第九話 オオカミ
「おい、リンシャ、そろそろ交代するよ」
トラックの助手席からアモンが降りてきて言った。
「うん、分かった。今、降りるね」
リンシャはトラックの屋根の上から降りようとした。
3人は街を出た後、50キロほど走ったところで街道を外れ、近くの森の中にトラックを止めた。日も暮れてきており、ハナもいることから早めに野営の支度をしたほうがいいだろうとなり、追手に見つからなそうは森を見つけてそこに入った。夕食は携帯食で簡単に済ませ、荷台に簡易ベッドをこしらえ、そこにハナを休ませることにし、二人が交代で見張りを務めていた。
リンシャは暗視スコープを首から下げ、ライフルを脇に抱えていた。屋根から降りようとした時、草の擦れる音がした。
「ちょっと待って、兄さん」
リンシャはアモンに向かって言った。
暗視スコープを覗き込むと、そこには複数の動く物体が見えた。
「何かに囲まれているっ!」
リンシャがそう言うと、アモンはすぐに盾を身につけた。ハナを起こすべく荷台に近づくと、トラックの後方から唸り声と共にオオカミが飛び出してきた。
「うおっ、危ねぇ」
咄嗟に大盾を前に構え、そのまま飛び出したオオカミに叩きつけた。
オオカミは鼻を思いっきり打ち、その勢いで10メートルほど弾き飛んだ。すると周囲から数匹のオオカミが草むらから現れた。少し距離があり、何匹いるかはわからなかったが、確実にトラックを囲んでいた。一匹やられたことから、一斉に襲いかかってくるわけではなく、距離を保ちながら攻撃のチャンスを狙っていた。相手は夜行性のオオカミである。二人も容易に手出しは出来ない。アモンは腰の小剣を抜くとゆっくりと荷台に上がり、ハナを庇うように腰をかがめた。ハナは今日一日の出来事で疲れたていたのか、ぐっすり寝ていている。
リンシャは暗視スコープで周囲を見渡すと、ライフルを傍らに置くと、右手で腰のリボルバーの位置を確認した。左手で腰につけたバッグから手のひらサイズの筒を取り出した。筒の先端には輪っかが付いていた。
「兄さん、目をつぶってっ!」
リンシャは叫ぶと同時に、左手を口に持っていき、輪っかを歯に引っ掛けた。そのまま左手を思いっきり引くと輪っかは筒から抜けた。リンシャはその筒を上空目掛けた投げた。
ピカッ
閃光手榴弾だ。
周囲が一瞬真昼の様な明るさになった。
閃光をまともに見たオオカミ達は一瞬視力を失った。アモンとリンシャは目をつぶったため無事だった。屋根の上からリンシャは腰からリボルバーを抜くと、周囲にいるオオカミを六発の弾で六匹仕留めた。するりと運転席に座り込むとエンジンをかけ
「兄さん、動くよっ!」
と荷台にいるアモンに声を投げかけ、アクセルを踏み込んだ。
ライトをつけるとまだ複数のオオカミがいるのが確認できた。リンシャは構わずトラックを進ませ、森の外を目指した。アモンは荷台でハナを庇いながら、盾と剣で飛びかかってくるオオカミをふるい落としていた。
30分ほど進み、森からだいぶ距離を取った所で、一度トラックを止めると荷造りをし直して、荷台にいた二人も助手席に入った。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん達、何があったの」
ハナも二人に打ち解けてきたようで、二人のことをお兄ちゃん達と呼ぶようになっていた。
「いやね、寝ているところをオオカミが襲ってきたんだよ」
アモンが答えた。
「えっ、オオカミ!」
「でも、もう大丈夫。オオカミは俺たちがやっつけたし、残ったのももうだいぶ離れたからね」
そう言うと、ハナは安心した。
「しかし、これからどうしよっか。さっきの光、大丈夫かな。追手に見られてないかな」
「いやいや、リンシャ。あれはどう考えたって見られていると考えた方がいいだろう。とりあえず、このまま北に進んで、ノーザリアを目指そうよ」
「ノーザリア、大丈夫かな。きっと、明日には俺たちのこと伝わっているんじゃないかな。夜通し馬車を走らせれば一晩で着くだろうし。」
「それもそうだな、ハナちゃんどうする?」
二人の会話を真ん中で聞いていたハナが答えた。
「うん、ノーザリア向かってたけど、本当はその先にあるエルバンテ教会に行きたいの。そこの司祭さんにこの荷物を届けるの」
「そっか、エルバンテ教会か。リンシャ、知ってるか?」
「んー、聞いたことないな。どこかで聞いてみるしか無いかな」
そう言うと、暗闇の荒野を北に向かってトラックを走らせ続けた。
オオカミに襲われた三人は一難潜り抜け、ノーザリアを迂回してエルバンテ教会を向かおうとします。
しかし、その道中には赤髪の剣士ランカの村があります。
アモン、リンシャ VS ランカ
巡り会う三人
このピンチをどうくぐり抜けるのか
無事、エルバンテ教会に辿り着けるのか
次回に続く