第八話 紅い剣
ノーザリアにある教会の一室。
南向きの部屋には大きな窓があり、解放されていた。外からは初秋の若干肌寒い空気がそよそよと流れ込んできている。部屋の中央には二人の男女がいた。
「さて、ランカ君。君はどうしたいのだね」
長身の男は法衣を纏い、窓の外を眺めながら後ろに立つ女性に向かって問いかけた。
「はい、司教様。先ほどから申している通り、今年は不作で民の分を除くとお納めする小麦が足りなくなってしまいます。ですので、どうか来年までお待ちいただけたらとお願いしております」
質問を受けた赤髪の女性、ランカは答えた。
「それでは答えになって無いのですよ」
司教は振り返った。
「”民の分”はあるのだよね。なら、それを教会に納めればいい。それだけじゃないですか」
司教はランカに詰め寄った。
「いえ、それでは民が冬を越せなくなって・・」
「お黙りなさい、ランカ君。君は立場が判っていないようですね。君はスワロー家の当主であり、このノーザリア教区の司祭です。領地がもらえているのは教会のおかげですよね。その教会に奉仕しないでどうするんですか。”民の分”を”あなたが”納めるのです。分かりましたか。もう話は終わりですので、退出願いましょうか」
そう言われると、ランカは唇と噛み締めながら部屋を後にした。
「どうでしたか、お嬢様」
教会の前には一台の馬車が止まっていた。ランカの執事であるセバスが待機していた。
「全く、司教様ときたら、民の分の麦を出せと言ってきました。そんなこと出来るわけないではないですか。他所から麦を買い集めなくてはいけないですかね」
ランカは愚痴を言いながら馬車に乗り込んだ。
セバスは馬に鞭を入れ、馬車を走らせ始めた。馬車はノーザリアの街を出ると西の街道を進んだ。一面の畑は小麦の収穫が終わっており、丸裸になっていた。
ランカは屋敷に戻ると書斎に入り、考え事をした。書斎の壁には三代前の当主、ランカの曾祖父の肖像画がかかっていた。燃えるような真っ赤な髪、右手には槍、左手にはレイピアをもち、戦場で威風堂々としてる『紅蓮獅子』との別名で呼ばれていたレイ=スワローである。その肖像画を見ながらランカはつぶやいた。
「大爺様、私はどうしたらいいのでしょう」
その時、部屋をノックするものがいた。
「お嬢様、司教様からお使いの者が参りました」
全身法衣に身を包んだ使者が入ってきた。
「ノーザリア教区司教がランカ=スワロー司祭に命じる。この地区に入り込んだと思われる不審なトラックを捜索せよ。トラックには10歳前後の少女を誘拐した男二人が搭乗している模様。うち一人は銃を携行している。少女の救出を最優先とし、トラック、男達の確保は二の次とする。また、特別に夜間の外出も認めることとする。健闘祈る。
と、おっしゃっておられました。また、成功の暁には再度面会も許すとのお言葉もいただいてきております。何卒ご武運を」
使者は伝え終わると書簡をランカに手渡し、帰っていった。
「トラック?少女?救出?なんなの?」
ランカは突然のことに頭を捻らせた。使者と共に部屋に入り、ランカの側に控えていたセバスが言った。
「夜間の外出も許可されるとなると、教会にとってよっぼど重要事項なのでしょう。ご命令ですので拒否はできませんな。成功の暁にはご面会されると言うことですので、恩を売るいい機会になるのではございませんでしょうか」
「セバス、そうだな。少女の身も心配だ。すぐに出発の用意を致せ」
ランカはセバスに命じると、愛用のレイピアを腰に下げ肖像画に向かって一礼した。
「大爺様、行ってきます。私を見守っていてください」
教会によってアモンたちは少女誘拐犯に仕立て上げられてしまいました。教会はそのネットワークを使い捜索を始めたようです。
ノーザリア教区の司祭ランカ=スワロー。赤髪のレイピア使いの彼女が二人の前に立ち塞がる。