溺れる
この前テレビでブルーピリオド 第9話(注1)を観ていたら、
龍二が八虎に言ったセリフ
「君は溺れる人がいたら救命道具は持ってきても海に飛び込むことはしない。」
橋田が八虎に言ったセリフ
「溺れているときの息苦しさとか海の暗さは溺れた人同士でしか
共有できへんやろ」
が心に響いた。
学生の時分、水泳部に所属していた私は、
救命訓練に参加したことがあった。
その際、指導員から溺れている人がいても、
むやみに近づかず、体力を消耗して大人しくなったら
(溺れて、ぐったりしたら)、
救助を行うように指導されたことを思い出した。
もちろん浮き輪などの補助具が手元にあれば、先に投げ込むのだが、そうしたものがない場合の心得として、教わった。
聞いた当初は、随分えげつないなあと思った。
溺れて苦しんでいる人を目の前にして、
もがく元気さえもなくなるまで、只見ているわけだ。
そして相手がまさに死にそうになってから登場というわけだ。
ヒロインの危機になると颯爽と登場する正義の味方じゃあるまいし
と思ったものだ。
最も、指導員の説明によると「溺れる者は藁をもつかむ」という訳で、下手に近づいて掴まると、
救助者もろとも溺れてしまうからだそうだ。
説明を聞けば納得だが、目の前に溺れた人がいる場合、
中々冷静に判断できるものではないだろう。
さて私は溺れたことがない。
幼い時から、夏は戦争中に父が疎開していた伊豆半島の家で過ごしていたから、我流ではあるが泳ぎは達者であった。
伊豆半島に家があると聞けば、別荘か? 金持ちだなと思われるかもしれないが、実際は木造平屋で、便所は汲み取り式、
なんと風呂は薪で沸かすというあばら家だった。
クモをはじめいろいろな虫がよく出るので、
いとこは「クモ出荘」と名付けたほどだ。
中々いいセンスだと思った。
泳ぎが達者だったので、中学では近所のスイミングスクールに通い、学生時代は体育会水泳部に所属していた。
そこで、救命訓練に参加したわけである。
さて、ニュースによると新型コロナに感染して、
肺炎から呼吸困難になる方がいるそうだ。
そうした方の話によると、「陸にいて溺れる」ということらしい。
自分も最初よくわからなかったが、
今年移植片対宿主病(GVHD)の症状が悪化して、
緊急入院した際に 「陸にいて溺れる」を体験した。
いきなりの前言撤回である。
確かにある意味、溺れたわけだ。
口を開けても息ができない苦しみは、
体験した者でなければわからないだろう。
水槽の金魚のようにパクパク口を開けても、息ができないのである。
「目の前がまっくら」という表現があるが、
まさにそれである。
息苦しいなどという生やさしいものではなく
このまま死んでしまうのかと思うくらいの絶望と焦りで、
唯々もがくのみである。
幸い病院の適切な処置のおかげで、棺桶に入らずに済んだ。
新型コロナの怖いところは、軽症でも後遺症に悩まされる方がいることと中等症でも呼吸困難になる場合があるそうだ。
陸で溺れる経験をしたくない方には、
ワクチン接種をはじめ、できるだけ予防処置をされることを
お勧めする。
周りに迷惑をかけるのも、宜しくないが
何より自分が苦しい思いをしないためである。
只、自分はワクチンを接種することができない。
慢性GVHDの治療のために免疫抑制剤の
お世話になり続けているので、ワクチンを打つことができない。
実に残念だ。
人間手に入らないものほど欲しくなるものだ。
自分の服用している免疫抑制剤では、
グレープフルーツを食べていけないものとされている。
無性にグレープフルーツジュースが飲みたい今日この頃である。
注1 ブルーピリオドは山口つばさ先生の作品です。
アニメは令和3年10月1日よりTBS系列で放送中です。