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第二十二話 枢機卿

 イシュタリア王国。

 大陸の東海岸のほぼ中央に位置する比較的大きな国。先の大戦で活躍したとされるイシュタリア家が納める国である。海の向こうで発生したとされる太陽を神と崇めるエルバート教を国教としていた。

 首都イシュタリアは東西南北から人が集まり、非常に大きな城塞都市であった。中央に位置する一際大きいイシュタリア城。その東の港湾部にイシュタリア城より一回り小さいエルバート国教会があった。


 中央大聖堂に白い法衣を纏った青年がいた。青年は大聖堂の正面に掲げられた太陽を模した偶像に向かって祈りを捧げていた。

 そこへ扉を開け、黒い法衣を纏った男が入ってきた。スリストン司教だった。


「ベルバーグ枢機卿様。お祈りの最中失礼します」


 スリストンは恐る恐る話しかけた。


「やぁ、これはスリストン司教。遠路はるばるご苦労様でした」


 ベルバーグと呼ばれた青年は振り向くとスリストンに近づいた。ベルバーグとスリストンは親と子ほどの歳の差があった。年少者のベルバーグが近づくと、年長者のスリストンは跪いた。


「司教、急な呼び出しで申し訳なかったです。お疲れでしょうから、私のお部屋でくつろぎながらお話ししましょう」


 ベルバーグは優しい笑顔で話しかけ、手を取った。


「え、枢、枢機卿様のお部屋ででございますか」


 ベルバーグの誘いにスリストンは怯えながら答えた。




 ベルバーグ枢機卿には枢機卿としての執務室の他に私室があった。

 執務室ではなく私室に通された。教会関係の時は執務室を使用するのだが、そうでない時は私室を使った。ベルバーグの私室は、およそ教会の指導者らしくない、非常に絢爛豪華であり、並の王室のそれなど比にならないほどであった。その私室の通されたスリストンはソファーに座り、縮み上がっていた。

 向かいにはベルバーグが座った。


「で、スリストン、例の件はどうなった」


 二人の間にあるテーブルに土足のまま足を放り投げたベルバーグが言った。口調も先ほどまでとは違い、荒々しく見下すようであった。

 血の気の引いた顔で、恐々と答えた。


「は、はい、えっと、その、例の者を処刑しようとしましたところ、侵入者に襲われまいて、奪われてしまいました・・・」


 それを聞くとベルバーグは血相を変えた。


「なんだと!あれを逃したと言うのか!お前はことの重大さを分かっているのか!」


 ベルバーグは立ち上がると、ソファーや机、観葉植物などを当たり散らした。


「あれを救いに来た者がいるってことは、あれと繋がっている組織があるって事だ。例の情報もその組織に伝わっている可能性が高いではないか!」


 ベルバーグは苛立ちながら続けた。


「こんなことが本国に伝わって見ろ。私の首が危ういではないか。なんとしても情報を取り戻し、その情報から派生したものを潰さなくてはいかん。あれはノーザリアの北の教会にいたのだったな。ならばノーザリアより北をしらみ潰しに探すまでだ。ホーク領まで含めて探し出せ。私の兵と、王国の兵を使っていい。王には私から話をしておく。いや待て、お前じゃ不安だ。指揮はジッダに任せる。お前の処分は全て終わった後だ。すぐにジッダを向かわせる。お前はとっととノーザリアに戻って準備しておけ」


 ベルバーグが一気に捲し立てると、スリストンは恐縮して一言も発することが出来ず、部屋を後にした。


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