第五話 ハナ
三人はテーブルを囲んで座り直した。
「さて、自己紹介だ。俺はアモン、そしてこいつは弟のリンシャ。兄弟で狩りをして生活をしている。怪しい者じゃないが、そんなこと本人が言ってもなんの信憑性もないか。ははははっ」
アモンが自分とリンシャを指差し言った。少女は二人の顔を交互に見つめ、しばらく黙っていたがやがてゆっくりと話しはじめた。
少女の名前はハナ。南部のカルバから北のノーザリアまで荷物を届ける途中であった。今いるルミエルからカルバは南へ約360km、ノーザリアは北へ約120kmあり、カルバ-ノーザリア間では500kmにもなる。道中、仲間もいたそうだが、追ってから逃げる最中に別れてしまい、今は一人になってしまった。A4サイズのコピー用紙1束ほどの厳重に梱包された荷物を届けるのだと言う。
「そうか、それは大変だったな、ハナちゃん」
アモンは何か考えてから続けた。
「ハナちゃんを追いかけていたあいつ。教会の者だろ。僧衣こそ着ていなかったが、腰につけた短剣、あれは僧兵のもんだ。エルバート教の奴が陽の落ちた夜に出回っているなんてよっぽどだよな」
アモンがリンシャを見ると、へぇそうなんだ的にうなづいていた。
「ハナちゃん、そのブツは何かとんでもない物なのかい?」
「ううん、分からない。私のお仲間さんは中身知っていたみたいだったけど、私は聞いてないの。ノーザリアに行くって言うから、連れてきてもらったの。そしたら、途中から追われるようになって。何かあったら、これをノーザリアのエルサント教会の神父さんに届けるようにって言われて。それでこの街までやってきたの」
ハナが答えた。
「そうか、中身は分からないか。開けるわけにもいかないしな。ノーザリアなんて大人でも三日はかかるのに、子供だけじゃ何日かかるか分からんし、道中も危ないよな。どうだ、リンシャ、かわいいハナちゃんの頼みだ、送っていってやるかい?」
アモンはリンシャに尋ねた。
「全く、兄さんは女性には年齢構わず優しいんだから。それにまだ頼まれてないでしょ。まぁ、退屈していたところだし、今日まとまったお金も入った事だし。気分転換に行ってみますか」
話はまとまり、明日一日準備をして、明後日早朝出発することとなった。
翌朝、朝食を済ませると、アモンとリンシャは買い出しに出かけることとした。ハナは部屋で待機していることとなった。
「んじゃ、ハナちゃん、行ってくるね」
部屋を出る時アモンがハナに声をかけると、後ろからリンシャが足でこづいた。
通りに出ると、すでに街は賑わっていた。
ここルミエルは交通の要衝で人と物とが絶えず行き来している。
アモンは数日の旅に備えた用品の買い出し、リンシャは銃弾の補充に向かった。
『ゴールデン・バレット』
店の入り口に掲げられた看板に金色の字でデカデカと書かれていた。
リンシャは入り口でバレットライセンスを提示すると、店内へと入っていった。
店内はランクごとにエリアが分かれていた。
この世界では銃は誰でも買える。ただし銃弾は決められた者しか買えない。銃の腕前や知識、犯罪歴などの審査を経て、教会が発行したライセンスが無いと買えない。ライセンスにはランクがあり、一番上がSであり、A、B、Cときて、一番下がDになっていた。ランクによって買える銃弾の種類が異なり、上に行くほど、高性能、高威力のものが手に入るようになっていた。また、火薬は貴重品であり、価格も高くなっていた。
リンシャはランクSであった。
店の一番奥の薄暗くなっている一角、ランクSの銃弾を扱っているコーナーへ行った。
少女の名前はハナ。なぜ教会から追われているのか。
成り行きで行動を共にすることにした二人。
旅の準備で街へと繰り出す。