしくおねがいします」


「竹さんの助けになるならば、喜んで」


 俺がこの霊玉を持つことで竹さんの心を少しでも軽くできるのならば、望むところだ。

 いくらでも浄化に協力してやる。



 基本的には持っておくだけでいいと説明される。

 俺が正しい心で生きるだけで、霊玉も俺の影響を受けて正しく在れるのだと。

 それが浄化になるのだという。

 その霊玉が本体の魂に影響を与える。

 放っとけばいいなら、なおさら俺は問題ない。


 霊玉は霊力の塊のようで、霊力を散らすとどこかに行った。

 再び集中して霊力を集めると、左の手のひらのなかに現れた。

 不思議なものだな。



「それにしても、なかなか複雑な術式ですね。

 私でも読みきれない」


「そうなんだ。ものすごく大変だったんだ」


 晴明の感心したような言葉に、黒陽は苦々しげに言う。


「おかげで霊力が空っぽになって、そこを『悪しきモノ』に狙われた。

 死にかけたところを、智明に助けられたんだ」


 じゃあ、ある意味その『(まが)』のおかげで『智明』と会えたのか。

 そのチカラの一部分を、生まれ変わりである自分が手にしている。

 なんだか不思議な巡り合わせだ。

 


「自分の子だという僧と話したのですよね?」


 晴明の問いかけに「そうだ」と答える黒陽。

「そのせいで滅することができなくて…」とぶちぶち言っている。


「『名』は聞かなかったのですか?」


「「………は?」」


 竹さんも黒陽もきょとんとしている。

 これは。


「イエ。『名』を――『真名』を知っていれば、術がかけやすくなるでしょう?

 聞かなかったのですか?」


「「…………!」」


 今気が付いたんだな。

 この主従、こういうところあるよな。

 しっかりしているようで、どこかぬけてるんだ。

 晴明も苦笑している。


「姫宮と黒陽様の二人だけでこれだけの術式を組んで実行したのですか?」


「いや。白露と三人だ」


「うっかり主従とおっちょこちょいか…」


 ボソリとつぶやかれた言葉に思わず「ブッ」と吹き出した。


「おま、『うっかり主従』って――!」

「私じゃない。ある方がそう言っていたんだ」


 誰だそんなぴったりな名付けをしたのは!

 腹筋が死ぬからやめてくれ!


 ボソボソと話している俺達の言葉は、当のうっかり主従には聞こえていないようだ。

 自分達のうっかりで名を聞かなかったという事実に打ちのめされていて、こちらの声は聞こえていないようだ。



 そうして俺は『(ごん)』の『霊玉守護者(たまもり)』となった。




 寺に報告したら、大喜びされた。

「我が寺から『霊玉守護者(たまもり)』が現れた!!」と、もうお祭り騒ぎだ。

 そんな大したもんか? と思うが、退魔師の間では『霊玉守護者(たまもり)』とは『属性最強』と有名らしい。

 作った当人である竹さんと黒陽がドン引きする喜びようだった。

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