第二話 街へ
荷台で銃を構えていた少年はアモンに向かって手を振ると、運転席に乗り込み、トラックを動かした。
トラックは地面に横たわるバッファローのすぐ横に止められた。
少年は運転席から降りると言った。
「兄さん、どうだい?頭のど真ん中に一発入ったと思うけど」
アモンがバッファローを確認すると、確かに頭部が中心で潰れていた。
「いやぁ、さすがリンシャ、いい腕だ。これだけ離れていたもしっかりと仕留めてくれるから、俺も助かるよ」
ホワイトバッファローは警戒心が強い。仲間を守るためでも周囲に敵が複数いる場合は逃げることを優先する。一対一の場合は仲間を逃すため、一匹が残り戦いを挑む。人とホワイトバッファローとではその体格差のため、人間では到底太刀打ちできない。通常ホワイトバッファローを狩ろうとする場合、大勢で群れ全体を周囲から取り囲んで、疲れて群れから脱落した個体を仕留める形で行われていた。そのため自然と体力の無い子供の個体を狩ることが多くなる。
「それにしてもいいバッファローだな。体も大きいし、肉もしまっている。皮も見た感じほぼ真っ白だ。こいつは高く売れそうだな」
アモンは嬉しそうに言った。
「ほらほら、兄さん、いいから早くトラックに積むのを手伝ってよ」
トラックには小型のクレーンが付いていた。リンシャはそれを操作して、クレーンの先のフックに死体を引っ掛けた。レバーを操作すると、ワイヤーが巻き取られ、バッファローの巨体はゆっくりと持ち上がった。アモンはバッファローが荷台の中央に来るように位置を調節し、無事にトラックに積み込めた。バッファローが荷台に乗ると、その重さでトラックが若干沈んだ。
リンシャは運転席に乗り込んだ。アモンは大盾を取り外すと、荷台のバッファローの上に置いてロープで括りつけ、そして助手席に乗った。
「じゃ、行くよ」
リンシャはアクセルを踏んだ。
「あれ、動かない、何て重たいんだ」
そう言うとさらに強く踏み込んだ。エンジン音が大きくなり、タイヤがやっとの思いで動き始めた。
加速時こそ力が必要だったが、定常走行になればいつもとあまり変わりない。しばらく荒野を走っていくと、地平線に街をぐるりと取り巻く壁が見えてきた。
街に着く頃には日が沈みかけていた。
街の入り口の門には灯りが灯され、王国の兵と教会の兵とが門番をしていた。
「ほら、早くしろ。間も無く日が沈むぞ」
二人が門を通過するとき、教会の兵に声をかけられた。
この世界で広く布教されているエルバート教。太陽を信仰の対象としており、太陽が姿を隠している間は街の外にいてはいけないこととなっていた。そのため、日暮れには教会の兵が門までやって来て取り締まっていた。
リンシャは門を通過すると、すぐにハンドルを左に切った。
車は一般的な乗り物では無く、商業での使用しか認められていなかった。街中への乗り付けはできず、街に入った車はまず壁のすぐ内側を時計回りの一方通行の多車線道路『サークル』へと入る。街は中央広場から放射線状に区画が広がっており、サークルを走り目的の区画まできたらそこで右折して入っていく。街へ入ってすぐ右に目的地があっても、ぐるりと一周しなくてはいけなかった。
しばらく行くと「みどりの太鼓地区入り口」の看板が見え、リンシャはそこを右折した。