第十四話 修行開始
めずらしくちょっと短めです
晴明の修行は、戦闘に特化したものが多かった。
黒陽との修行内容をやってみせたところ「基礎はそれでいい」と太鼓判を押してくれた。
今後も続けるように言われる。
金属性の術を色々と試した結果、俺は特に風の術に適正があった。
錬成能力は竹さんの霊水や『主』達に聖水を作るので自然と上がって行くだろうということになり、風の術を身につけることになった。
晴明がここにいられるのは一週間。
それ以上は寺に迷惑がかかる。
仮にも安倍家の『主座』だ。
そんな男が退魔師の寺に長逗留しているとあれば、あちこちから根も葉もない噂を立てられる。
火のないところに煙を立てられる。
竹さんのことだって、どんなふうに漏れるかわからない。
一週間で、修行の基礎を身につける。
必死に晴明に食らいついていった。
晴明が一番最初にやったことは、結界を張ることだった。
何でそんなことを? と思ったが、すぐに納得した。
晴明が、実力の一端を見せてきた。
ドウ! としか表現できない。
晴明から強い霊力がドッとあふれた。
こんなにすさまじい霊力を持っていたなんて!
量もトンデモナイが、質もトンデモナイ。
側にいるだけでひれ伏したくなる。
「普段は抑えてるんだよ。
抑えるのもいい訓練になるぞ」
あっさりと、簡単そうにそう言う。
が、これだけの霊力を抑えるなんて、一体どれほどの修行を積めばできるんだ?!
汗がとまらない。
震えもとまらない。
かろうじて立っているだけだ。
それなのに、晴明はニヤリと笑った。
「今から『威圧』をかけるからな。
しっかり耐えろよ」
そして。
気を失った。
水をぶっかけられて起こされる。
またすぐに晴明の霊力にさらされ、威圧を受ける。
『主』の霊力にさらされるのもキツいが、あのときは黒陽が一緒にいた。
「多分黒陽様が結界かなにかで護ってたんだろう」と晴明も言う。間違いないだろう。
晴明の霊力を受けたらわかる。
強い霊力は、それだけで『チカラ』だ。
霊力を上げるためにも、黒陽に言われた霊力操作の訓練を地道にやるよう指導される。
何度も何度も威圧を受け、倒れ、水をぶっかけられる。
正直くじけそうだ。
そんな気持ちになったときに限って「やめるか?」なんて意地の悪い笑みで言ってくる。くそう。
「やめない」
やめたら、竹さんといられない。
「もう一度、おねがいします」
そしてまた気を失う。
自分の弱さにがっくりする。
戦闘訓練だと言って、木刀で打ち合うことになった。
仮にも武家の子だ。剣術は物心ついたときからやっている。
寺に来てからも修行を欠かしたことはない。
武闘派のこの寺では、練習相手にも事欠かない。
それなのに。
晴明はあっさりと俺の木刀をあしらう。
明らかに俺より上の実力だ。
「陰明師! なら! 剣術は! いらない、だろ!?」
「この乱世に何言ってる。持てる力は何でも得ておくべきだろう?」
これほどの実力だから、寺に来るときたったの四人で来れたのか。
「あの護衛達は父を守るためにつけた護衛だぞ。
私は自分の身は自分で守れる。
あの人は、まあ、並だからな」
お前の『並』はどれほどの実力だ!?
一般的な『並』とは、絶対違うだろう!?
結局剣術でもボコボコにされた。
骨を折られたが、晴明が術で治してくれた。
すごいな。
ボコボコにして、骨も心も折って。
地べたに倒れ悔しさに泣いているときに限って「やめるか?」なんて聞いてくる。
意地の悪い狐の笑みだ。
くやしい。くやしい。
でも、仕方ない。俺は弱い。
弱いから、竹さんといられない。
だから、俺の答えは決まっている。
「やめない」
「もう一度、おねがいします」
風の術も教わる。
晴明のお手本はつむじ風だったのに、がんばって絞り出した俺の風はそよ風とも言えなかった。
それでも「最初から出せるとはな」と晴明が驚いていた。
話をして、術の理論を固めて、成功例を何度も見せてもらって、霊力の動きを分析して。
一日目の夕暮れに、やっとつむじ風が出せた。
ヘトヘトのボロボロで房に戻る。
世話役達改め兄弟子達が「うわぁ」ともらしていた。
対する晴明はさっぱりした姿のままだから、余計に俺がひどく見えるに違いない。
竹さんは眠っていた。
黒陽が言うには、目が覚めたときに色々と話をしたらしい。
それで「少し落ち着いた」と言う。
黒陽と晴明と三人で食事を食べながら、お互いに報告しあう。
二人が俺に「夜はちゃんと寝ろよ」と釘を刺してくる。
何でバレたんだろう?
「お前のやりそうなことは簡単に予想がつく」
「最初に助けてくれたときも、こっそり抜け出して修行するところだったと話していただろう」
ぐうの音もでない。
「それよりも霊力を圧縮しろ」と教えてくれる。
霊力をためる『器』の霊力を圧縮してすき間を作り、そこにまた霊力を込める。
それを数回繰り返して、もうこれ以上入らないというまで入れたら、身体になじませるために霊力を循環させる。
それを毎日毎晩繰り返したら、かなり霊力量が増えるという。
「お前はまだ十歳だ。これから身体ができてくる。
食事、運動、休息。このどれが欠けてもダメなんだぞ」
黒陽にこんこんと説明される。
「普段は飄々としているくせに、姫がからむと途端に無茶をする」と愚痴られる。
「それ、『智明』の話だろう?」と文句を言ったら「お前だってやるだろうが」と怒られる。
反論しようとして、口をつぐむ。
今やっている修行だって、十分無茶だと気付いたからだ。
「とにかく夜は寝ろ。まずは身体作りと話しただろう?」
怒られて布団に押し込まれる。
気がついたら朝になっていた。
抜け出すことも霊力を圧縮することもできなかった。




