第三話 追手
サークルは道幅15mはあったが、道を一本入ると途端に狭くなり枝分かれをして行く。車がすれ違うのがやっとな程だった。そして道は商店や問屋の裏口へと続き、そこでUターンをし、再びサークルへと戻って行く。まるで肺を栄養する血管のようであった。この車の通る道は人々が行き交う生活路とは交差しないようになっていた。
リンシャは彼らが寝床にしている肉屋兼宿屋『ジューシーな安らぎ亭』の裏でトラックを止めた。
「おやっさん呼んでくるから、兄さんは待ってて」
そう言うと運転席から飛び降りると、勝手口をまさに勝手に入っていった。
「おーーい、おやっさーん、リンシャだよー。戻ったよーー」
建物の奥、肉屋としては店頭に向かって呼びかけた。
「おーー、ちょっと待っててなー」
店番をしていたこの肉屋の主人が顔を出した。
小太りで脂ぎった顔をしており、まさに毎日脂肪の多い肉を食べてます的な中年男性だった。
「すまん、すまん、待たせたな。で、今日はどうじゃった?」
「えへん、見て驚くな。今日のはすごいぞ!」
リンシャは右手の人差し指で鼻の下を擦ると、勝手口へ飛んで行った。
リンシャに続いて主人が裏口の駐車場に姿を現すと、アモンが荷台のバッファローを下ろそうとクレーンを操作していた。
「おお、立派なホワイトバッファローじゃないか!」
ドスドスと歩いていた主人は一眼見るとボールが弾けるようにバッファローに飛んでいき、全体を隈なく観察しはじめた。
「兄さん、あとは俺がやっとくから、買い出しに行っていいよ。今晩は豪勢にしようね」
「おう、任せておけ。お前の好物も探してきてやるよ」
アモンはそう言うと、荷台に置いてあった大盾を背負い、その上からマントを羽織ると、主人に断り勝手口から店頭へ抜け、商店街へと足を運んだ。
日も暮れており、買い物する人よりも外食や観劇などの娯楽、あるいはデートするカップルなどで街は賑わっていた。アモンは行きつけの食料品店や雑貨屋をいくつか周り、両手に荷物を沢山抱えていた。
最後にリンシャの好物のパイナップルを買おうと果物屋に寄った。
「こんばんはー、パイナップルあるかい?」
店の女将に言った。
「あら、アモンちゃん、いらっしゃい。ちょうど最後の一個あるわよ」
女将は店頭の棚からパイナップルを取ると、袋に詰めようとした。
その時アモンの背中、正確には背中に背負った盾に何かがぶつかった。アモンが振り返るとそこに少女が倒れていた。
「大丈夫かい、嬢ちゃん」
アモンは腰を曲げて少女に顔を近づけた。その時人混みの方から、
「おい、あのガキはどこへ行った。探せ、探せ!」
と怒鳴り声が聞こえた。
「嬢ちゃん、追われているのかい?取り敢えず、こいつの後ろに隠れな」
アモンは振り返ると背中の大盾の影に隠れるように促した。
女将が袋詰めしたパイナップルを持って、アモンに会計しようとすると、先ほど聞こえた声がアモンのすぐ後ろまで来ており、女将に聞いた。
「女将!10歳くらいの少女見なかったか?」
「さあね、見なかったね。こんな時間に子供が出歩いてたら気づくはずさ」
「そうか、すまねえな。ありがとよ」
声の主はそう言うと、来た方向とは反対に向かって行った。
今日で三日目。三日坊主にならないように頑張ります。
初めてで右も左も分かりませんが、よろしくお願いします。