第七話 強行突破
昼食を軽めに済ませると、アモンとリンシャは出発の準備を始めた。元々、街から街へ渡り歩いている二人であり、荷物は基本的には多くはなかった。一時間もすると身支度が整い、荷物を裏口のトラックに積み込んだ。ハナは肉屋の店主に見つからないようにアモンの盾に隠しながら助手席から車内へ滑り込んだ。
「おやっさん、お世話になったね」
リンシャは店番をしている店主のところへ行った。
「おや、出ていっちまうのかい。急だなぁ」
店主は残念そうに言った。
「すまないね、おやっさん。また戻ってくるから、その時はまたよろしくな」
リンシャは宿代の会計を済ませると、トラックの運転席に座った。
「よし、じゃ、行こっか」
キーを捻り、エンジンをかけると裏道をトロトロと進みサークルへと入って行った。
今いるのは北東エリアであり、サークルは時計回りに回る決まりになっている。従ってぐるり一周近く回らないと北門へは到着しない。サークル沿いにトラックを走らせていると、街の雰囲気がいつもと違っているのに気づいた。町人や商人でない半武装した王国兵が多数忙しそうにしていた。
「兵隊さんが多いな」
アモンはリンシャに言った。
「もし、これがハナちゃんの捜索だとしたら、昨日、俺が見たのは教会の僧兵だから、王国まで動いているってことか」
イシュタール王国はエルバート教を国教としている。そして、それぞれが軍隊を従えており、王国兵は国王を中心として国を守るために、教会兵は教皇を中心に宗教のために存在している。基本的にはこの二つは利害が一致しない限り行動を共にすることはなかったが、今回一緒に活動していると言うことは、このハナという少女はよほど重要な人物なのではないかと思われた。
「ハナちゃん、大変なことになってるみたいだから、ちょっと俺の足の下に隠れてもらっていいかな?」
アモンは少し呑気に座席の真ん中に座っていたハナに向かって言った。
「本当にごめんなさい」
ハナは言われた通り、アモンの足の下、太ももと曲げた膝の下に身を潜ませた。
間もなくトラックは北門に近づいた。
普段は2・3人の門番が適当に通行人の確認をしているだけであったが、今日は10人近くの門番に加え、監督する形で王国兵の姿も見えた。
通行する車は門の手前で一台ずつ止められ、積荷を確認されていた。
「次、こいっ」
リンシャ達の番が来た。リンシャはゆっくりとトラックを前進させると、門番の前で止まった。
「検問だ、積荷を確認させてもらう」
トラックの荷台を確認し始めた。荷台にはアモンの盾の他、食料品をはじめ日用品しか積んでおらず、じきに確認は終わった。
「よし、行け」
OKが出て、リンシャはエンジンをかけると、再びゆっくりとトラックを動かそうとした。
その時、街の中央方向から馬が一頭走ってきた。
「おーい、止まれとまれ。ただいまを以って全ての門を閉鎖する!何人たりとも外へ出ることは出来ないぞ」
馬の上には教会の僧侶が乗っていた。門まで来るとすぐに監督していた王国兵を呼び、門を閉めるように伝達した。
「まずいっ」
リンシャは咄嗟にアクセルを思いっきり踏んだ。するとトラックは急発進し、門に向かって走り出した。周囲にいた門番は一瞬驚いたが、すぐさま状況を把握し、トラックを行かせまいと立ち塞がったり門の鉄柵をおろそうとしたりした。
リンシャはトラックを巧みに操り、門番をかわしながら門の外へと向かった。その時一人の門番が目の前に飛び出そうとした。このまま前に来られるとぶつかってしまう。するとリンシャは右足の太ももに付けていた小型のデリンジャー拳銃を抜き、その門番の足元目掛けて撃った。
門番は一瞬たじろぎ、その瞬間、トラックを走らせ門を通過した。
「待ちやがれ!」
後ろから声が聞こえる。街を囲む塀の上から、門兵がライフルを撃ってきている。荷台の盾に当たったり、トラックのすぐ脇に飛んで来たりしている。
「兄さん、ちょっとハンドル握っていて」
リンシャはそう言うとダッシュボードからリボルバーを取り出し、小物入れの中の銃弾を詰めるとトラックの後方の地面目掛けて撃ち始めた。
着弾するとものすごい煙幕が立ち込めた。
「これでしばらく追っては巻けるかな」
さらにトラックの速度を早め、街の影が見えなくなるまでノンストップで走らせた。
しばらくあいてしまいましたが、続きを書きました。
ハナを連れて逃げる二人。王国と教会とを敵に回してしまいました。無事ハナを送り届けることができるのでしょうか?