第六話 弾丸商店
「こんちは、弾買いにきたよ」
リンシャはカウンターにいる初老の男性に声を掛けた。眉毛と髭が長く、特に眉毛は垂れ下がり、目をほとんど覆い隠していた。男はこの店のマスターである。
「おお、リンシャ、今日は早いね。どうしたんだい」
「いやぁ、明日からちょっと出かけるんで、その買い物さ」
「そうかそうか、で、何がいるんじゃ」
「そうだな、狙撃弾のいいやつを3つと、護身弾を10個もらおうかな」
「狙撃弾なら、いいものが入荷したぞ。ちょっと待っててな」
マスターは奥の棚から小さな箱を取り出した。
「お前にだから見せるが、これは内緒にしといてくれ」
箱を開けると弾丸が九発並んでいた。
「これはな、ちょっとした筋から手に入れたものじゃ。『ブルーローズ』製じゃないが、『ダーティーラット』の狙撃弾じゃ。滅多に手に入らんから、どうじゃ、一つ」
マスターは声を低く、周りに聞こえないようリンシャに言った。
「マスター、こんなもん売ってて大丈夫なんか?」
リンシャは心配そうに言った。
火薬は貴重品で、教会により指定物資にされており、教会の専売部門を通さなくては売買できない。従って、火薬を使っているものは全て教会の管理下にある。
弾丸も然りである。弾丸ギルドに登録している職人が教会から火薬を仕入れ作り、それを教会が認可した商店が売るという仕組みであった。しかし、一部闇ルートで出回る弾丸がある。それらを扱っているのがバレたら教会から認可を外され、逮捕されてしまう。
マスターが取り出したのはそんな闇ルートの物であり、最高級品が『ブルーローズ』であり、次点が『ダーティーラット』であった。
「は、は、は、大丈夫じゃないから、お前さんに進めているんじゃ。お前さん、どっぷり教会に浸かっておらんじゃろ」
「まぁ、そうだけど。しかし、『ダーティーラット』か噂では聞いたことあるけど、見るのは初めてだな。で、どうなんだい性能は」
「そうじゃな、遠くで一発だけ試し撃ちした感じじゃ、初速は十分、ブレも少なく、弾道も綺麗じゃったわ。もっともわしの腕じゃ標準通り飛んだのかわからんがな。正規品のSランクに比べたら段違いじゃ」
「そうか、マスターがそう言うんじゃ、そうなんだろうな。で、一発いくらなんだい?」
リンシャは弾丸をマジマジと眺めながら聞いた。
「わしも早く手放したいから、5万ベルタでどうじゃ」
「5万ベルタかぁ、高いなぁ。もっと安くならない?」
手持ちの小袋の中を見ながら答えた。
「そうじゃな、リンシャはお得意様じゃからな、4万9000ベルタでどうじゃ」
「もう一声っ」
「これ以上は無理じゃ」
「もー、分かったよ、それでもらうよ。護身弾は適当に見繕ってね。それから、こっちの発破用の火薬を小分けで100gちょうだい」
マスターは狙撃弾を一発ずつ紙で包み、護身弾は紙袋に入れた。火薬を天秤で100gちょうど計るとビニール袋に入れれリンシャに渡した。リンシャは受け取ると、小袋から護身弾と火薬の金額を合わせた5万5000ベルタをマスターに支払い店を後にした。
リンシャが部屋に戻るとアモンはすでに帰っていたいた。
アモンとハナは昼食の準備をしていた。焼き立てのパンとコーンスープ、それとオレンジだった。
軽めの昼食が済むと、神妙な面持ちでアモンがリンシャに言った。
「街の様子が変だと思わなかったか?教会の連中がハナの捜索をしているみたいなんだ。パン屋の親父が言っていたが、あちこち聞き込みしていたり、街の出口には検問ができているみたいなんだ」
「何となくおかしいとは思ったけど、そこまでしているんだ。ハナちゃん、君は一体何を運んでいたの?」
リンシャに話を振られると、ハナは困った様子になり、だじろぎながら答えた。
「分かんない。私のお仲間さんはこれはとっても大切なもので、この世界の真実がどうとか言ってたわ」
「この世界の真実だって!?」
リンシャとアモンはびっくりしてお互いの顔を見た。
「一体何なんだよー。厄介なことに巻き込まれそうだね、兄さん。ハナちゃんを見捨てるわけにもいかないし、どうする?」
「もちろん助けるに決まっているじゃないか。かわいい子が困ってるんだ。ほっとけるわけないじゃないか」」
アモンが言うと、ハナは安心した顔をして
「ありがとう」
と言った。
銃は普通に買えますが、弾丸はライセンス制で”教会”が管理しています。ライセンス申請するとランクDから始まり、腕前や知識などにより上がっていき、リンシャは民間最上位のランクSを持っています(アモンはランクDです)。犯罪を犯すと一発で取り上げられます。理由としては火薬が貴重なのと、犯罪抑止を歌っていますが、教会の権力維持の意味合いもあります。